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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1部 新人営業のススメ。
23/75

緑色の襲撃者

 明かりの限られた俺達は、相も変わらずに急ぎ足でダンジョンを進む。いつしかダンジョンは道幅も広がり、内部の構造も複雑になっていた。


「一応は大分進んできた…ってことで良いのかしら。」

 フィーネが周囲を見渡す。


 体感では20分程は歩いていた気がするが、どれだけ進行出来たのかはこの場の誰にも分からない。

 だが、外部から見た様子よりは間違いなく大きい洞穴…いや、洞窟型ダンジョンと言えるだろう。

 (もっとも、急ぎ足を心がけてはいるが、足元に対する不安からいまいちペースが上がらないという事情はあるが…。)


「しっかし、あの洞穴がこんな風になっているなんて…外からじゃ想像もつかないよな。」 


「基本的にダンジョンは僕達にとって未知の空間だからね。」


「中が予想できたら苦労しないわよ…。」


 そりゃまぁ…仰る通りで。

 俺達は思い思いの感想を言いながらも歩を進めていった。



 そんな中、ふとフィーネは現状を口にする。

「今のところモンスターが見当たらないのは助かるわね。」


「そうだね。僕らにとっては、一分一秒が惜しい状況だ…。」


「このまま暗いだけの洞窟を抜けたら、きっと初仕事完了よ。楽勝じゃない。」


 そうなのだ。現状ではモンスターどころか、生き物の姿すら見当たらない。俺達の足音を除くと、静寂と暗闇がその場を支配していた。


 だが、それもまたドルグの不安を煽る要因の1つとなっていることにフィーネは気付いていなかった。


「でもさ、いつまで続くのかな。このダンジョン…。」

 ドルグは明かりと前方を交互に見つつ呟く。


 面食らった様子のフィーネ。

 

「だ…大丈夫よ。きっと、もうすぐそこに最奥部があるはずよ!」

 慌ててフォローをするも、ドルグは明かりを前方に向けてかざすとジェスチャーで先を見るように促す。


 俺とフィーネは前方を覗き込む。すると、見える限りでは同じような道が続いていた。


「しばらくはこのままの道が続いてるようだね…。」


「…。」


 沈黙する俺達。パーティに不安げな空気が広まるのを感じた。

 だが、俺には核心があった。二人のためにもそれを口にすることにする。


「このダンジョン、そう極端なまでの長さでは無いはずだ!」

 

