我が光球を見よ。 ①
「さて…お前の悪足掻きでも見てやるか…。」
人気のないギルド本部の裏手で、ダルイ先輩は気怠げに告げる。
「分かりました…。」
俺は一言だけそう答えると、昨日覚えたばかりの手順をなぞる。
精神を集中し、手のひらに力を集める感覚。そして、誠に不本意ながら例の店主の禿げ頭を想像。
それから数秒後…。
「ハッ…やるじゃねえか。」
珍しく感心したようなダルイ先輩の声。
確認のために目を開けると、そこには眩いばかりの光球が浮かんでいた。
光魔法習得の期限である今日、俺は本部に到着するやいなやダルイ先輩に手を引かれ、本部の裏手へと連れてこられた。
曰く「怠いことはさっさとすませるぞ。」とのことである。
人の進退を『怠い』の一言で済ませてしまうのはいかがなものかと思うが、先輩命令である以上は従わざるを得ない。
そして、俺は見事先輩の前で光魔法を披露し、課題を達成したというわけだ。
昨日のトンデモな出来事から何度か試したが、想像における禿頭の力は相も変わらず覿面である。
「まぁ、こっちも必死でしたから。」
「そらまぁ…おつかれさん。」
「いえいえそんな。ハハハ。」
思えば、先輩から初めて褒められたような気がする。俺はニヤケ面を隠せなかった。
そんな俺を見た先輩は「お前…顔気持ち悪いわ。」と脇を小突いてくる。正直痛いから止めて欲しい。
しかし、これでようやく俺も華々しく一人前としてデビューが飾れるということに…。
「…それじゃ…次は三大基本魔法の残り2つ。炎と氷の魔法だな。」
ならなかった。
希望を一瞬にして打ち砕くダルイ先輩の一言。
「ハ…ハ…ハ…一体何でしょうか。それは。」
俺は引きつった笑いを浮かべるしか無かった。
思い起こせば、ダルイ先輩は光魔法ではなく、基本魔法さえ使えりゃ云々…と言っていた気もする。
「というか…なんだそれ!?初めて聞いたよ、聞いてないよ!三大基本魔法!?炎と氷!?そんなの聞いてないよ!」と内なる声が叫びを上げる。もちろん、外部に漏らすわけにはいかない。
俺は壊れたおもちゃのように、その場でハハハ…と乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。
そして、背中を伝う冷や汗。
「…とりあえず、もっと勉強しろや、新人。」
ダルイ先輩は深くため息をつく。
つまるところ…光魔法はゴールではなく…基本魔法習得における、ただの始まりに過ぎなかったのである。
「なんというかその…すいません…。」
勉強不足を指摘され、俺は素直に謝罪する。
「炎が扱えれば、道中でも調理が容易になり、保存食も作成出来る。氷を扱えれば怪我人の処置の役に立つ。」
最後に、光魔法は言うまでもないだろ。と付け加え、ダルイ先輩は各属性の魔法の用途について説明してくれた。
「ありがとうございます。ただ、道のりは長そうですね…。」
先のことを想像し、肩から力が抜ける。5才児でも扱えると言われる光魔法であそこまで苦労したのだ、炎・氷の魔法を共に習得するとなればどれだけの困難が待っているのだろうか…。
「…頑張ってはみます…。」
気が重いながらも、俺はそう返答をする。
すると、ダルイ先輩はそんな俺の肩に手を置く。
突然のことに戸惑った俺だったが、先輩は俺の杖をチラリと見ると…。
「だがまあ、お前には普通の魔法使いには無い、武器があるからな。」
それだけを言い残し、静かにその場を去っていった。




