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うみにもぐる、まほうのはね

『うみにもぐる、まほうのはね』



そろそろバンカーっていうものについてちゃんと話したい。


丁度いいことに一号車(今までいた部屋)から一番後ろの客車(ハネバンク本部)まで行くのには時間が掛かるし。道すがら話は出来る…はず。邪魔が、入らなければ。


う…。入らないよな?

念のため前後を確認する。

よし、割り込んできそうな人影はなし!…ってドラゴンフライは来ないのかよ。あいつもバンカーなんだけどな。ま、いいや。気にし始めたらキリないから。早速、本題に入ろうと思います。


バンカー。

その名の通り銀行家。『ハネバンク』において『ハネ』を確保・保管し、必要に応じて供給するのが仕事。

で、ここで重要なワード『ハネ』。

それはミッドナイト王国にとって、切り離せないもの。


この国は、地上に存在した頃から魔法の国で、人々は魔法を使って生活してきた。

ハネと呼ばれる魔法の力。

ミッドナイト王国に生まれた者は、皆ハネを持っている。

そしてハネは、個人によって性質や持っている能力が異なる魔法。ものすっごく目がよくなったり、ものすっごく耳がよくなったりするような、そういった身体能力の底上げをするハネを持つ者や、念力みたいな力とか、変身能力をハネとする者、物として具現化したハネもある。


僕のハネは、最後のそれ。

刀の形をした、唄を囀る鳥の羽。

まあ、そんな感じでハネの特性は十人十色、千差万別。なんでもあり。ハネは個性だ。この国の人なら誰でも一つは持ってる力。

それが、ハネ。


だけど、他国の者は違う。何がそうするのか、詳しいことは忘れたけど、ハネを持つのはミッドナイト王国に生まれた者だけ。ハネの力は、その力を持たない他国にとって魅力的なものであり、王国はいつもハネを狙われていた。ハネを欲する者たちによって戦争が起き、多くの国民が命を落とした。


ハネ狩りと称される暗い歴史。

ハネ、と言ってもそれは通称でしかなく、実際に羽が生えたりしてる訳じゃない(中にはハネの能力として、羽で飛べる人もいるけど。それは置いておくとして)。羽を奪えば誰でも魔法が使えるようになるとか、そういう話じゃない。ハネを使ったり、移し替えたり、保存したり、物として使うためには、ハネ使い…つまりはミッドナイト王国の生まれである必要があるんだ。


では、ハネを持たない他国の者は、どのようにしてハネを狩るのか。

答え、生け捕り。

さらわれたハネ使いは、まるで物であるかのような酷い扱いを受けたという。ハネを持たない者がハネを使うためだけの、道具。ハネ狩りが侵攻するに従って、ミッドナイト王国は衰弱していく。もともと戦争には向かない小さな国。ハネ狩りへの抵抗も、大した意味を成さなかった。


そして、戦争を防ぐため、ハネ狩りから逃れるために、王国は海に潜ったんだ。

ハネの力で造られた、夜行列車に乗って。

その昔、こういったものを創造する能力を持ったハネ使いがいたらしい。こんな大掛かりな列車を、たった一人で造り上げたハネ使い。しかも、僅かな時間で完成させたって話だから、本当に優秀なハネ使いだったんだな。


夜行列車は時折、同盟国との貿易のために駅に立ち寄る以外は、海底を絶え間なく走り続ける。そんな汽車の中に身を隠すことによって、暗い歴史を断った。


その頃、海に潜ると同時に取られた対策の一つがハネバンクの設立。

ハネを持たなければ狩られない、という考えからハネを預けるシステムを作った。必要な分のハネ以外はバンクに預け、必要になったらバンクから引き出す。

ハネは、使い切らなければ回復する力。万が一ハネ狩りにあった場合に自分に残るハネを切り捨て、逃れる。後にバンクから引き出したハネを増幅させればハネの力はなくならない。そんな、理屈。


ハネに関することを一手に担うのがハネバンクであり、ハネバンクで勤めを果たすのがバンカー。国民のハネを全て預かっているバンカーってものがどれだけ責任の重い職業か、解ってもらえていたらいいのだけど。


故に、バンカーはかーなーり!優秀なはず。なのに、ドラゴンフライは先述の通り、飄々と、へらへらと、訳の解んない感じたし、ハナバチの奴は、仕事は確かに出来るんだけど、人付き合いの点で冷めてるって言うかなんて言うか難有りだしなあ。

不安だ。実に不安だ。そして不満だ。


あともう一人、バンカーがいるんだけど、そいつも…。

「しゃっちょーう!」

「ぐえ!」


噂をすれば。

バンカー、グラスホッパーの奇襲。いきなり抱き着くな!


「どうしたのー?社長ってば眉間にしわなんて作っちゃって難しい感じであたしに言えない悩みがあっちゃったりなんかしちゃったりするのかな。あ!もしかしてバンクに向かう途中?あたしに会いになの、社長。あたしに会いに行く最中だったんだよねっ!」

「あ、いや。グラスホッパー、そういう訳でなく…」

首が、首が締まる。僕に巻き付いているお前の腕が首を締めてる!


「もーう社長ってば。あたし、照れちゃうしゃないですかあ。あ、でもゴメンナサイ。途中であたしのほうから社長を見つけちゃったよ。しかも空気読まずに抱き着いてしまって。あのっ、あたし先にバンクに戻ってるから是非是非やり直して!ええ、もう初対面な勢いで!やり直しを!やり直しをしましょう!」


「グラス、ホッパー…」

とりあえず離れろ。そして訂正させろ。

確かにバンクに向かう途中だったけれど、それはお前に会うのを目的としてじゃない。グラスホッパーに言えない悩みというのもないし、初対面な勢いでやり直しをしたりもしない!早口で羅列する癖も、勝手に想像して話を広げる癖もどうにかしろ。

何より。


「社長って呼ぶなっていつも言ってるだろうが」

その呼ばれ方は好かない。

「あ、そっか。ゴメンねヒバリちゃん」

ちゃん。

ちゃん、かあ…。まあいいや。

そして、ここでやっと僕の首がグラスホッパーの腕から解放された。こ、怖かった。死ぬかと…。

「でもでも、本当にヒバリちゃんがハネバンクの社長なんだからいいじゃない。何でダメなのぉ?」

「とにかく嫌なの」

グラスホッパーは納得出来てはいないようだったけど無視。

僕だって、ちゃん付けには若干の異議があるんだ。おあいこだろう。と言うか、お前仕事はどうしたんだよ。…ああ、そういえばドラゴンフライもだ。あいつも今の時間は仕事中のはずなのに、一号車まで来ていた訳から。


じゃあ、この時間バンクでちゃんと仕事をしているのはハナバチだけか。ハナバチに限ってサボりはないだろうからな。

一人で…可哀相に。

いや、本当に可哀相なのは後でハナバチからお小言を頂くだろう僕なのだろうか。うーん。うーん。


ドラゴンフライ。

ハナバチ。

グラスホッパー。


こんな奴らを統べなくちゃならない僕の苦労。少しでも伝わればいいなって思う。

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