「どうしてそう言えるんだい?」

 俺の言葉を受けて、ドルグは足を止めてこちらを向く。


「あでっ。」

 どうやら、フィーネがドルグの背中にぶつかったようだ。何故かこちらを恨めしげに睨んでくる。

 その視線を無視し、俺は続ける。


「いいか、ドルグ。フィーネ。」


「うん。」

「何よ。」


「チュートリアルのダンジョンが、そんなに長いはずがない!」

 俺は自信満々にそう告げた。


「また、わけの分からないことを言ってるわね…。」

「…先へ行こうか。」


 ゲーム脳全開の俺に対して、同期はどこまでも冷ややかだった。




「ちょっと待って!」

 すると、フィーネは何かに気付いた様子で俺達を制止する。


「ねぇ…。」

「何だよ。俺のチュートリアル理論は間違いないぞ。」


「そんなのどうだっていいわよ…。」

「な、お前…俺の完璧な理論を!」


 シッ、と言葉を遮られる。ちょっとドキドキした。


「何か…さっきからジロジロ見られてる気がするんだけど。」

 フィーネは周囲を警戒しつつ、そう告げる。


「お…俺は見てないぞ!たまにしか…。」

 堪らずに俺は反論をする。平時なら制裁を加えられそうだったが、彼女は抑えて続ける。


「別に貴方じゃないわよ…。」


「言われてみれば…時々監視されているような気分になるね…。」

そして、フィーネの意見にドルグも賛同した。


「お…おい、お前ら何言ってんだよ…。悪い冗談で脅かすなよ。」


「事実よ。」


 希望をバッサリとフィーネに切り捨てられてしまった…。


「ただ、妙なのよね。見られている割には襲いかかってくる気配が無いというか…。」

 余計…気味悪いじゃないか…。


「お前のストーカーじゃないか。」

 俺はフィーネの脇腹を小突く。


「こんな視界の悪いところで追いかけ回す理由が無いわ。」


「お、おう。」

 冗談のつもりだったが、真面目に返されてしまった。


「何にせよ、警戒だね。」


「あぁ。スピードは落とさざるをえないか。」


「そうね。念のため、姿勢を低くして進みましょう。」

 俺達はやや腰を落とし、探索を続行することにした。




 そんな中…。




「うわっ!」


 俺は唐突に足を取られた。体術の心得も無い俺は、重力に身を任せる。

 要するに派手にずっこけたのだ。


「いってぇ…」


「言ったそばから…何やってんのよ…。」

 こちらを見るフィーネは呆れ顔だった。


「大丈夫かい?」

 一方、ドルグは心配してくれたようで、こちらを向いて手を差し伸べてくれていた。

 俺は落とした杖を拾い、助けを借りて立ち上がろうとするが…。


 その最中、何かがこちらに向かって飛びかかるのが見えた。それはちょうど、ドルグの死角で…。


「ドルグ!後ろだぁぁぁぁあ!!」


 俺は無我夢中で叫んでいた。ガチン、と辺りに鈍い金属音が響く。

 ドルグは、何かの攻撃を必死に盾で受け止めていた。

 

「持ってて!」

 そう言ってドルグはランタンを俺に投げて寄越す。


「うわっ…とと…。」

 何とか明かりをキャッチした俺は、腰を上げると前方に向かって明かりをかざす。

 そして、顕になる襲撃者の正体。


 緑色の皮膚と1mに満たない小柄な体躯。手には出来損ないのナイフを持ち、長い鼻と醜悪な顔面を携える…様々なゲームで幾度なく見た経験のある.それはまさしく…。


「ゴブリン…。」


 フィーネが小さく呟いた。


「その…ゴブリンってのはどんなモンスターなんだ。」

 俺はフィーネに問いかける。


「単独での戦闘力はあまり無いけど、とにかくずる賢いわ。群れで来られるとかなり厄介ね。」

 つまり、先程俺の足を払ったのはあいつというわけだ。


「なるほど、よく分かったよ。」


 そして、仲間を呼ばれる前にさっさと倒す必要があるということになる。だが、ドルグとゴブリンの戦況は五分五分だった。


 ゴブリンの刃物を使った攻撃こそ盾に防がれ届かないものの、ドルグの大剣を用いた攻撃もまた、体躯の小さいゴブリンにはうまく当てられずにいた。


 攻めあぐねたゴブリンは後ろに飛びのき、辺りの様子を伺う。

 瞬間、俺は奴と目が合った気がした。その口元が醜く歪む。


 ヤバい!!


 俺の本能が危機を知らせるのとゴブリンがドルグの剣をすり抜け、こちらに駆け出すのとはほぼ同時だった。


 杖を構えようとしたが、身体が動かない。


「あ…あぁ…ああああ…!」

 開いた口から情け無い言葉しか出なかった。


 なんだよ、大魔導だとか呪文だとか…肝心な時には何の役にも立たないじゃないか。あれだけ、立派に「守ると誓う。」とか言っておいていざという時にこのザマか。


 ゴブリンがナイフを構え、飛び上がる。その瞬間はやけにスローモーションに見えた。


 やっぱり異世界に来てもダメな奴はダメなままか…。

 あぁ…俺…死ぬのかな…。


 ゴブリンは眼前に迫ってくる。


 だが…。


「まだ、死にたくない!!」


 生への執着が口をついて出た。

 こんなところで、死んでたまるか!!そう思ったときに、横で何かが動くのを感じた。


 それは、一瞬の出来事だった。


 側面から銀色の刺突がゴブリンの首を貫く。周囲にはゴブリンの鮮血が飛び散った。


挿絵(By みてみん) 


 糸が切れたかのように、崩れ落ちる緑の体躯。その一撃で間違いなく、ゴブリンは絶命していた。


 俺の体中からも力が抜け、糸を失った操り人形の如く、その場でへたり込む。


 そして、大量の返り血を浴びたフィーネが振り返り、こちらを見た。


「死にたいの?」


 彼女は一言だけ、そう告げる。

 言葉が出なかった。心臓は激しく鼓動し、ただ荒い呼吸を繰り返すことしか出来ない。


 そしてこの襲撃を通じて、改めて俺は思い知らされた。

 


 俺達は命のやり取りをしていかなければならない。ということを…。

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