クラウス伯爵視点
アイリスがご令嬢方に睨まれる覚悟を決めて参加した舞踏会には、国内の貴族は皆招待されており、当然アイリスの父であるクラウス伯爵も夫人を伴い参加していた。
早めに会場入りした伯爵は、夫人と共に挨拶をして回りながら、知人達との歓談を楽しんでいた。もちろん参加者の中には折が合わない者達もいるが、そこは貴族に名を連ねる者として、表情には出さず挨拶を交わしていく。だが…娘のアイリスがカルザック公爵家ご令息のアルバート様にエスコートされて会場入りした時には、さすがに驚きを隠せなかった。その反応は、アイリスをよく知る知人達も同じであったが。
娘には常々恋愛結婚を勧めてはきたが、もちろん娘のおとなしい性格も熟知しているので、本人の希望で王宮に侍女として上がったものの、相手を見つけるのには苦労するだろうと思っていた。少なくとも数年はかけなければ、自力では見つけられないのではないだろうし、それだけかけても見つけられないかもしれないと。
それでも、だ。そういう経験もしておいた方が、最終的に相手が見つからず親が婚約者を決めることになったとしても、若い頃の良い思い出になるだろうと思ったのだ。
それが、なんと…。自分で舞踏会に同伴する程の相手を見つけたことだけでも驚きであるのに、それが当代一の貴公子とは…。いやはや、アイリスもなかなか隅に置けないものである。
見たところ、アルバート様の方がアイリスに思いを寄せているといった感じだが、エスコートを受けているということは、アイリスも満更では無いのだろう。
さすがに舞踏会にエスコートされているくらいだ。鈍感なアイリスでも、アルバート様の思いは承知の上であろうし。何よりアルバート様の腕をしっかり取り、他家の令嬢方に睨まれても笑顔で対応しているではないか。アイリスも少なからずアルバート様に思いを寄せているに違いない。
王弟であり外務大臣でもあられるカルザック公爵のご令息との縁組となると、さすがに他家より反対の声が上がるやもしれない。そうなった時は…なんとしてでも、アイリスを応援しなければ。あれだけ恋愛結婚を勧めておいて、いざ見つけてきた相手との縁組は応援出来ないなどとは、口が裂けても言えないからな。
そう思っていたのだが…舞踏会の中盤、カルザック公爵夫妻の方から私どもへと話しかけて来られた。そして、アイリスとの結婚をカルザック家としては大歓迎だと仰るではないか。
公爵が仰るには、2人を見て私が思った印象の通り、アルバート様がアイリスに強く思いを寄せていらっしゃるとのことで、その思いを知った皇太后様も、アルバート様の応援をされているのだとか。
カルザック公爵だけでなく、皇太后様までお味方とは…!
(良かったな、アイリス! お前には強い味方がついている! 私が妻と恋に落ちて、結婚するまでに歩んだ波乱万丈の日々は、お前は歩まなくて大丈夫そうだ!)
※
アイリスの心、親知らず。アルバートに連れられ多くの貴族達に囲まれたアイリスは、自分の両親とは挨拶をかわすのが精一杯であった。当然、アイリスの気持ちなど伝えられないわけで。
こうして、アイリスの知らないところで、どんどんと外堀が埋められていくのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。逃げ道がほぼ塞がれたアイリスです。アイリスとアルバートの今後は、また別の短編か、おまけ話的な形で書けたらいいなと思っています。また機会がありましたら、よろしくお願いします!