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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1.5部 我が光球を見よ。
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我が光球を見よ。 ②

 本部の営業事務所に戻ると、そこにダルイ先輩の姿は無かった。

 見れば、これからダンジョン攻略に向かうのであろう営業部社員は、皆準備を進めている。

 

 そこには俺と同期であるところのフィーネとドルグも含まれていた。

 不意にフィーネと目が合いそうになるが、咄嗟に視線をずらす。


 ここ数日で開いた差をどうしても意識してしまい、俺は同期連中と目を合わせることが出来なかった。


 今日もどうせ留守番なのだ。いや、下手をすれば今後、ずっと本部での留守番を課せられるかもしれない。


 そうなれば、俺はこの先もずっとお荷物として扱われることになるのだろう…。


「さて、そんじゃ…ヒゲから指示されたのはここだな。」


 そんな俺の思考を遮るように、カイルさんの声が聞こえてくる。


 そちらの様子を窺うと…準備を終えた同期二人は地図を広げ、カイルさんと打ち合わせをしていた。

 どうやら、今日はこの三人でどこかへ向かうようだ。


 その光景を見ていて、ふと思う。


 俺は異世界まで来て、またも外に出ることも出来ないのかと。そして、また周囲から置いて行かれ、一人同じ場所に留まり続けることになるのか…と。


 そんな、腐っていた頃の感情を思い出してしまい…どこかやるせない気持ちになった俺は、一人机に突っ伏した。


 暗闇に身を任せるのは酷く心地がよい。一人なら誰にも置いていかれないのだから。


「おいおいおい!よく見たらここ、洞窟じゃねえか!マジックランタン充填してっかお前ら!」

「いえ…。」「言いにくいんですが…カイルさんが明日は明りは大丈夫だと…。」


「…マジかよ…。げっ、もう魔法使(ソーサラー)い全員出払ってるし…。そうなるとマジメ女に頭下げないかんのか…ぐあああああ、嫌だ…。」

 

 周囲にカイル先輩の声が響く。正直うるさいが、先輩である以上指摘するわけにも行かない。

 早く居なくなってくれ。俺は閉ざした視界の中で、一人そう思う。


「ハッ…相変わらず単細胞だなテメェは。新人共はともかく…何年攻略やってんだ。」

 すると、どこからか現れたのであろう、ダルイ先輩の声が聞こえてきた。


「あん?俺は今に生きてんだ。過去のことは気にしない性分でな。」

 …相変わらず喧嘩っ早い二人である。


「フン、馬鹿が。だが、丁度いい。おい、脳筋単細胞。こいつを使え。」

「いや、それはヒゲがキレんだろ。」


「ヒゲの許可ならさっき取ってきた。洞窟照らすくらいなら出来るだろ。」


 何やら、先輩二人で言い争っているようだ。

 いずれにしても、それは俺とは関係の無い話。さっさと終わってくれないかと思う。


「なんだ。それなら問題ねえな。んじゃ、ありがたく…。」


 カイル先輩がそう言うと、場に静寂が訪れる。どうやら決着が付いたようだ。

 ようやく静かになった…そう思うと安堵の気持ちがこみ上げてくる。


 だが、それも束の間…俺は頭頂部に鋭い痛みを感じ、次の瞬間には視界にまばゆい光が飛び込んできた。

 

「…おいカンザキ、テメエいつまで寝たふりしてやがる。」

 先輩が耳元で囁く。


 どうやら俺は、塞いでいた頭をダルイ先輩に無理矢理に引っ張り上げられたらしい。


「ひ、ひゃい。って…痛い!先輩痛い!髪持たないで下さい!!」

 突然のことに、俺は情けない声を上げてしまう。そして、フィーネと目が合った。


 始めは神妙な面持ちだったが、俺の様子を見て緊張の糸が切れたようだ。

 両手を口に当て、必死に笑いをこらえている。


「フン。」


 それに気付いたダルイ先輩が手を離す。


(くそっ、あの女。覚えとけよ。)

 俺は心のなかで静かに復讐心を燃やした。


 そして、カイルさんは俺の机まで来ると…。

「そんじゃま、カンザキ。今日はよろしく頼むぜ。」

 そう言って、肩をバシバシと叩いてくる。


 状況が分からず、ポカンと口を開ける俺。


 すると、ダルイ先輩は静かに口を開いた。

「普通の魔法使(ソーサラー)いなら、基本魔法3属性を扱えないと、本格的なダンジョン攻略は難しいとされている。」

 

「それならお、私は…。」


 駄目じゃないですか…と言おうとしたところをダルイ先輩に遮られる。

「だが、お前には『呪文』がある。半人前でも呪文が扱える以上、早々に実戦に慣れてもらう必要がある。…そういう判断だそうだ。」


 

「ってなわけで、今日は同行頼むぜ。カンザキ!」

 淡々と語るダルイ先輩、そしてカイルさんは相変わらずバシバシと肩を叩いてくる。


「はい!よろしくお願いします!あと痛いです!」


 誰かが必要としてくれた。そして、同期達とまた並んで進むことが出来る。

 そう考えると、さっきまで落ち込んでいたのが馬鹿みたいに思えてきた。力不足であろうと、やれることはやるだけだ。




 


