夢現
身体を撫でるように、秋の朝のような冷たい風が吹いていた。
私は今、遊園地にいる。ゆっくりこいだ自転車のスピードと同じくらいの乗り物に乗っていた。全く面識のない数人の人と。
ふと、空を見上げる。満天の星空に浮かぶ満月が、少しずつ欠けていく。月蝕がおこっていた。
欠けていく月。それは、上弦の月を形作り、止まる。いつの間にか、空には星一つなかった。
変わりに。
月が欠けた場所。そこに。満天の星、三日月、土星が。小さく、だがハッキリと浮かんでいた。
わぁ、と、ため息まじりの、小さな歓声があがる。私もそのうちの一人であった。
私は、隣に乗っている、面識のない友達と顔を見合わせ、もう一度空を見上げた。
澄んだ空気。とても神秘的な空間。そしてその風景。そのまま時が止まってしまえばいいと、私は思った。
乗り物は滑り台のように滑り、ふとした瞬間にはもう、その乗り物はなかった。
月は相変わらず、不思議な状態のまま。だがしかし、そこは遊園地ではなく、私の知らない、近所の公園であった。
一緒に乗っていた人はいない。そしていなかった筈の子供達が遊具で遊んでいた。
私は空を見上げる。そこにあると、視えている筈の月は見えなかった。瞳に映っているのは、橙色の空。
子供達を呼ぶ声が聞こえる。声の元へ駆けていく姿を見る。私も、家へ帰ろう。
今日も、日が暮れる。