輪廻2
彩伽がずっと抱いている卵は、ダチョウの卵ほどの大きさがあった。
全体的に白銀に輝いていて、光が当たると虹色に見えるが、
何か模様が浮き上がっており、彫刻のようで美しかった。
何となく、その模様が47番目の子供を表すものの様に感じていたが、定かではない。
彩伽にとって重さは感じないように調整できるものだが、
最初に持った時は、その重さに目をむいた。
卵の殻が、金属で出来ているのではないかと感じたが、
実際のところは確かめようがない。
殆ど片時も話さずにいたが、時折、マロンの居場所だった、
丸くて小さなビロードのソファに、卵が安定するようにクッションを敷き、
その上へと何度か置いた。
すると、卵が嫌がるように激しく震え、落ちそうになってしまうので、
彩伽は、ずっと抱えているしかなかった。
大事なものなので、自分でずっと持っていたい気持ちはあったが、
世界を創ることや、諸々の作業の中で、両手を空けたいことがあるため、
そういう時には少し困った。
作業自体は、光の粒子を使えば何とかなるが、
光の粒子で卵を持とうとした時には、激しく抵抗されたので、
結局、ずっと抱えている。
「ねえ、まだ出てこないの?」
卵に話しかけると、小さく震えた。
恐らくまだだという事だろう。
まさか、今の状況を楽しんでいるわけではあるまいな?と、
訝しむほどに、卵はかえらない。
そもそもが、どのくらいの期間で孵るものなのかわからない上に、
ここには時間の概念がないに等しい。
「早く会いたいのにな」
その言葉には反応せず、心なしか落ち込んでいる様に見えた。
「あ、ごめんね。」
まだ、孵り時ではないのだという事はわかったが、
一つ疑問が浮かんだ。
ただ、温めているだけでいいのだろうか?
この世界のものなのだから、もしかしたら何かやるべきことがあるのでは?
「マザーに聞いてみようかしら。」
そう呟いて、何故最初からそうしなかったのかと思ったが、
今更悔やんでも仕方がない。
彩伽は卵を抱え、部屋の外へ出た。
すると、卵が彩伽の元を離れ、飛んで行ってしまう。
彩伽は慌てて追いかけるが、その先に居るのはマザーだった。
「こんにちは、彩伽。
あら、47番目の子ね。
転生に入ったのは察していたけれど、
こちらにちっとも来ないから、どうしているのかと思ったわ。」
つまり、卵はマザーが孵すべきものというわけなのだろうか。
母というくらいなのだから、当然と言えば当然だろう。
「おかしな子ね。
記憶はもう失くしているはずなのに、彩伽から離れたくなかったらしいわ。
自分の力では部屋の外には出られないし、彩伽がここに連れてきてくれるまで、
じっと待っているつもりだったみたい。」
マザーはくすくすと笑っている。
「はいはい、今孵してあげるわ。
やっと来たと思ったら、早く出せですって。」
マザーには卵の意思が、手に取るようにわかるらしい。
マザーが卵を包み込み、何か呪文のようなものを唱えている。
すると、卵にひびが入り、光があふれ出す。
マザーがそれを彩伽の方へ寄越す。
「すぐに出てくるわ。」
卵を持つと、殻を割り、勢いよく頭から飛び出してきた。
思わず卵を落としそうになった程吃驚して、ひと呼吸おいてから、
その顔を見た。
大きな瞳がこちらを見つめている。
「クァー!」
不思議な鳴き声、そして、その姿は鳥のようだった。
くちばしがある。
フクロウに似ているだろうか。
きっと外見は私の想像次第でどうとでも変わってしまうのだろうけれど、
最初はみんなこんな姿で生まれてくるのだろうか。
「いろいろよ。」
マザーは彩伽の思考も手に取るようにわかるらしい。




