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技師団物語~ソラハツナグ~  作者: 国立司
1章 聖者の神託
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2話 その2「ルシファー・ドラゴ」

2 ルシファー・ドラゴ


「その制服、君たちは技師団学校の生徒たちだね。改めましてこんにちは。私は聖教技師団のルシファー・ドラゴといいます。以後お見知りおきを」


 全員、戦意を喪失し、ただ彼の自己紹介を聞いていた。

 先ほどの索敵サーチ時に感じた死のヴィジョンを前に下手な動きをすれば死ぬと悟ったのだ。


「君たちの任務を横取りすることになってしまってごめんよ。こちらとしてもそんな意図をもってやった訳じゃないんだ」


 どこか優しい印象を持たせるような喋りをしてくれている。しかし、先ほどの殺気交じりの索敵サーチのせいでその喋りを信用する気には誰一人なれなかった。ただ恐怖しか感じない。


「それよりも…」


 ルシファーからすさまじい白銀の心力が溢れ出す。その心力からただ強烈なプレッシャーを感じる。手の震えが止まらない。


「なぜ、逃げようとしたのかな?敵対しているつもりはないのだが……」


「敵対していないなら帰らせてもらいませんか?任務の取り締まりもそちらが済ませたのを確認した以上、ここに残る理由がないのです」


 手の震えを必死に抑え、平静を装いながら僕は言い返した。


「それは無理だ」


 笑顔で彼はこちらの要求を断った。その表情は怒っているときのアリスの笑顔に似ている。そして、笑顔を崩すことなく続ける。


「君たちに聞きたいことがまだまだあるから」


「といいますと……」


「私の正体について」


 ルシファーは無機質にそう言った。その言葉に僕らは一瞬動揺してしまった。

 彼はその様子をみて確信したようだ。


「知っているのですね。なら仕方がない…」


 このままだとみんな連行されてしまう。それどころか殺されてしまうかもしれない。

けどこいつ相手に全員でこの状況を抜け出すのは不可能だ。格が違う。全員で逃げようとしてもすぐに追いつかれてしまう。だったら……

 考えられる策は一つだった。僕はみんなの世界に接続して作戦を伝えた。


……ライ、ジェームズ後は頼んだ……


 心砲ショット

 心力の塊を相手に打ち込んだ。避けられることなく直撃した。並みの相手ならこれで吹っ飛ぶはずだがルシファーは違った。一歩たりとも動いていない。全力の、それも至近距離で直撃の一撃。それなのに効いていない。


「君、なかなかやるじゃないか。いい心砲ショットだ。瞬時にガードしてしまったよ。」


 ルシファーは心力を纏い、全身を強化ブーストすることでガードしていた。

 全身強化オールブーストでガードしたとしても全く効いていないのは異常だ。


 どれだけの心力で強化ブーストしたんだ、こいつ……


「雷神」


 そのとき、ライがスキルを発動し、みんなを瞬時に担いで動き始めた。


影分身ドッペルゲンガー


 さらにジェームズがみんなの分身を3体作り、かく乱する。

 その様子を一瞥してルシファーは僕に言った。


「自らを犠牲に仲間を逃がすつもりなのだろう?」


 バレてた…

 みんなが危ない!


 そう思ったがルシファーはみんなを追いかけるつもりがないようだった。みんなとの距離が開いていく。


「ハハハ、まあ安心しなよ。その勇気に免じて君だけを相手しよう。そもそも全員を痛めつけたら法王様に何て言われるかわからないからね」


 ルシファーは笑いながらそう言って、こちらに向き直る。


「ソラ!」


 アリスたちの心配そうな声が遠くから聞こえた。だいぶ離れたな。これならみんな無事に逃げられそうだ。


「余所見しても大丈夫なのかい?」


 ルシファーは掌に心力を集中。心力は銀色に輝く。やがてその手は表面がコーティングされ、銀色に光っている。


 来る!!


