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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1.5部 我が光球を見よ。
32/75

とある一日

第2部の前に、ちょっとした短編です。


挿絵(By みてみん)

「光れ!光よ!」


「うおおおおお、光れええええええ!!」


「お願いですから、光って下さい…ほんと…助けてください。」


 何を言おうとも、俺の手の平に光球は現れなかった。

 ふと馬鹿馬鹿しさを感じた俺は、ベットの上に体を投げ出した。もはや、見慣れつつある天上がそこには広がっている。


 あの衝撃的な研修を乗り越え、『新人研修お疲れ様会兼、カンザキ復帰おめでとう会』から早くも一週間が経過していた。入社から換算すると、二週間が経った計算となる。


 世間は週末を迎えていた。


 当社の営業部も週末は基本休みであり、俺もその例に漏れずにスケジュールの上では休みとなっている。(ただし、週休二日制であり、完全週休二日制では無いところが憎い。)


 そして、その休みを利用し、俺は以前にロリ店主に披露された光魔法の習得に向けて一人、部屋での特訓を行っていた。だが、この特訓も既に開始から五日目を迎え、習得期限はすぐそこまで迫っていた。


 クソッタレ女神の発言によれば、俺も魔法が使えるようになったはずだが、それらしい進歩は一切見られなかった。


「あー、もうやってられるか、ちくしょう!」

 俺は声を荒げる。普段であれば、今頃壁ドンの嵐に晒されていることだろうが、その様子も特には無かった。貴重な休日、朝早くから営業部の面々は皆外出しているのか…午前中にも関わらず寮の中はひっそりとしている。


 そんな中、何かが走る音が聞こえた。ふと体を起こし目を向けると、窓からギルドの馬車がこちらに向かって走っているのが見える。

 だが、それも見飽きた光景だった。朝からもう既に5台は通過していくのを見送っている。そして、それらはみな企画部の馬車であった。

 

 営業部は基本的に週末は休みだが、企画部にとっては休日こそが一番の稼ぎ頭であり、朝早くから担当の面々はそこかしこを走り回っているのである。曰く、シフト制で動いているとのことだ。


 きっと、攻略済のダンジョンまで街の方々を送迎するか、資材の運搬でもやっているのだろう。


「ヤバイ、ヤバイっす!このままじゃ遅れるッス!!」

「やかましい!前見ろ前、馬車ぶつけたら承知しねえからな!」

「元はと言えば、先輩が余裕余裕とか言って、出発時間遅らせたからじゃ無いッスか!!」

「うるせえ!!とにかく安全運転で飛ばしていけ!!」

「んな、無茶苦茶な~!」

 

 そして、寮の前を通る際に、馬車を飛ばす企画部内のやり取りが聞こえてくる。

 どこの部署でも先輩の無茶振りは変わらないようだ。


「なんともまぁ、お疲れ様です。」

 俺はまだ、殆ど顔を合わせたこともない企画部の面々に合掌した。


「しかし…俺は、一体何やってるんだろうな…。」

 自嘲気味につぶやく。すると、ふとここ数日の記憶が蘇ってきた。







 『新人研修お疲れ様会兼、カンザキ復帰おめでとう会』が催された翌日、フィーネとドルグは早速先輩方に声をかけられ、ダンジョンへと同行していった。


「悪いわね、お先。」

「それじゃあ、ちょっと行ってくるよ。」


「おう、いってらっしゃい。」


 俺は二人をホールから見送った。


 そして、ついに自身も先輩方とのダンジョン攻略かと気合を入れ直す。だが、待てども待てどもお呼びの声はかからない。少々、違和感を感じつつも俺は声が掛かるのを待ちわびていた。 


 そんな中、遂にダルイ先輩から声を掛けられる。


「…おい、カンザキ。」

「はい!」


「…うわ、無駄に威勢いいな、だりい。」

「なんでしょうか。」


「お前は居残りな…俺と。」

「へ…。」


 こうして、俺は留守番役となった。考えようによっては、気楽な仕事である。基本的には待っていればいいだけなのだから。


 だが、それは大きな間違いだったと、すぐに気付かされた。

 ダルイ先輩と二人きりという状況が、思った以上に辛かったのだ。


「…。」

「…あの、先輩。」

「…んだよ。」

「この書類は…どこに…。」

「怠い。そこら辺に適当に置いとけ。」

「あ、はい…。」

「ってか、勝手に弄るな。後がだりい。」

「…はい。」

「…。」


 初日のやり取りなど、この程度のレベルである。先輩の言うことはもっともだが、そうなると思った以上にやることが無い。人間は忙しすぎても、暇すぎてもいけないのだと実感した。


 ちなみに当社では、一人一セットの机と椅子が貸与されるのだが、気付けばほぼそこに座っているだけで時間が経過していくのだった。


 気まずさと退屈に耐えかねた俺は、何か自分自身で出来ることが無いかとダルイ先輩に尋ねる。

 そして、返ってきた答えは「…魔法の練習でも勝手にやってろ。」というものだった。

 

 予想外の答えに俺が戸惑っていると…。


「…いくら呪文が使えようが、光魔法もまともに使えない魔法使(ソーサラー)い、いや大魔導(ロード)に価値など無い。」

 ダルイ先輩ははっきりと、そう告げた。


「それは…どういうことですか。」

 咄嗟のことに俺はダルイ先輩を問い詰めていた。

 すると、先輩は気怠そうに頭を掻きながら、悪態をついた。


「ったく、怠い役目ばっか押し付けやがって、あのクソヒゲは。」


 


 それから、ダルイ先輩は新人の中で俺だけが本部に残された理由を教えてくれた。

 

 要は、魔法の基本もままならないために、営業の現場には送り込めないという上の判断があったこと。そして、俺が魔法を習得出来なければ今の状況は変わらないということ。


「まぁ、基本魔法さえ使えりゃ引っ張りだこだ…頑張れや…。」

「そうですか…。」


 先輩はそれらを話終えると、俺を励ましてくたようだった。


 理由としては至極真っ当なものである。思えば、俺は偶然に手にした天使(ジジイ)達の力で呪文を放っただけに過ぎない。


 本来の魔法使いの役目であるサポートが出来ず、いざとなったら呪文を発動出来る。それだけの理由で基本足手まといとなる存在を連れていけるはずもなかった。

 それも、呪文を発動すると気を失う可能性アリとまできたものだ。パーティとしては使いにくい人材にこの上ないだろう。


 自分の中で、基本魔法の習得についての重要性を改めて理解出来た。すると「最後に。」と前置きをしてから、ダルイ先輩は無慈悲にも期限を宣告した。


「ちなみに、期限は来週までだ…。もし達成できなかったら。」

「出来なかったら…。」

「…アハ。」


 そして、不気味に笑う先輩。

 こうして、俺は光魔法習得のため特訓を重ねざるを得ない状況へと追い込まれたのだった。


 




 そして現在、あれから四日が経過した。期限はもう翌日に迫っていた。

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