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うちのギルドは前(株)です。  作者: いさき
第1部 新人営業のススメ。
12/75

家なき人の子の行く先は①


 気付けば夜も更け、俺は机に突っ伏していた。どうやらそこそこの時間眠っていたようだ。

 辺りは歓迎会の開始時とは打って変わって、静けさに包まれている。


 目を開けると、俺の目の前には…ヒゲとフィーネ、隣にはドルグが座って何やら話をしていた。


 周囲を見渡すと人はまばらになっており、店の従業員らしき人達が片付けに奔走している。会としては既にお開きの状態なのだろう。


「起きたか。具合はどうだ。」

 ヒゲがこちらの様子を確認する。


「…とても頭が痛いです…。」

 異世界の謎酒にやられたようだ。頭が揺れるような感覚がする。


「まったく…だらし無いわね。」

 フィーネが呆れたようにこちらを見る。そして、それを「まぁまぁ」と宥めるドルグ…この構図もお決まりになってきたな。


「そう言えば…カイルさんは?」

 途中で席を離れた先輩の姿は周囲に見当たらなかった。


「奴は若手のホープだからな。無理矢理、上の連中に連れて行かれて二軒目だ。」


 ヒゲは苦笑しつつ答える。


「そうですか…。」

 気に入られるのも大変なんだな…と遠いことのように思う。


「ところで…あの…さっきまで何の話してたんですか…?」

 気になった俺は3人に問いかける。


「今は、カンザキはどこに住んでるんだろうって話だよ。」

 ドルグが答えてくれる。




 あ…やばい。


 さっきまではすっかり忘れていた。いきなり転送させられた俺には寝床など無いことを…。


「俺、よく考えたら住む場所無い…です…。」


 恐る恐る俺は事実を口にする。


「何…?流石に今からすぐに部屋は手配できんぞ…。」

 ヒゲは真剣に考え込む。


「ドルグ、何とか…お前のところには…」

「うちは…ごめんね。兄弟が沢山居るから、ただでさえギリギリでもう場所が無いんだ。」


 藁にもすがる思いで、ドルグに助けを求めるも、返事はNOだった。だが、部長のお宅に押しかけるわけにもいくまい。


 仕方ない…野宿か…。


「…今夜は外で寝ます…。」

「ダメよ!それではこれからの研修に差し障るわ!」


 だが、その提案はフィーネに断固反対された。



「それはそうだ…。しかし、申し訳ないが私の家も無理だ。」


 急にヒゲがしゅんとする。


「何故です!?」


 フィーネが食ってかかるさっきは馬鹿にされたが、彼女もいい感じに酒が回っているようだ。


「怒った家内はブラッドデーモンよりも恐ろしい…。」

 この人、奥さんに頭が上がらないタイプか…ってかブラッドデーモンって一体…。


「まったく!!どいつもこいつも男ってやつは!!」


 フィーネが地団駄を踏む。


「もう!いいわよ!私の部屋に泊めてあげる!!」

「はぁ!?」


 フィーネからとんでもない発言が飛び出した。恐らくは酔いのせいだろう。


「いいですね!部長!!」

「いや、しかしだな…。」


「い・い・で・す・ね・?」

「…私は何も聞いていない…。」


 ちょっ…部長!!責任逃れしてる場合じゃないでしょう!!


「常識的に考えろ!お前、何言ってるのか分かってるのか?」


 流石にまずいと思った俺は、フィーネを止めに入る。だが、それを聞いたフィーネは逆に俺に向かってまくし立てる。


「じゃあ、あんたの体調不良が原因で研修中にピンチになったらどうするの!?責任は取れるの?私達の査定どうにかしてくれるの!?」


「…。」

「返事は!?」


「すいません!!出来ません!!」


 この状態の彼女を止めることは、この場の誰にも出来なかった。


「じゃあ、大人しく私の部屋に泊まりなさい。」

「…はい。」


 もはや従う他あるまい…。決して嫌というわけではない、むしろ、健全な男子としては大変喜ばしい状況と言えるだろう。

 だが、社会倫理から見るとそれは…。


「その代わり変なことしたら、剣で叩き斬るからね!!」


 ふと思い出したように彼女は、頭を抱える俺に向かって宣言する。


「…。」

「返事は!?」


「イェス!マム!」


しばしの静寂。


「では、話もまとまったところで我々はお暇するか…。」

「そうですね。」


 そして、ヒゲとドルグは去っていく。


「ちょおお!」

「じゃあ、私達も行くわよ!」


 フィーネに引きずられていく俺。華奢な見た目からは想像も出来ない、凄い力だ。


「いや、やっぱまずいだろ!!」


 最後の抵抗を試みる。


「っていうかスーツが擦れる!やめて!!」


 俺の嘆願を聞いてか、突然手を離すフィーネ。


「いでっ!!」


 重力に従い、頭が床にぶつかる…痛い。


 一方で、彼女はこちらへと振り返ると…

「何よ!私と一緒なのがそんなに嫌なの!?」


 どこか涙目になってそう告げた。



「いや、そういうわけじゃないけど…。」

「じゃあ、早くするっ!」


「ハイ!!」


 姿勢を正し、フィーネに追いつく。結局、俺は為されるがままだった。


「しかしこいつ、酔うと面倒くさいな…・」

「何か言った!?」


「いえ!!何も!!」


 思わず口に出ていた独り言は聞こえていたのか、いないのか…。


 かくして、俺は死地へと向かうこととなった。保ってくれよ!!俺の理性!!!

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