輪廻4
世界の子供たちには、卵から産まれた後に、幼少期というものがないという事は、
実際に起きている状態から理解した。
他の皆が一様にそうであるのかはわからないが、
少なくとも、”47番目の子”に関しては、そのようだ。
もしくは、彩伽のもとだからなのか。
それも様々なのかもしれない。
とにかく、もう立派な大人に見えるので、
この部屋においてのルクスの役割を説明した。
世界の子供は、元よりその役割を理解しており、
淡々とそれを行う、と、アルテルは言っていたが、
確かに最低限、この世界において自分が果たすべき役割は理解しているようだった。
「この部屋は、この世界の中でも一番大きな部屋だから管理が大変なの。
ルクス、あなたの助けが必要よ。」
一通りアルテルにやってもらっていたことを説明した彩伽がそう告げると、
ルクスが不思議そうにしているので、なにか疑問があるのか尋ねた。
「はい。この日誌というのは何でしょうか。」
アルテルには感情があったし、私がやってほしいことを理解してくれていたから、
こちらからお願いしなくてもやってくれていることすらあったが、
ルクスは極一般的な世界の子供だから、何も考えずにできる当たり前の事以外については、
一つ一つ詳細な説明が必要になる。
覚悟はしていたが、どの程度になるのか。
ここからが、大変そうだ。
「日誌というのは、その日の出来事を記録する事。
世界を観察した様子なんかも記してほしいの。
その日、っていうのは、私が創ったある星を基準にして1日と仮に決めているものよ。」
その後も、あれはどうなのか、これはなんだとか、案の定質問攻めに遭い、
都度応えていたら、さすがに疲弊してしまった。
彩伽は少し目を回し、横になって休むことを告げると、
ルクスに仕事をして置くように言い付け、ベッドへ向かった。
実際に眠るわけではないが、横になり、これからどうしたものか。
この先どれほどの質問攻めを受けるのか、考えると無意識にため息が漏れた。
どうしても、アルテルと比べてしまう。
それを口に出さないように努めながら、ルクスの質問に答える時間が、
アルテルを失ったという事実を突きつけられているようで、辛い。
正確には失ったという言葉は、相応しくないのかもしれない。
こうして転生しているのだから。
いや、これは再生という方が正しいか。
何に生まれ変わるのかわからないのではなく、その存在としてまた生まれるのだから。
ただし、記憶は残らない。
実際に、この状況に立ち会う創造者がどれくらいいるだろか。
彩伽は、もう、どのくらいここにいるのだろうか。
自分が創って、そして消えていった世界をもういくつ見ただろうか。
いつかは、必ず終わりが訪れるとはいえ、
それは途方もなく先の事だろう。
この世界においても、特殊な存在である彩伽が、
この先どれほどの創造者の入れ替わりを目にし、
世界がどのように変化していくのは、させていくのか、
それを考えると、ルクスが終わりの時まで一緒に居られるとは思えない。
恐らく、何度か再生して、記憶を失った”47番目の子”と何度も同じやり取りをするだろう。
いつか、彩伽自身も麻痺してしまうのだろうか。
そんな風に想像すると恐ろしくなった。
それならば、いっそ、毎回感情をもってくれた方がいいのではないか。
別れの時は、その都度双方が辛い思いをすることになるけれど、
なんの感慨もなく、その終わりを再生を迎えるよりは、ずっといいように思えた。
ロボットの様になりたくない。
本当の意味で人間ではないけれど、
人間らしさを失いたくない。
彩伽はそんな想いを巡らせながら、アルテルの絵を見つめていた。




