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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1部 新人営業のススメ。
26/75

それぞれの選択

 ハァハァ…。


俺の荒い息が最奥部にこだまする。

 扉は既に眼前に迫っていた。目指す地点はすぐそこだった。


「悪いな…。二人とも。」


 俺は、後ろを振り向かないように進んだ。そして、遂に息を切らせながらも扉へと辿り着く。


 扉は相も変わらず、ゆっくりとドルグの盾を変形させていた。


「ここを越えれば…きっと生きて出られる。」


 一人呟く。


 そして、その盾を---。







「うおりゃあああああ!!!」



 俺は渾身の力で引き抜いた。

 形は大分歪んでしまっているが、かろうじて盾としての役割を果たすことは出来そうだ。


 そして、枷を外された扉が音を立てて閉まる。退路は完全に塞がれた。

 

 だが、これでいい。


「もう…逃げない!」

 自分自身に言い聞かせるように、改めて声に出す。

 俺にはこれ以上、耐えられなかった。


 仲間の足手まといとなることが…!

 仲間に認めてもらえないことが…!


 盾を抱えた俺は再び仲間の元へと駆け出す。メインの武装を失った仲間へと、届けるために。

 

「待ってろドルグ。今、盾を返しに行くから…!」


 そして、前方を見るとフィーネとドルグがゴブリン共に包囲され、今まさに攻撃を受けていた。

 その窮地に向かって走り続ける。


「死ぬなよ、フィーネ!!」


------------------------------------------------

 



 状況は防戦一方だった。

 ゴブリンの数が余りに多く、攻撃をする隙が見当たらない。


 そして、ずる賢い彼等は私達を取り囲むように移動を行う。

 何とか、ゴブリンの攻撃を防ぐので私たちは手一杯だった。


「参ったわね。これじゃ攻撃する隙も見当たらないわ…。」

 背後を取られないように、自然と私とドルグは背中合わせでゴブリンに抵抗する形となる。


「間違えて僕のこと攻撃しないでね。」

「ふふ、誰にモノ言ってるのよ。」


 あまりに過酷な状況に際し、軽口を叩き合う私とドルグ。


「ッシャアアアアアア!!」


 すると、ゴブリンの内の1匹が咆哮する。そして、図ったかのように全てのゴブリンが一斉にナイフを構えだした。


「これって…。」


「まさか、一斉に飛びかかろうってんじゃないでしょうね…。」

 

 ゴブリンの動きを乱すために突きで牽制を行う。だが、冷や汗はとめどなく流れ出る。

 脳裏に浮かんだのは、どこまでも明確な死のイメージ。


 しかし、そんな中でこちらに向かってくる人影を見つけた。

 

 あれは…!




------------------------------------------------




「バカ!!なんで戻ってきたの!!」

こちらに気付いたフィーネが、ゴブリンを牽制しながら声を上げる。


「守るって…誓ったから…な!!」

俺は走りながらも、途切れ途切れに答える。


「ドルグ…盾…持って来たぞ!」

「えぇ…。」


 困惑するドルグ。


「受け取れえええ!」

 

 そして、ゴブリンの一団に接近した俺は思い切り盾を投げつける。

 ややあさっての方向へ飛んだ盾は、フィーネに飛びかかろうとしたゴブリンに直撃した。


 衝撃を受けたゴブリンは、ふらつきながら倒れ込む。


「おっ…ラッキー…?」


 呆気にとられるゴブリン達。


「今よ!!」

 

 その隙を突いて、フィーネの剣が近くのゴブリンの腹部を切り裂く。

 

