輪廻1
アルテルが虚空に消えてしまって、
呼びかけにも返答がない。
以前、アルテルが言っていた。
世界の子供は欠番しない。
47番目の存在は、新たに誕生するんだろうか。
もう、アルテルは本当にいなくなってしまったのだろうか。
どうして…
私が留守にして、長い時間この部屋を預けたせいで、
負担をかけてしまったんだろうか。
想像もしなかった事が、予想もしなかったタイミングで起き、
彩伽は、また打ちひしがれる。
こうも続け様にここをを揺さぶられるのは、
これが罰だからなのだろうか。
わかっている事実は、私はここから出られないし、
なんらかの終わりが訪れるまで、ずっと延々世界を創り続ける。
それが、私の成すべき事で、成さなければならない事だから。
そこに、アルテルがずっといてくれると信じて疑わなかった。
呆然とする彩伽。
そして、激しく揺れだす部屋。
光は明滅を僅かに起こした後に消え、暗闇となる。
48体の分身も彩伽の身に戻り、
このまま崩壊してしまうのではないかという気配に満ちる中、
一つの光が彩伽の前にふわりと現れた。
「彩伽」
驚き顔を上げた彩伽は、その光を両手の中に収める。
「アルテル!?」
部屋の揺れが収まる。
「すみません。
少し力を使いすぎてしまったようで。
驚かせてしまいましたよね。」
光も戻り、部屋は安定した。
「消えていなくてよかった…」
手の中にあるのは小さな光で、力を込めればそれこそ壊れてしまいそう。
抱きしめられない事がもどかしい。
「…ごめんなさい、彩伽。
僕は生まれ変わります。
47番目の子供に欠番は出ない。
けれど…記憶は残りません。」
彩伽は、衝撃が過ぎて、硬直してしまった。
一瞬、頭が真っ白になるが、次の瞬間にはアルテルとの思い出が、
脳内を駆け巡る。
反射的に零れ出す涙は、後から後から止まることなく、
小さい子がだだをこねるように、そんなの嫌だと叫びたいが、
喉がつかえて嗚咽となるばかり。
どうして、どうしてこんなことに。
私が世界の真実など追い求めなければ、こんなことにはならなかったの?
問いかけたくても、やはり言葉にならず、
光の粒は明滅を繰り返している。
「彩伽、もう時間がないみたいです。
覚えていなくても、僕はあなたのそばに居ます。
これからもずっと。」
その言葉がアルテルの最後の言葉だった。
光の粒は数を増し、螺旋を描きだす。
それはメビウスの輪。
高速に回転し、やがてあらゆる方向に回転しだした。
最後にしたから上へ螺旋を描き光の粒が昇っていくと、
その中から美しい卵が現れた。
彩伽はそれを無意識にそっと抱きしめた。
「アルテル…」
ごめんね、ありがとう、大好きだよ…
色々な言葉が浮かぶが、声には出せず、
全ての想いを込めて、卵を大切に抱えなおす。
彩伽は前を向き、再び48体の分身を生み出した。
傍らに卵を抱えたまま、部屋の破損部分を修復し、
自室の壁にアルテルの絵を描いた。
卵がいつ孵るのかわからないが、
彩伽は常に卵抱き、世界を創り続ける。
時折、部屋の外の様子を見に行ったり、
卵に話しかけたりしながら、過ごした。
いつしか卵が時折動くようになり、
その中に確実に新たな47番目の子供がいるのだと実感した。
最初は本当に孵るのか不安だったが、
孵る時はそう遠くないだろう。
彩伽は卵に頬を摺り寄せた。
この中から産まれてくるのは、アルテルではない。
けれど、アルテルの生まれ変わりだから。
どんなに姿形を変えても、ずっと一緒にいる。
例え、憶えていなくても…
「ずっと、一緒に居ようね。」
卵に額をつけて告げた。




