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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第2部 俺こそがエンターテイメントだ。
44/75

GTT作戦


「えー。以上が、本作戦『ガリ勉を鳥肉でギャフンと言わせて飛ばす作戦』ことGTT作戦の概略です。」


 静まりきった室内に自身の声だけが響く。

 俺は先程から今回、考え付いた作戦をフィーネ、ドルグ、カイルさんに説明していた。


 それが今、終わっところ…というわけだ。


 その場の3人は、とりあえずとばかりに拍手をする。そして、再び室内は静寂に包まれた。


 見れば、3人はそれぞれ俺の案について検討している様子である。室内には緊迫した空気が流れていた。 


 そんな中、ドルグがふと口を開く。


「ええと…じー、てぃーてぃー作戦?悪くはないんだけど、それだけでガリ勉先輩に勝てるかと言うと…。」

「微妙ね。」

「まっ、微妙だな。」


 口々に文字通り『微妙』と告げるお二方。

 せっかくドルグが言葉を濁してくれていたところに、容赦なくその指摘が突き刺さった。


 予め分かってはいたのだ。おおよそ…彼等のリアクションもそんなところだろうと。


 だが、こうも真正面から微妙と言われてしまうと、ある種の悔しさが胸に満ちていくのを抑えることが出来なかった。そんな思いを吐露するかの如く、俺の口からは愚痴が溢れる。


「…何かが足りない気がする…と言ったじゃないか。」


 元々、この作戦にそこまでの自信があったわけでも無く、それ故にラフきゅんの言葉の意味を考えていたのだ。ある種、当然と言えば当然の結果だろう。


 それは頭の中で理解しつつも、心に浮かぶ失意はかき消すことが出来なかった。


「ま、まぁ…ベースはカンザキの作戦で進めて、何か追加要素を考えてみようよ。」


 そんな俺の様子を察したドルグは、うまく場をまとめにかかる。


「現状…他に案が無い以上、そうするしか無いわね。」

「お前らがそう言うなら、俺は別に構わんぞ。」


 フィーネとカイルさんも賛同の意を示した。


「えっと、それじゃあ…進めます?このGTT作戦を。」


 そして、やや遠慮気味に頷く2人。一方のカイルさんはと言えば、こちらに向かって謎のサムズアップ。

 いまいち、頼りのないが…俺達はこのGTT作戦に命運を賭けることとなった。


 なお、その肝心の作戦についてだが、資材が限られている以上、俺は与えられた鶏肉を小さく捌くことで歩留りを追求する必要があると考えた。

 そのため、鶏肉の販売形態として串焼きを選択。さらに秘密兵器(・・・・)を投入することでガリ勉先輩との勝負に挑むことを提案したのだ。


 とは言え、ガリ勉先輩はと言えば、怪しげな食肉レストランの運営を任されているという。

 果たして、この作戦もどこまで通用するものか…。それを考えると、どうしても前向きな結論を出すことは出来なかった。


 作戦は決まった、だが、いまいち勝機が見えない。

 そんな状況に置かれた俺達の口数は次第に減っていく。


「「「はぁ…。」」」


 終いには事務所内に俺達3人の溜息が重なるのだった。








「何だ何だ!お前ら暗いぞ!!そんなんじゃ勝てるもんも勝てねえぞ!!」


 重い空気の中、俺達を鼓舞するかの如くカイルさんの声が辺りに響く。


「それは…そうですが…。」


 しかし、現状を鑑みるに…俺達にその空元気に付き合う余裕など無い。

 俺は自信無さげに返事をすることしか出来なかった。


 大体、何故この人はここまで元気が有り余っているのだろう。

 若干の恨めしさを感じつつ、俺はカイルさんに目を向ける。


 すると、カイルさんはそんな俺を見兼ねてか、立ち上がるとこちらを指差す。

 そして、これまでにない迫力で俺に向かって宣言した。


「おいおいおい。リーダーがそんなんじゃ話になんねえぞ!カンザキよ!」


「へ?今、リーダーがどうとかって…。」

 

 咄嗟のことに理解が及ばず、堪らず聞き返す。この人は一体、何を言っているのだろうか。

 正直言って、全く理解が及んでいなかった。


 ところが、カイルさんはさも当然かのように、先程と同じ内容を繰り返す。


「お前がこのチームのリーダーだろ?違うのか?」


(俺が…リーダー…?何だそれ!?初めて聞いたぞ!?)


