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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1部 新人営業のススメ。
15/75

初めての買い出し①

 騒動から数時間後、尻の痛みがひと段落した俺はギルド本部を目指していた。


「しっかし…危うく昨夜は何かに目覚めるところだった。」


 ボヤきながらも歩を進めていくと目指す建物が見えてくる。まぁ、寮の隣が本部なんだが…。


 ここに住むことになれば、通勤時間は5分弱。そこだけは快適そうだ。

 若干、尻はまだ痛むが呪文の代償と考えれば安いものだろう。多分…。






 建物の中に入ると、玄関ホールには既にフィーネとドルグ、ダルイ先輩が待っていた。


 まず、基本は挨拶から。

「お…おはようございまっつ!!」

 

 噛んだー!!


「うぃーす。今朝は凄い叫び声だったな。」とはダルイ先輩。


「その件は…すいませんでした。」


「早くも寮住まいの先輩方から、あいつをしばき倒せとのご要望を頂いているぞ。」

 ニヤッと笑う先輩。


「ひぃ…。」


 初日から先輩方に睨まれてしまった。背筋が凍る思いがした。


「まぁ、半分は冗談だから気にすんな。」

「半分は本当なんですね…。」


「そんなんいちいち気にしてたらダル過ぎてやってらんねーぞ、会社なんて。気にすんなよ。」


 そういうものですか…。


「おはよう。カンザキ。」

 ドルグは笑顔で挨拶を返してくれた。


 そして、フィーネはこちらを見向きすらしなかった。完全にお怒りのご様子だ。まぁ…そりゃそうだよな。この場で剣を抜いて襲いかかってこないだけ、よしとする。


「…フィーネと何かあった…?」

 だが、その様子に気付いたドルグが小声で話しかけてくる。


「…色々。」

「…そっか…。」


 何かを悟ったのか、ドルグはそれ以上は聞いてこなかった。


 ダルイ先輩はこちらを一瞥してから、説明に入った。


「んじゃま、ダルいけどお前ら今日は買い出しだ。」

「「「はい」」」


「明日のダンジョン攻略に必要なモノを各自、街で揃えろ。費用は1人2万リルまで。経費で落ちるから領収書は忘れるなよ。以上。」


 ダルイ先輩は俺達に金貨を2枚渡し、早々に去っていった。このまま立ち尽くすわけにもいかないので、俺達も外へ出る。


 この世界に来て、初めて手にしたお金だ。金貨一枚で1万リル、ということらしい。


「それじゃ、攻略に備えて買い出しかな。」

 ドルグは先輩の指示をなぞる。


「えぇ、そうね。」


 フィーネは素っ気なく言い放つ。相変わらず、こちらには目もくれない。


「とりあえず…各自で揃える感じにしよっか。」

 苦笑しつつ、提案するドルグ。そうは言われても、ダンジョンはおろかこの世界のこともまともに分からんのだが。


「俺、攻略とか何もわか…」

「それがいいわね。暴漢と一緒に買い物なんか出来ない。」


 俺の情けない発言は見事、フィーネに遮られた。



「おい!俺が喋ってる途中で」

「それじゃあね。」


 そして、彼女は俺の話を最後まで聞くことなく去っていく。


「はなしを…さえぎるんじゃ…ない…よ。」


 独り言となったそれは虚空に響き渡った。




「えっと…カンザキ。何やらかしたのさ。」


 ドルグが困惑しつつ尋ねてくる。


「…それは…。」

 何とか逃れようとした俺に、ドルグの真剣な眼差しが刺さる。


「…すまん。あいつの名誉の為にも口にすることは…。」


 それは、最後の一線だった。フィーネが俺を部屋に泊めたという事実がある以上、それが外部に漏れると、彼女にまであらぬ噂が立ちかねない。


 やはり、あの夜の出来事は墓まで持っていかなければなるまい。決して俺の保身のためだけではなく…。

 まぁ、この世界に骨を埋めるかどうかはまた、別の話だが…。



「ただ、一つ言えることは…。」

「言えることは?」


「俺が尻を抑えて転がり回っていたこと…それが全てだ!!」

「君は何を言ってるんだ。」


 何とか誤魔化そうとした俺だったが、あえなく撃沈した。






 そして、しばらくの静寂。滑り倒した空気が辛い、辛すぎる。






「やれやれ。」

 ドルグは半ば呆れた風に嘆息した。


「まぁ、正直事情はよく分からないけど…。」

 見放されるかと思っていた俺は、思わずドルグを見る。


「大事なのは、これからどうするか。どう、彼女の信頼を取り返すか。そういうことだと僕は思う。」


 正論だった。


「何より、パーティメンバーが不仲なままじゃ背中を預けられないからね。何とか、フィーネともう一度向き合って欲しい。」


 彼は苦笑をしつつ、優しく厳しい要求を俺に突きつける。


「…自信は無いけど、やってみる。」

「君ならやれるさ。」


「期待は、しないでくれ…。」


 俺は、先程フィーネが去っていった方向へと向かって歩き出した。


(遭遇してワンパンで沈められないといいな…。)


 そんな思いを抱きながら…。

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