「お、お待たせしました。」


 俺はすぐに準備を整えると、これからダンジョンへと旅立つ四人の元へと駆け寄る。

 そして、同期二人は俺の顔を見るなり、思い切り噴き出した。


「…にしても、また『ひゃい』って…貴方ね…フフッ」

「フィーネ…あんまり笑ったら悪いって…ププッ。」


「お、お前らな…。」

 何ともバツが悪い。俺は床を見て羞恥を押し殺した。


 すると、頭上から声が響く。


「おっ、何だか楽しそうじゃねえか。いいねぇ、俺も混ぜろや!」

 気付けば、何故かカイルさんまで乱入。何故かやたらと背中を叩かれた。


 やっぱり痛い。


「…いいからさっさと行け!テメェら暑苦しいんだよ!」


 唐突に怒声が響き渡った。


 どうやら、今まで耐えていたダルイ先輩の堪忍袋の尾が切れたらしい。









「ったく、うるせえな。言われなくても出ていくっての。」

 事務所を追い出された俺達は、エントランスへと向かっていた。


「あの、それで今回の目的地は…。」


 詳細を聞かされていない俺は、おずおずとカイルさんに尋ねる。

 すると、笑いながら彼はこう答えた。


「決まってんだろ。ダンジョンだ!!」





-------------------------------------


 遡ること前日。

 ターナーズギルド寮の一室で、二人の女が大量のホーホー鳥の串焼きを前に苦悶していた。


「あの店主…たかが人に声をかけるという仕事だけで、ここまで押し売りするのか。」


 既に二人併せて20本以上は同じ串焼きを口にしただろうか…だが、まだ半分以上残っている串焼きは、テーブル上で圧倒的な存在感を放っていた。


「仕方ないのですよ。メガ…メルガーネス部長、店主は外見だけで判断し…カンザキに特徴の近しい人間には、片っ端から声をかけていたのですから。」

「まぁ、そう正論ばかり言うなよ。マジルメーゼ君…そんなことでは婚期が更に遅くなるぞ。」


「…貴方も独身では…。」

 マジルメーゼは聞こえないように、小声で愚痴る。


「何か言ったか。」

「…いえ、何も。」

 

 特に何もなかったかのように取り繕う。

 事務部に配属されて5年。メルガーネスの側近として働いてきた彼女にとってそれは、日常の動作そのものだった。


「まぁ、あの凡庸な見た目ではそうなるのも仕方あるまい。しかし…これは夢にまで見そうだ。」

 そして、かけていた普通のメガネを外し、ソファーに横になるメルガーネス。すると、年齢を感じさせない艶かしい肢体の一部が露わになる。


 この場に男が居れば、その姿から視線を外すことは困難だったであろう。女であっても魅了されるものも居るかもしれない。


 だが…マジルメーゼにとっては、それも既に日常と化した光景であった。


「それなら…他の部署の皆さんにおすそ分けすればよろしいのでは。」

 彼女は、気にも止めることなく、串焼きの処分方法を提案する。

 だが、ギルドの帳簿を握る、守銭奴たる上司の返答は分かりきっていた。


「嫌だ、それだけは嫌だ。」

「強情ですね…。」

 フン、と鼻を鳴らすメルガーネス。


「…では、残りは朝食に致しますので。」

「朝から重いな…だが、仕方ない。」


 淡々とマジルメーゼは残った串焼きを、保存効果のある葉で包み貯蔵庫へと入れる。


 作業を終えた彼女は、寝転ぶ上司の向かいに座った。

 そして、胸の内側に仕舞い込んでいた疑問を口にする。


「しかし、代替物として彼にあの店主の禿頭を見せたのは、一体何故なのですか。」

 イメージとは生モノといってもいい。当然、直近で見たものの方が影響力は強くなる。


 それを分かったうえでの行動だとすると、どうしても腑に落ちなかった。


 効率が悪すぎる。(現に今、大量の串焼きに苦労しているわけだが…。)


「あの営業部の新人が光魔法を発動するたびに店主の禿頭を想像し、苦悩したら楽しいじゃないか。」

 だが、その疑問を寝転がりながらハハハと笑い飛ばす、メルガーネス。

 

「そもそも、代替物が必要になる前に、光魔法が発動出来れば良かったのだ。半分は彼の責任だろう。」

「…相変わらず、意地の悪い。」


 そう言うとメルガーネスは体を起こし、二人は必然的に向かい合う形になった。


「ラインフォール程とは言わないが、世の中に楽しみは必要だと思うぞ、マジメちゃん。」

 

 楽しげな様子で話すメルガーネス。

 一方で、あまり好きでは無いあだ名を呼ばれ、彼女はムッとする。


「そうですね、メガネ。」 

「まあまあ、そう怒るなよ。ほれほれ、こうしてやろう。」


 意趣返しのつもりで上司につけられたあだ名を口にするが、気付けば何故か頭を撫でられていた。

 メルガーネスもまた、マジルメーゼとは長い付き合いであることから、その弱点は知り尽くしていたのである。


 部下を懐柔したメルガーネスは、外を見ると一人口元を歪めた。



「さて…この貸しは大きいぞ。ダルバイン君、そしてヒルゲール。」

 

 そう言うと、事務部長は高らかにに笑い声を上げた。




「やはり、意地の悪い…。」

 それを聞いていた、マジルメーゼは小さく呟く。

 

 その声が届いたかどうかは定かではなかったが、メルガーネスはふと思い出したように告げる。


「そう言えば、今回の変装…有能メガネか。アレは良かったな。」


 その瞬間、マジルメーゼの表情が凍りつく。

 命令だったからこそ、キャラを全力で演じきったものの、あの変装は完全に彼女にとっては黒歴史であった。


「来月もやろっか、アレ。」

「…。」


 死刑宣告に等しい上司からの命令に、二の句が継げないマジルメーゼ。


「準備しておいてくれよ!有能メガネ2号!」


 

 彼女にとっての現実は、どこまでも非情だった。




第1.5部   我が光球を見よ。  〜 完 〜

ちょっとした短編、終わりです。

しかし、『ちょっとした』という言葉の意味を自分自身、見つめ直す必要がありそうです…。

すいませんでした。思った以上にメガネが喋り倒してしまいました。


今度こそ本当に第2部始めるつもりですので、よろしくお願い致します。

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