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技師団物語~ソラハツナグ~  作者: 国立司
1章 聖者の神託
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1話『空の日常』 その1「芹沢家の空と有栖」

1芹沢家の空と有栖


「ソラ、起きて……」

 

 アリスの声が聞こえる。僕、芹沢空はその声を頼りに目を開く。

 周りを見渡す。いつもの教室、いつもの光景……


 どうやら現実に帰ってきたみたいだ。そんな僕をすぐ隣で一人の少女がみている。

 人形のように綺麗な顔立ち。輝くような長いブロンドの髪と美しい碧眼。彼女の姿も見慣れた光景だ。


 彼女の名前は芹沢有栖。僕のただ一人の家族。

 だけど兄妹だと考えたことはない。血のつながりもない。

 それでもアリスは僕のただ一人の家族だ。そこは決して変わらないし、決して譲れないことだ。

 そんな彼女に状況を確認する。


「……アリス、今何時かな。意識が飛んだのは授業中だったと記憶してるんだけど」


 あの世界に飛ばされたときはいつもこうだった。突然意識があちらへ飛ばされ、誰かが嘆き悲しむ光景を見せられる。父さんが死んでから時折起きることだった。


「今ちょうど授業も終わって昼休み、昼食の時間よ。いつも通り弁当を届けに来たら、机に頭をのせて動かないから声をかけたの。もしかして、誰かの世界をみていたの?」


事情を知っているアリスは尋ねた。心配して尋ねているわけではない。アリスからすれば僕とは違う意味で見飽きた光景だろう。


「うん、嘆きの世界をみてた」


 嘆きの世界。僕はあの世界をそう呼んでいる。通常僕がみる世界は身近な人物、仲の良い人の世界だ。しかし、嘆きの世界はそれらと異なり、誰の世界かもわからない。何よりも通常と異なり、自分の意思でみているわけではないからたちが悪い。


 まあ今回は授業中だから周囲からは居眠りだと思われていたのだろうけど。


「それなら仕方ないか。もしこれで居眠りだったら説教するところよ。せっかく実力を認められてSクラスに入ったのにってね」


 アリスは最後に優しい笑顔を向けて言った。彼女は居眠りが原因だったら説教するつもりだったようだ。もしそうだったら威圧感を与えるおっかない笑顔をしていただろう。

 怒らせた彼女ほど恐ろしいものはない……


「……とはいえ、事情を知らない人は居眠りだと思ったでしょうね」


「はぁー……」


 アリスの言うとおりだ。スキルを使えないなりに努力して、心力法だけで頑張ってSクラスに入ったのに、居眠り(勘違い)が原因で落とされるのは嫌だな。

 

 思い出されるのは血のにじむような努力の日々。そして、楽し気に人をコテンパンにするスパルタな師匠の姿だ。


「フレイムさんがアリスみたいに事情を察してくれるから大丈夫だよ…たぶん」


 自分で言っていて不安になる。師匠こと、フレイムさんはアリスみたいに察しがいい人じゃない。部下からの報告を聞いて、そのまま何も考えず減点しそうだ。

(というか今頃そうしてそうだな、あの人……)


「弁当食べたら事情を説明しに行こうよ、ソラ。私も行くから」


 アリスは優しい。世話焼きといった方が正しいだろうか。

 何にしろフレイムさんの説得にアリスの存在は有り難い。


「ああ、そうだな。そうしよう。それといつも弁当ありがとう」


 アリスには感謝することばかりだ。彼女がいなかったら今頃……


「気にしないでよ。ソラの世話をするのは陸三さんとの約束……私の使命だから」


アリスは笑顔でそう答えた。父さんが死んでもう5年になる。それでも彼女は変わることなく約束通り僕の世話を焼き続けている。


「じゃあ、弁当をいただくとしますか」


感謝の気持ちを込めてアリスと同じく笑顔でそう言った。僕らの関係は変わることはない。僕らはかけがえのない家族なんだ……


-----------------------------------------------


 捨て子である僕とアリスは天才科学者、芹沢陸三に育てられた。僕が先に拾われ、アリスがその1年後だったと記憶している。父さんは僕らをれっきとした家族として扱い、大切に育ててくれた。

 家族みんなでの暮らしは幸せなものだった。ずっと続くものだと思っていた。


 しかし、そんな父は5年前のある日、何者かによって惨殺された。現場となった研究室は大量の血が飛び散り、死体の周辺は血の海となっていた。死体は何度も何度も切り付けられており、遺体はもはや原型を留めていなかった。


 僕は当時現場から少し離れた自室にいた。アリスの悲鳴が聞こえて現場のすぐ側まで向かった。そして、僕が覚えているのはただ一つ、特徴的な紋章の施された剣を犯人が持っていたこと。正確にはそれくらいしか見えなかった。怖くて見れなかった。剣を何度も振り下ろし、血が飛び散る音を聞いてすぐに逃げ出したからだ。


 アリスは現場の近くに居合わせ、犯行現場を目撃し、悲鳴をあげてしまったらしい。その後、現場近くの物置の奥に身を隠し、彼女は難を逃れた。彼女も犯人の顔は見ていないが凶器の剣は目撃している。


 しばらくして、現場の捜査も行われたが、犯人の手掛かりは見つからなかった。まるでそこにいなかったかのように剣による切り傷以外痕跡は見つからなかったそうだ。


 代わりに、父さんの遺言を記録したツールが発見された。まるで自分が殺されることを知っていたかのように……それは隠されていた。

 遺言の内容はこうだ。

「ソラ、ユートピアを止めてくれ……」

 ただそれだけだった。


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