ヒゲの頼みごと。
「さて、これで諸君らには晴れて企画部での勤務が待っているわけだが…最後に私から一つ頼みごとがある。」
企画部での勤務を承諾した俺達に対し、ヒゲはそう告げた。
その依頼の内容は不明ながらも、その場のある種の逼迫した空気は、俺達が首を横に振ることを許さなかった。
「た…頼み…とは。」
ただならぬ雰囲気に俺は何とか声を絞り出す。するとヒゲは、小さく頷くと…床に泡を吹いて倒れるラフきゅんを指差した。
「そこのだらしの無い男が現在、企画部を仕切っているのだが…近年は、それ故の弊害が出ている。分かるか!カンザキ!」
「はい!分かりません!」
ヒゲの詰問に対して、俺は躊躇うことなくハッキリと答える。分からんもんは分からん。
「ならば説明してやろう!端的に言って…当社、いやこの男のダンジョン活用は、何かがおかしいのだ!」
先程より力を込めた様子で、床に寝そべるラフきゅんを再度、指差すヒゲ。だが…その一方で当の企画部長は相も変わらず、大の字で泡を吹いている。
「な…何かとは…。」
ドルグは恐る恐るヒゲに問い返した。すると、ヒゲは静かに答える。
「それは、実際に見てみるのが一番早いだろう、だが敢えてこの場で言うとするならば…。」
そこで息を吐き出す。そして、これでもかという程にラフきゅんをこき下ろした。
「こいつのダンジョン活用は非常によろしくない。奇抜で、適当で、利益が無い!」
(もうやめて!ラフきゅんのライフは0よ!)
そんな、俺の内心を他所に、ヒゲは話を続ける。
「それでだ…。諸君への頼みとは他ならない…今回の研修を通して、企画部の内情を把握…そして、可能な限りのダンジョン企画運営の改善を頼みたい!」
ただでさえ企画部にいきなり放り込まれて戸惑っている俺達に、さらなる難題が吹っかけられる。
だが、先程のラフきゅんへの手刀を見た時から、3人共…既に答えは決まっていた。
「「「はい!喜んで!!」」」
俺達は声を揃えて返事をする。
「うむ、期待している。」
それを受け、ヒゲは満足気に頷いた。
そして、ヒゲはラフきゅんを右肩に背負い部屋を出ていく。その際に「この話は聞かれる訳にはいかんからな…。」と、こぼしたのを俺は聞き逃さなかった。
最初からラフきゅんが気絶させられる運命にあったのか…はたまた、たまたまその場で気絶させられたのか…それはヒゲのみぞ知ることであるが、いずれにせよ…あまり逆らわない方が身のためである、それを再認識させられた一日であった。
こうして俺達は企画部での勤務に加えて、スパイ的活動まで要請されてしまったのである。
「また無茶振りかよおおおおお!!!」と俺の中のリトル・カンザキが雄叫びを上げたのは言うまでもない。