 そして、ドルグもその隙に盾を回収。


「うおおおおおおおおおおお!!!」

 大剣で倒れこんた一匹を叩き潰した。

 ゴブリン、残り18匹。


 さらに、瞬く間に仲間を2匹失ったゴブリンの群れは混乱に陥った。 

 その隙をついて、二人は包囲網から抜け出す。


「貴方、本当に馬鹿なんじゃないの。」

「仲間を見捨てるくらいなら、馬鹿で結構!!」

「まぁまぁ、それにしても盾が大分曲がっちゃったなぁ…。」


 そしてここに、ターナーズ新人パーティが再集合した。

 二人とも、装備は既にボロボロだった。








「それで、この数相手にどうするの?」

 フィーネがこちらに問いかける。


 ゴブリンとの距離は3メートル程だが、先の混乱は収まりつつあった。こちらを警戒し、やや距離を取っているように見える。


「もう、奇襲は通用しないよ。」

 ドルグも真剣な面持ちでこちらを見る。


「…呪文だ。もうそれに賭けるしかない。」


「でも…それは…」

 ドルグが気まずそうにする。


「…頼む。俺を信じて欲しい。」


 俺は真剣な声で二人に頼む。そして…。


「分かったわ。」


「フィーネ…。」


「私に見せてよ、本物の呪文ってやつを。」

 かつて大魔導に憧れた少女は、そう答えた。


「任せとけ!!」

 俺はそう、言い放つ。

 覚悟は決めた。やってやるさ。ここでやれなかったら死ぬだけだ。


 俺は2人を背に…杖を構える。杖の先に、光を集めるイメージ…。

 そして思い出す…第一の呪文の文言を。


「第一の呪文。それは汝の敵を貫く光の刃…。その力の源は汝の強き意志に他ならない。汝が今、最も強く欲するところにその呪文は現れるであろう。」


 俺から何かを感じ取ったゴブリンが1匹、こちらに飛び掛かってくる。後ろからフィーネが飛び出し一刀に斬りつける。

 浅い…。ゴブリンの致命傷には至らず、斬撃の隙を突いてフィーネに攻撃を加える。


「痛っ…!」


 それを見たドルグが盾でゴブリンを吹き飛ばし、声をかける。

「大丈夫!?」


 そして、フィーネは膝を付く。その腕からは鮮血が流れ出していた。


「大したこと無いわ…。それよりカンザキ!!まだなの!!」


「もう少しだ!!もう少し耐えてくれ!」


 俺の欲するところ…それは…


『お前は特別な存在なんかじゃない。』

 その瞬間、かつて夢の中の魔物の台詞が頭を過ぎる。


 あぁ…分かってるさ。


 俺は世界にとっては凡人だ。特別な存在なんかじゃない。


 それは認める。


 でも、今、この場で…。


 この二人の仲間に…。


「特別だと認められたい!!俺は女神より呪文を与えられし大魔導!!大魔導カンザキだ!!」


 自身の恥ずかしさ全開の叫びに呼応して、杖の先に光が迸る。


「ちょっとおお!!」

「うおおおおおお!!」


 とっさに叫びながら左右に回避行動を取るフィーネとドルグ。


 視界良好、障害物なし。俺は、ありったけの力を込めて呪文を放つ。


「クロス・レイ!!!!」

挿絵(By みてみん)


 それは、純粋な光の暴力だった。

 幾重にも分かれた光の刃が杖の先から放たれ、誘導弾のようにゴブリンの全身を一斉に貫く。


 声を上げる間も無く、殲滅されるゴブリン達。

 そして、光が姿を消した後に残っていたのは18匹のゴブリンの死体。


 先程、倒した数と合わせると20の屍だ。目を背けたくなる光景だった。


 だが、俺達は勝った。生き残った。

 生き残って、間違いなくゴブリン20匹を倒したのだ。


「やっ…た…。」





 そして、徐々に目の前が霞む。フィーネとドルグの二人が何やら騒いでいるようだが、それもどこか遠い場所の出来事のように感じられる。


 あれだけの威力の呪文を使ったのだから、この消耗もひどく真っ当なものに思えた。

 

 だが、まだだ…。

 まだ、このダンジョンの攻略は終わっていない…。


 俺は何とか意識を繋ぎ止める。


 所有権を獲得するまでは気を失う訳にはいかないのだ。杖をつき、何とか台座へと向かう。

 しかし、身体は限界だった。その場で耐え切れず、膝を付く。


「もう、動けねえ…。」

 

 俺は前方へと倒れ込む…はずだった。


「あれ…?」


 いつまでたっても、衝撃は訪れない。

 左右を見れば、気付けば俺は同期達によって両肩を支えられていた。


「まったく、最後くらいシャンとしなさいよ!」

「ほら、後少しだ。一緒に頑張ろう。」


「…すまん。」


「いいから、さっさと行くわよ。」


 そして、俺は仲間の助けを借り、一歩ずつ歩み始める。

 すぐそこに所有権(ゴール)があると信じて…。

また、キリのいいところまで気合で更新しました。

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