第三十一話 量産機
量産機製造所に着くと、量産機製造責任者のおやっさんが待っていた。おやっさんの名前は教えてもらったっけな?なんか、周りのみんながおやっさんと呼んでいるので、名前を聞きそびれている気がする。おやっさんと言っても、ドワーフなので髭をたくわえた少年という見た目なのだが。
「おやっさん。呼んだ?」
「おお、坊主。ようやく来たな。さっそくだが、量産機の性能がどうしてもオリジナルどもに追いつかないんだよなぁ。」
「それはしょうがないんじゃないですかねぇ。オリジナルは特殊な金属が使われているうえに、あちこちに魔法補助の紋様が刻まれているんでしょ?それらの技術はまだまだ研究段階みたいですし、今できるうえで最高の物を作るしかないんじゃないですかねぇ。」
「ふむ。そうなるかぁ。だが、こんなのをいくら作っても、オリジナルの足手まといになるだけな気がしてなぁ・・・」
「・・・それならいっそ、オリジナルとは全く違うコンセプトで作ってみます?」
「こん・・・なんだって?」
「えっと。コンセプトってなんて言うんだっけ・・・目的だったか、設計思想だったか・・・まあ、いいや。ようはオリジナルに似せる必要はないんじゃないかと。」
「似せる必要はない?それじゃあ、どうするんだ?」
「そうですねぇ。例えば単独じゃなくて複数で動かす大型のものにするとか、装甲を削りに削って、空を飛ばせるとか、いっそ戦車のようにしてしまうとかですかねぇ。」
「戦車?なんじゃそりゃ?」
「えっと、描くものあります?」
紙に前世での記憶にある戦車を描いて説明して、だいたいの構造を理解してもらうと、おやっさんはやる気が出て来たのか、作業員を集めて大がかりな設計変更を指示していた。適当に言ってみただけで、実際に出来るかどうかはわからないんだが、まあなんとかなるかな?
忙しくしているおやっさんに訓練に戻る事を伝えて量産機製造所をあとにした。ついでに、オリジナルの武器を作ってもらえるようにお願いしてみたら、上に伝えておくとのことだ。採用されると良いのだが。
訓練に戻ると、メリル副隊長が小鹿のようにプルプルとしていたので、一緒に乗り込んで動かし方を教えてあげたら、顔を真っ赤にして鼻血を出していた。どうやら、旦那さんとご無沙汰なせいで乙女に戻ってしまっているようだ。はやめに旦那さんと何してもらわないとなぁ。仕事に支障が出るレベルだぞこれ。
そんなこんなで、一年経った。アイアンゴーレムメイルの略称もアゴールに決まり、オリジナルのほうはアゴールで、量産機はコレムという略称になった。正式名称はコモンゴーレムメイルだそうな。オリジナルのアゴールと違って、三人から六人で動かすタイプとなっている。見た目がケンタウロスみたいなものになっていて、アゴールよりもなんかカッコいいんだけど・・・
アゴールのほうは装着者ごとに得意な武器を大きくした物が作られた。ちなみに私の武器はライフルと両肩に大砲が装着されている。まあ、前世でのライフルと大砲とは違って、魔法を飛ばす物なのだが。大砲に関してはコレムの移動要塞型にも採用されている。あっちのほうが私のよりもだいぶ大型だけどね。使用目的は城壁や城門への遠距離砲撃で、完全に拠点制圧目的である。連邦国との戦争も近そうだな。不可侵条約の期限はあと五年あるのだが、連邦側のほうでも動きがあるようだ。ただ、あちらさんは最近勢力が拡大中のレジスタンス軍を抑えるために動きが活発化しているようなのだが。
今のところ、アゴールやコレムの存在は向こうに知られてはいないようなので、開戦時には一気に進撃して制圧したいものである。戦争なんて長引けば長引くほど悲惨だと思うからねぇ。まあ、前世の記憶の中の記録でしか知らないのだが。