「そ、そんな話。今初めて…。」


 咄嗟に否定の言葉を用意する俺。

 だが、フィーネはそれを遮るかのごとく、その質問に応えた。


「いえ、違いません。カンザキが私達のリーダーです。そうよね、ドルグ。」

「はい。カンザキ以外に、僕らのリーダーは居ないと思います。」


「ちょちょちょ!お前ら、何言って…。」


 予想外の展開に、俺は2人を止めようとする。だが、もはやこの場の3人を抑えることは叶わなかった。


「ほれ見ろ。やっぱ、そうじゃねえか。」

「は、はぁ…。」


(えぇ…。そもそも、今回の対決でリーダーなんて決める必要あったっけ!?)

 そんな俺の内心の叫びを知ってか、知らずか…フィーネとドルグの2名は「よろしく。リーダー!」などと宣う。


「いや、そもそも今回の勝負でリーダーを決めるなんて規定は…。」

  

 何とか、最後の反論を試みる。だが、その言葉はカイルさんという大雑把モンスターの前にはただただ無力であった。


「いいじゃねぇか!同期が揃って推してんだ。必要かどうかなんて、細けえことは気にするな。」


(必要ないなら決める必要もそもそも無くない!?)とツッコミを入れたい衝動に襲われるが、グッと堪える。

 そしてカイルさんは笑顔のまま、俺にとどめを刺した。


「もし、決まって無かったってんなら、今決まった。カンザキ。今からお前がプロジェクト・リーダーだ。」

 

 そう言って、肩をバシバシと叩かれた。こうなれば、もはやヤケクソである。


「はいはい!やってやりますよ!よろしくお願いしまあああああす!!」


 立ち上がり際の俺の叫び声は事務所内に響き渡った。

 先程から騒ぎが過ぎた。きっと、後々苦情が来ることだろう。


 だが、今はそれどころではない。


 定める必要があるのかどうかすら分からない「リーダー」なる役職を理不尽にも充てがわれたのだ。当然、内心は不満だらけである。


 まったくもって理解しがたい状況だ。俺の口からつい不平が溢れるのも道理だろう。

 なお、直接的な原因はカイルさんにある気もするが、それは言わない約束である…世知辛い。


「ったく、2人して面倒なこと押し付けやがって…。」


「押し付けたんじゃない!」


 ところが、そんな俺の消え入りそうな言葉に真剣なフィーネの言葉がぶつけられた。

 不意打ちを食らい、ふと、目の前の彼女を見る。すると、彼女の表情は真剣そのものである。


 俺はその迫力に気圧され、咄嗟に言葉を紡ぐことが出来なかった。

 そして、彼女は続ける。


「これが、私なりに考えた作戦なの。」


 俺はその真意を確かめるべく、言葉を無理矢理に引きずり出した。


「それって、どういう…。」


「貴方には不可能をひっくり返した実績がある。それは新人研修での出来事もそうだし、研修前日の…アレもそう。とにかく!そういうことなの!大学の良くわからない知識でも何でも使って頑張りなさいよ!」


 彼女はやや恥ずかしげに、そう告げた。


「フィーネ…。」


 その様子を見て、思わず俺は彼女の名前を呟く。

 あの時の頬の痛みも、今となってはひとつの思い出と言えるのかもしれない。そう思った。


 すると、今度は別方向からも真剣味を帯びた声がかけられる。


「僕も同じ気持ちだよ。まさかあの状況で盾を引っこ抜いて戻ってくるなんて…誰が想像出来るかな。」

「ドルグ…。」


「だから、もう一回起こして見せてよ。奇跡を。」


 その言葉に、俺は胸の中に温かいモノが満ちていくのを感じた。


 思えばこれまでの人生、全て日陰の中で生きてきた。幼稚園の頃から演劇では村人B、小学校での足の速さも頭の出来も中の中。中高は目立たないよう、それなりにやり過ごした挙句、大学など最低限の登校。そして就活121連敗。