 僕は腹部に心力を集中させ、ガードする。

 相手の掌打が飛んでくる。直後、銀色の膜が薄れ始めた。


「ぐ…」


 その衝撃は体を貫通する。痛い。体内に響くような痛み。内部をやられ吐きそうだ。


空打からうちって言うんだ。おもしろいだろ?君も鍛えればできるよ」


 スキルを使っている様子はない。今のはこちらと同じく心力法だけだ。


 それでこの威力か……

 

 足を心力で強化ブースト。速度を上げ、後方へ移動する。


 間合いをとらないと……


しかし、

「いいスピードだ。それでも私の方が速いけどね」


ルシファーは気づけばソラの後ろにいた。見えなかった。逃げようとしたときと同じだ。

それどころか……空中を駆けている。まるでそこに足場があるように……


「嘘だろ……」


 立ち止まり、その力の差を目の当たりにする。ルシファーは空を駆けるだけじゃなく立ち止まり、その場で浮遊している。いや正確には立っている。一瞬、足元が銀色に輝いて見えた。スキルを使っているのか。そう思っていた僕を見下ろしながら彼は語り始めた。


「舞空と呼ばれる心力法の超上級技術だ。君の心力法はいい線いってるよ。だから覚えておくといい。スキルなんて使わなくても心力法を極めれば君が思っている以上に何でもできる」


 速度も力も純粋な技術も心力法による体術においてルシファーの方が格上だった。


「力の差を理解したならスキルを使ったらどうだい?私はスキルを使わずに相手してあげるから」


「……あいにく僕はスキルが使えないんだ」


「へぇー珍しいね。だったらもう降参するかい?」


「いや……」


 心力法で圧倒的格上の相手。無事では絶対に済まないだろうが、全力をぶつけてみたい。


「あきらめない!」


 領域ゾーン展開!


 僕の全力。強化ブースト心砲ショット索敵サーチも全部同時に使う。相手の動きを常に読み、近距離、中距離の攻撃を躱すことも追尾機能を持たせながら心砲ショットを使うこともできる。消耗が激しいから維持できるのは5分だ。


領域ゾーンか」


 周囲一帯、僕の心力が充満している状態だ。ルシファーも嫌でも気づく。


「いくぞ!」


 心砲ショットを一気に十発放つ。ルシファーは空中を駆けながら回避しようとするが、意思があるかのように追い回す。そして、命中すると思ったそのときだった。


「……『心の鼓動』(ハート・ビート)」


 ドクン……と鼓動音が聞こえた気がした。瞬間、ルシファーを中心に衝撃波が飛んでくる。唯々強大な衝撃。放った心砲も展開していた領域もすべてが吹き飛ばされた。体勢を立て直すも起きた出来事にただ唖然とする。


何をしたんだ……


「残念でした♪」


 僕が唖然としている隙に間合いを詰め、彼は目の前に現れる。ガードする暇もない。白銀の掌で空打からうちを決められる。


「がはっ」


 体が宙に舞う。口から血を吐き、痛みで全身が軋む。

 まずい……そう思って前を見ても敵はいない。


「それ、もう一発」


 背後から声が聞こえ、今度は後ろから衝撃が体を貫く。衝撃で内臓が飛び出てしまいそうだ。


「ごふっ」


 痛い。痛い。目の前には既にルシファーが次の一撃を決める準備をしている。吹っ飛ばされてはルシファーが回り込みまた吹っ飛ばす、その繰り返し。力の差は歴然、なすすべがない。次第にダメージで体がまるでいうことを聞かなくなっていく。感覚がなくなっていく。


 ごめん、みんな。僕はもう駄目だ……


 声に出して苦しむこともできない。ただ繰り返される攻撃の果てに血を吐き続け死を待つだけ。思考さえもままならなくなっていく。


 やがて、ソラの意識は遠のいていった……


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