明かりとパーティとポンコツ大魔導
洞穴へと潜入した俺達は、入り口付近にあった小さなスペースでまず隊列について検討をする。
「いい、隊列の組み方が生死を左右する場合もあるんだからね。」とはフィーネ談。
攻略においてはこと、重要な要素なようだ。
なお、結果としては所謂『基本』に則り、盾役のドルグが先頭を行き、その後ろに剣術に優れるフィーネを配置。俺は魔法使い扱いとして、後方のバックアップを担当することとなった。
この並び順の意図としては、ドルグが敵の攻撃を受け止め、その隙にフィーネが剣で敵を討ち取る…というものらしい。俺は基本的にサポートに回り、万が一敵を倒せなかった際には呪文にて遊撃とのことだ。
だが、こちとら異世界のダンジョンについての知識などゼロに等しい。当然、何も分からない俺は二人に質問をする。
「ちなみにサポートって何すればいいんだ?」
「「…。」」
開いた口が塞がらないとはこういう絵面を指すのだろう。フィーネとドルグは硬直した様子でこちらを見る。
「貴方…そこまで無知だったとはね…。」
「ま…まぁまぁ、大学出身者ならそういうこともあるって。」
呆れた様子のフィーネを宥めるドルグだった。
それから数分後、俺はドルグからダンジョン攻略の基礎についての教えを受けていた。
「ダンジョンにおいては、魔法使いの役割は道中のサポートがメインになるんだ。」
「ふむふむ。」
「ダンジョンの形態によって様々なサポートが要るけど、今回だと洞窟型のダンジョンだから一番重要なのは明かりだね。」
「なるほど、そこで光魔法というやつか。」
「そういうことになるね。光魔法をそれぞれのマジックランタンに入れて明かりにするんだ。」
確かに太陽光の届かない空間においては光源の確保は最重要課題となりそうだ。
「じゃあ、早速光魔法を頼むよ。」そうドルグは笑顔で告げてきた。だが…。
「すまん。無理だ。」
「「え…。」」
ドルグのみならず、横で聞いていたフィーネも硬直する。
「一度試してみたけど、駄目だった。」
…。
静寂がその場を支配する。
彼らは当然、俺が初歩的な魔法など楽々と使えるものと考えていたのだろう。
それはそうだ、何せ大魔導様だからな。俺がフィーネやドルグの立場でもそう思う。
「ごめんなさい!」
可愛く、てへぺろポーズで誤魔化そうとする俺。
「あ…。」
すると、フィーネが何か小声で呟いた。だが、うまく聞き取れない。
「へ?」
「あんたは!何しに!来たのよ!!」
フィーネに胸ぐらを掴まれ、ビンタの雨を浴びせられることとなった。
あ~脳が揺れる~。
そして、ひとしきり暴力を浴びせられた俺は、地面に叩きつけられた。
首を回してドルグの方を見ると、彼は合掌をして「あぁ、罪深き欺瞞者に神の鉄槌を…。」と祈りの言葉を唱えていた。
あぁ…ドルグよ…その攻撃は心に効く…。
肉体と精神の両方にダメージを受けた俺は、心が折れそうになった。
だが、ここは男として意地を見せなければならない。そう思った俺は、何とか起き上がると…。
「何しに来たか…だったよな。」と、よろけながらも静かに告げる。
二人の目線がこちらを向く。
だが、まだ引けない。俺は息を大きく吸い込み、声を上げる。
「それは…お前らを守るために来た!!」
「あぁ!?」
ブチ切れるフィーネ。
「いえ、何でも…ないです…。」
そして、俺の決め台詞は一言で圧殺された。
「あの…いえ、ふざけていたわけでは…。その場のノリと申しますか。私にもなけなしの意地というものが…。」
「その…本当に反省しておりまして、はい、はい、大変申し訳ございません。」
ちなみにその後、正座でフィーネから本気の説教を受けたのは同期だけの秘密だ。
「明かりは、私とドルグのマジックランタンが1つずつと…。」
「フィーネのランタンは明かりをいつ入れてもらったの?」
「今朝よ。こんなこともあろうかと思ってね。ドルグの方は?」
「僕も同じだよ。念のために今朝早くに入れてもらった。」
「となると…ランタン二つ、実戦経験無しの二人でこのダンジョンを攻略か…。」
「あのう…ここにも一人…。」
「あぁ!?」
「ひぃ!ごめんなさい!」
何時ぞやに見た、獣の如き視線が突き刺さる。
光魔法があてに出来ないと分かった俺達は、改めて自分達の置かれた状況について確認を行っていた。パーティを支える明かりは貧弱だった。
なお、フィーネの本気説教の後にドルグから教わったところに拠ると、マジックランタンの光ついては寿命があり、術者の練度にもよるが…通常は5~6時間程度の時間が経つと光は失われてしまうようだ。そこで、魔法使いの出番となる。
光魔法を再度マジックランタンに入れることで再び明かりを取り戻し、長時間の洞窟型ダンジョンの攻略が可能となる、とのことだった。
話を聞く限りでは、長時間の洞窟型ダンジョンの攻略においては、光魔法によるサポートは無くてはならない存在のように思える。
そして、このパーティにおいては魔法使い…いや、大魔導があてに出来ないために、攻略に時間を掛けることが出来ないということになる。事前に用意した明かりがあるとは言え、一箇所に留まっていればジリ貧になるのは目に見えていた。
初めてのダンジョンの入り口にて、早くも攻略に暗雲が立ち込めていた。流石に余りにも早すぎる躓きだったが、何分俺の責任が大きいので下手なことも言えない。
いつしか、俺達は黙り込んでいた。
ここは二人を元気付けるべきか、それとも改めて謝罪をするべきか…或いは出発を促すべきなのか…。俺は様々な可能性を模索する。
だが、そんなことを考えている間にも刻一刻と明かりはその寿命を消費し続けていくのだ。
結局、答えは出ず…俺は誰とも目を合わせずにぼんやりと中空を見つめていることしか出来なかった。
そんな中、ふとフィーネが立ち上がりながら話し始める。
「こんなところで止まっていても、明かりの寿命を浪費するだけよね。」
「そうだね。少しずつでも進まないと。」
それを受けて、ドルグも立ちあがった。
「要は、ランタンの明かりが切れる前に攻略すればいいんだろ。」
結局のところ、このパーティにおける選択肢はそれしか無いのだ。
「そうと決まれば、さっさと攻略と行きますか!」
俺も気合を入れて立ちあがるが…。
「って進行ペース早っ!!」
頼れる二人のパーティメンバーは芸術的なまでの競歩で先を急いでいた。ちなみに、俺の手元に明かりは無い。
「早くしないと明かりが切れるでしょうが!」
「待って、死ぬ!本当に置いて行かれたら死ぬから!!」
そして、俺は22歳にして再び本気で走るハメになったのである。昨日に引き続き、膝がプルプルする確かな予感がそこにはあった。