第三十話 鉄の巨人
「ちょちょちょ、ままま、ととと、ままま・・・」
「メリル副隊長~。何やっているんですか~?何で片足で後ろに下がって行っているんですぅ~?」
「べぶしっ!」
凄い声でずっこけた。どうやら、バランスが取れないらしい。あ、何をしているかというと、オリジナルのアイアンゴーレムメイルの運用訓練である。といっても、まともに動かせるのはまだ私だけなので運用訓練というよりは、赤ちゃんのハイハイを二足歩行にする為に指導中である。
「あーもーーー!なんでいうこと聞かないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「だから、身体強化の加減が間違っているんですって、もっと初めは弱めにしないと。」
「なあ、なんでお前は初めて乗ったはずなのにそんなに乗れるの?実は古代人?エイムちゃんとは別にどこかで眠っていたんじゃないの?」
「いいえ。生まれは南都の南にある村ですよ。名前もない小さな村ですけど。」
「だったらなんで?なんでお前だけ!」
「いやいや。他の人たちはゆっくり歩くくらいならもう出来ていますよ?」
「違うのー!お前と同じように機敏に動かしたいのー!」
「私だって、最初はゆっくり歩くところから始めたじゃないですか。」
「その後、十分もしないうちに高速機動で残像が見えるってどういうことなの?ねえ。何をしたらそんなことが出来るようになるの?エイムちゃんを抱けばいいの?」
「なわけないでしょ。たぶんですけど、身体強化の魔法を使い慣れているからじゃないですかね?士官学校時代から割と使っていましたし。」
「ずーるーいー!なんかずーるいー!」
「はいはい。それに乗ったままジタバタしない。土ぼこりが凄いでしょ!」
「むー!」
「子供か!もうそんなことするなら、いったん降りてください!生身の状態で身体強化の魔法に慣れてから乗ってください。」
「そうするか・・・」
「ん?やけにおとなしく降りますね?」
なんとなく後ろに気配を感じて振り返ると、アリスさんがにっこりこちらを見て微笑んでいた。どうやら、アリスさんに怒られる前に大人しく従うことにしたようだ。メリル副隊長。マジで幼児化してない?36歳になったはずなんだけどなぁ・・・
メリル副隊長が降りたアイアンゴーレムメイルを格納庫に運んでから、自分も一度降りることにした。そろそろお昼だと思う。格納庫から出ると、他のアイアンゴーレムメイルに乗っている者たちもゆっくりと歩きながら格納庫に向かっているようだ。というか、アイアンゴーレムメイルって名称。長いよなぁ。略称か短い名称に付けなおしたほうが良いと思うんだけどなぁ。あとでメリル副隊長に提案してみるかなぁ。まあ、しばらくは近づきたくないけど。すごく絡まれそう。
食堂で昼飯を食べた後、昼寝をするために執務室隣にある休憩室に入るとジャックとロビンが先に寝ていた。どうやら、昼飯を食べずに体を休めることを優先したようだ。起こさないようにそっと空いているベッドに入り横になるとあっという間に眠りについた。どうやら、自分で思っているよりも疲れていたようだ。
「ユーロ。おーい!起きろー!起きないとちゅ、ちゅ、ちゅ・・・」
「何チューって言うのに照れているんですか!早くユーロさんを起こしてください。もちろん普通に!」
「ん?あ、メリル副隊長にアリスさん。どうしたんですか?」
「ああ、起きましたか。あのですね。午後の訓練のことなんですけど。」
「メリル副隊長は特別メニューにします?」
「それはお願いしたいところですけど、その前に量産機製造所のほうに行ってもらっても良いですか?」
「メリル副隊長。なんで、まだ真っ赤になっているんですか?もしかして、最近旦那さんとキスもできてないとか?」
「あっ!それ禁句です。」
「そうだよぉ。どうせ旦那に愛されてないんだよぉ。私だって愛されたいんだよぉ。」
あ、なんか足を抱えて落ち込み始めた。そんなに重傷だったのか・・・
「しょうがないですねぇ。メリル副隊長のことは私に任せて、さっきの話お願いしますね。」
「了解しました。では、行ってきます。」
あんまり長居をすると、完全に幼児化したメリル副隊長をあやす羽目になりそうだったので、もうしわけないがアリスさんにあとは任せて量産機製造所へと向かった。
自分で考えたとはいえ、アイアンゴーレムメイルって長いですよねぇ・・・
何か略称を考えなくては・・・