 そんな俺が今まさに、同僚から頼りにされ、先輩社員との対決の指揮を執ることとなっているのだ。

 自分がやらずして、誰がやるのか。


 俺は自身を奮い立たせるべく、その決意を口にした。


「よし!全員、このGTT作戦総司令官、リーダー神崎についてこい!!」


「「「おー!!!!」」」


 先程までの空気が嘘だったかの如く、俺達の戦意は高揚していた。 

 そしてこの時、耳に幾度も聞いた声が届いた…ような気がした。


「やっぱりカンザキは、こうでなくっちゃ。」


 








「ところでリーダー。早速、頼みがあるんだが。」


 作戦会議が盛り上がってきたところで、カイルさんがおずおずと手を挙げる。


「何ですか。」

「喉が渇いた。攻略上がりに麦酒が飲みてえ。飲んでいいか?今!」


 却下である。今は就業中なのだ。アルコールなどもってのほかである。

 社内にいる限りは…だが。


「「「駄目です。」」」

「ちくしょう。分かってたけどな!」


 3人に揃って否定の言葉を返され、そっぽを向くカイルさん。

 言ってしまえば、相変わらずの光景ではあった。


 だが、その相変わらずの光景を前に俺の頭の中に閃きが走る。


(ダンジョン…麦酒…待てよ…。これって使えるんじゃないか!)


 


「カイルさん!それです!」

「お、おう?何がだ?」

 

 唐突な俺の言に戸惑うカイルさん。俺はその勢いのまま立ち上がり宣言する。


「思い付いたんですよ。ガリ勉先輩を出し抜く更なる作戦が!」

「カンザキ、それ本当なの!?」


 間髪を入れずに飛びつくフィーネ。やはり、打倒ガリ勉に燃えているようだ。

 俺は彼女の期待を裏切らないよう、自信たっぷりに返事をする。


「あぁ。少なくとも、勝算は大分上がるはずだ!」


「さすがはリーダー!やるじゃない!」

「いやー凄いね。リーダー。」

「やるじゃねえか、リーダー。後は任せりゃ、もう安心だな!」


 3人とも、微妙微妙と言っていた時がウソのようである。

 なお、いやいや…丸投げかよ!と思わんでもなかったが、それは言わないでおく。


 だが、この作戦には避けては通れない関門が存在するのもまた、事実であった。

 その関門を突破すべく、俺はカイルさんの方を向き、再度頭を下げる。


「ただ、この作戦を実行するにあたっては、カイルさんには一番働いてもらうことになるかもしれません。改めてお願いします。俺達に力を貸してください。」


 そう、この作戦の成否はカイルさんの人柄と人脈に懸かっている。この部分に関しては、俺達に出る幕は無いのだ。


 そして、彼は即座に協力を約束してくれた。


「おう、任せとけ。何でもやってやらぁ!」

「ありがとうございます!」


 これなら、ガリ勉先輩に一泡吹かせることが出来るだろう。

 今からその様を想像すると、頬が緩むのを抑え切れなかった。


(見てろよ。ガリ勉クソ野郎め。)


 すると、その様子を目の当たりにしたフィーネが、恐る恐るといった様子で声をかけてきた。


「ねぇ、カンザキ。貴方、今とんでもなく悪い顔してるわよ。」


 俺は陰湿な笑みを浮かべつつ、その言葉に応える。


「フィーネよ。外道に対抗するには外道に身を落とす覚悟が要るとは思わないか。」


「それは…そうかもしれないけど…。」

「目には目を、歯には歯を。ブラックにはブラックを。」


「は、はぁ…。」


 ポカンとするフィーネ。


「お前、突然何言ってんだ、お前。」

「カンザキ、どうかしてしまったんだろうか。」


 すると、何やら様子がおかしいと、カイルさんとドルグもこちらを見る。

 だが、俺はそれに構わず続けた。


「俺は今、ここに宣言する。GTT作戦あらため、BGTT作戦の開始を!!」


「「「それ、言いにくいから嫌。」」」

 

 容赦なく3方向からツッコミが突き刺さり、自ら提案した新作戦名はあえなく2秒で却下される。あぁ無常。


 こうして、俺達はGTT作戦改め、GTT作戦(改)を携えて、俺達はガリ勉先輩との決戦に挑むこととなった。





 ちなみに、この時の俺の笑顔は過去最高に邪悪だったという…。


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