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1章 プロローグ『嘆きの世界の傍観者』
プロローグ 嘆きの世界の傍観者
神々しい……そのひと言で表現したくなる現実とは思えない不思議な空間。
そんな場所にふさわしくない赤黒い海がある。赤黒い海の中心から女性の嘆きの声が聞こえる。
「どうして……どうしてよ……」
一人の女性が泣いている。一人でへたり込み何かを抱えながら泣いている。
ああ、またか。またこの世界か。
この世界をみるのは何度目だろう。
いつみてもこの女性がなぜ悲しんでいるのか、これが誰の世界なのか、それはわからない。
現実とは違うこの世界は誰のものなのだろう。嘆き悲しむ彼女を救うことは傍観者の僕にはかなわない。
現実とは異なるこれは誰かの心なのだから。
僕は誰かの世界とつながり、傍観しているにすぎないのだ。
芹沢空は救えない。嘆き悲しむ彼女を救えない。
彼女を救うことは誰にもできない……