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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1部 新人営業のススメ。
25/75

最奥部にて

 重たい扉を三人がかりで何とか開けると、そこは広いホールのような空間になっていた。

 中はマジックランタンが灯してあり、様子を伺うことができる。そして、左右には人が何とか通れる程度の穴が開いており、奥には台座が据えられていた。


 簡素な作りだが、どこか人為的なものを感じる。自然と言葉が口をついて出た。


「これが…最奥部。」

「やっぱり、他とは様子が違うね。」


 何となく、感慨にふける俺とドルグ。


「そう言えば、どうしたら所有権を獲得出来るのか分かる?」

 ふと、フィーネが疑問を口にする。


「ダンジョンの主ってのを倒せばいいんだろ?要はボス戦ってわけだ。」

 俺は以前、ヒゲが言っていた内容を口にする。


「それはそうなんだけど、倒した後どうすればいいかとか…そういうことよ。」


 あ…。


 確かに俺達は、ダンジョン攻略の具体的な達成方法を聞かされていない。分かっているのは、主が居た場合には、それを倒すということだけだ。

 いやいや、ダルイ先輩…説明不足でしょ。


「とりあえず、あの台座のところまで進んでみようか…。」


「そうだな…。」

「異存は無いわ。」


 他にアテも無く、俺達はドルグの言葉に従うことにした。

 そして、部屋の内部へと足を踏み入れる。すると、唐突に扉が音を立て始めた。

 

 何かと思い、後ろを振り返ると扉がゆっくりと閉まり始めている。


「まずい!退路が!!」

 俺は咄嗟に声を上げる。


「これで…どうだッ!!」


挿絵(By みてみん)


 ドルグが一対の扉の間に盾を突き立てた。凄まじい金属音が周囲に響く。

 そのまま数秒間、扉はなおも閉まろうとするがドルグの鋼鉄の盾がそれを阻む。

  

 しばらくすると、扉はその動きを止めた。

「ふぅ、何とか退路は確保できたかな…。」

 

 盾が間に挟まることで、一時的に閉扉を食い止めることに成功したのだ。

 だが、盾が軋む音も同時に聞こえてくる。余り時間的猶予は無さそうだが、仮止めにせよドルグの功績は大きい。


「サンキュー、ドルグ!お前やっぱ凄いよ。」

 俺はドルグの健闘を称える。


「まぁ、間一髪セーフってやつだったね…。」

 大きく嘆息するドルグ。


「ねえ、それよりもあれを見て…。」

 だが、そんな中フィーネは緊迫した様子で前方を指差す。


「何だよ、折角、漢ドルグの勇姿を讃えているところだというのに…。」

 そして、フィーネの指示に従い、前方を見渡すと…そこには更なる苦難が待ち構えていた。

 緑色の化物、ゴブリンがこちらを凝視していたのだ。


「えっ…嘘でしょ…。」


 ドルグからも思わず声が漏れる。その原因は、数にあった。

 前方のゴブリン、その数およそ20。先のゴブリンの単純に20倍の戦力がそこには展開していたのだった。


挿絵(By みてみん)

 

「でも、さっきまで何も居なかっただろ…。」

 つい愚痴る俺だったが…。


「恐らく、あの左右の穴から湧いてきたのよ。」と、知りたくもない事実をフィーネから聞かされる。


「へえ、陰気なことで。」

 つい俺はゴブリン達を皮肉る。人語を理解しているかどうかは怪しいところだが…。

 

 そうこうしているうちに、醜悪なモンスター達は、こちらへ向かってにじり寄って来た。

 一方で後方を見ると、ドルグの盾が音を立てて徐々に変形していくのが見える。


 選択を迫られる俺達。心臓が激しく鼓動し、冷や汗が流れ出る。


「おいおい、これって相当ヤバイんじゃないの…どうするよ。」

 

 俺は同期達に意見を求める。


「…。」


 だが、返事は無い。


 その静寂の中でフィーネが剣を構えるのが見えた。


 そして…。


「貴方は、逃げなさい…。ここは私が何とかする。」


 彼女は前に歩み出て、静かに俺に言い放つ。


「な、何言ってんだ!そんなの!」

「死ぬわよ。」

「そ、それなら全員で!」


「ゴブリンはきっと…私達が背を向けた途端に襲ってくるわ。」


 一匹でも俺の足を絡め取ったずる賢さを考えると…その予想は間違い無いように思えた。


「ま…まだ他に手があるはず」

「足手纏いなのよ!!魔法も呪文もまともに使えないくせに!!」


 俺の声に割り込むようにフィーネが声を荒げた。


 確かに俺は足手まといかもしれない、だがパーティメンバーを置いて一人逃げるなんて、そんなのは…。


「行ってくれ。カンザキ。」

 

 そして、葛藤する俺に優しく語りかけるもう一つの声。


「…ドル…グ…?」

 気付けば、肩に手を置かれていた。


「盾が無いのは痛いけど…鎧と剣だけでも時間くらいは稼げるさ。フィーネも一緒だしね。」

 そう言って、ドルグは大剣だけを携え俺の横を通り過ぎる。


「僕らなら大丈夫。」

「さぁ、早く行きなさい!盾が潰される前に!」 

 

 背中越しに俺に呼びかけてくるフィーネとドルグ。


 そして今、俺を生かすために二人は命を張ってゴブリンと対峙している。

 もう、限界だった。


「…クッソオオオオオ!」


 何処までも確かな死の予感がその場にはある。

 俺は仲間に背を向け、閉まりつつある大扉へと真っ直ぐに疾走した。


「間に合ええええええええ!!」



-------------------------------------



 カンザキが走り出す音が聞こえる。それだけを確認すれば、もう十分だった。


「まさか、初めてのダンジョンでこんな事になるなんてね。」

 横からドルグの声。


「まったくね。パーティの大魔導(ロード)は役に立たないし、ゴブリンの血は浴びるし、扉は勝手に閉まろうとするし…。」


「僕なんか、盾を持っていかれたからね。」

「私達、ほんと散散な新人研修だったわね。」


 2人で軽く笑い合う。そして、私は気になっていたことを尋ねた。


「ねえ…良かったの?」

「女の子1人で戦闘させるわけにもいかないでしょ。」


 ドルグが応える。


「それは、どうも。」

「いえいえ。」

「それじゃ、さっさと台座まで行って、研修完了しましょうか。」


 覚悟は決まった。


 そして、私達は前へ向かって歩き出す。

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