表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春茜の公園  作者: 日野蒼翳
1/1

あの人と会ったのは春茜の柔らかな光が包む小さな公園だった。



あの人は俯いて向かいのベンチに腰掛けて、世間の不幸をいっぺんに背負ったような悲しげな表情をしていた。ボクは鞦韆に乗ってあの人のバーコードのような頭を見つめていた。クマのような大きな図体をしているのに悩みでもあるんだろうか……なんて考えていた。

『ねえ、おじさん』

あまりにも可哀想なオーラが出ていたものだからつい話しかけてしまった。大丈夫だったろうか。そんなちょっとした心配をしていると、冴えない顔を上げてきた。

『何だ、君は』

憂鬱で口角は下がり、疲れが目の下のクマを酷く際立たせていた。しかしその顔には強さがあり、その皺は一本一本に苦労が詰まっているようにも見えた。見ているこっちも憂鬱になりそうだった。

『おじさん、どうしてそんな暗い顔してるの?』


すると、ため息混じりに


『リストラだよ』


軽率な質問に対して鉛のように重たい回答が返ってきた。

これは失策った。傷を抉るような事をしてしまったな……。

何とか話題を変えようとして、

『おじさん……名前何ていうの』

と訊く。これくらいしか話題を変えることなど出来やしない。

『G主任……とでも言おうかな』

やっと少し微笑みがおじさんに戻ったが、どことなく悲しさが残っていた。働いていた頃の呼び名だろうか。

『ボクは夕顔。宜しくね』

こちらもあまり慣れない笑顔で接する。

『夕顔……か。素敵な名前だね』

すると、主任はボクの隣の鞦韆に乗った。

予想外にも柔軟剤の匂いがした。きっとこの公園にずっと居たのかもしれない。家庭があるのだろうか。しかし結婚指輪は……ない。

色々思索していると、話しかけられた。


『夕顔君はどこら辺に住んでいるんだい?』


『んー……大体この辺だよ?』


『泊めてくれないかな……迷惑はかけないからさ』

主任が頭を下げてくる。


『えっ、まあ、いいですけど』

頭を下げられて断る気など起きるわけがない。

処世術とやらにまんまとかかった気もしたが、仕方が無い。

すると追い討ちをかけるように更に畳み掛けてくる。

『いや、妻がね……』


主任が言うにはこう言う事らしい。

リストラを正直に妻に言ったら、ヒステリーを起こしてしまい、『当分帰ってくるな、帰ってきたら離婚だ』などと罵倒されたか。それは……尚更仕方ない。


『なるほどです、大変ですね、主任』

その日からボクと主任の不思議な日々が始まった。



『それにしても夕顔君も顔色悪いね……大丈夫なのかい』

『あ、これは……まあ、元々です……はは』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