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旅立ち  作者: 白銀みゆ
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世界18

彩伽は涙が止まらず何も言えずにいた。

自分が純粋な地球人ではなく、

父がブラックホールの核だという事実を突きつけられ、

愕然とするしかない。


自分がいつも浮いていたのは、違和感があったのは、

そのせいなのだろうか。

でも半分は人間のはずで…

それでもやはり純粋な地球人にはなりきれない、

中途半端な存在だったからなのだろうか。


「君が、あんな風に自らの命を絶ってしまうとは、

想像できなかったけれど…感受性が豊かで傷つきやすい君が、

ああする事は、予測できたことなのかもしれない。

すまない。」


行隆は実体を持たず、彩伽も今は実体を持っていないため、

抱擁することが出来ない。

その歯がゆさを表すように、行隆の拳が強く握りしめられている様に見えた。


続けて行隆が告げる。


「君の身体が埋葬され、その身体毎私が作っていた宇宙へ投じたら、

君は身体毎吸い込まれ、私も同時に吸い込まれた。

その時、私の身体は元の状態になり、記憶も戻ったから、ここへ一緒に来たんだよ。」


彩伽は、すぐに自分が実態化しなかったことについて尋ねた。


「一度、彩伽の身体は塵になってしまった。

宇宙空間に人間の身体が放り出されれば、

まして、ブラックホールともなれば、そうなるさ。

私自身、君がこの空間で実体を得るとは予想外だったよ。

つまり、再形成された実体であって、元の実体とは実質異なるものだ。」


あくまでこの空間における実体という事か、と、彩伽は理解した。


「私が目指したのは変革だ。

何億年、何兆年と繰り返されている宇宙の生と死。

ただ、淡々と過行く歴史は、あまりに虚しく儚い。」


宇宙の研究を行っていた父の資料を見たり、話を聞いていた彩伽は、

学者ほど専門的でなくともある程度の知識を持っている。


「でも、多元宇宙理論は?」


ブラックホールはその入り口とも言われている。


「この宇宙の全てを把握する事は、我々には不可能だ。

それを悟った時に、自分が出来る変革をしようと決めた。」


行隆は彩伽を指差す。


「それだよ、その無限に溢れるエネルギー。

想像力こそが世界に源だという理論は、正しかった。

彩伽、君が証明してくれたんだよ。」


それが、本当にそうであるのか、確かめる術はない。

けれど、行隆はそう信じていた。


「恐らく、君のその力は、ビッグバンすら起こせる。

この宇宙の丸ごと生まれ変わらせることすら可能なエネルギーを秘めているんだ!」


行隆のそれは狂気を孕んでいた。


「もしかして、多元宇宙を統合して一つの宇宙に生まれ変わらせようとしているの?」


行隆はすかさず答える。


「そうだ!

そうだよ!!

尽きることのないエネルギーがあれば、宇宙は死なない。

滅びることのない唯一の宇宙で、ずっと生きていけるんだ。」


行隆の言っている事は、めちゃくちゃだった。

途方もない話にめまいがする。


「そんな膨大なエネルギーが私にあるはずない。」


戸惑い、恐怖、悲しみ。

様々な感情が渦巻く。


「彩伽?」


感情の揺れが激しくなり、彩伽の部屋に激震が走る。


「さい…か!!」


アルテルの呼びかけが聞こえ、振り返る。

部屋に帰らなくては。


「彩伽、どこへ行く?

もう君は部屋へ戻らなくていい。

宇宙に変革を起こすんだ!!」


行隆の亡霊。

彩伽はそんな風に感じながら、それを否定した。

そもそも、地球人の父親ではない。


「いいえ。

私の居場所はあそこなの!」


黒い粒子が渦巻いて行く手を阻む。


「君は、宇宙に変革を起こすんだ!!」


取り囲まれ、逃げられないように思えたが、

お互いが粒子なのだからすり抜けられる。

そして、このブラックホールの核は、この場所から動くことは出来ない。


彩伽は黒い粒子の間を突き抜けるようにしてすり抜ける。

急いで元来た方へ進もうとするが、なかなか進めない。


「大丈夫、行ける。」


自分が無意識に呟いた声に反応して、今度は叫んだ。


「大丈夫!!行ける!!!」


我武者羅に進み、気が付けば、もう力の及ばないところまで来ていた。

彩伽は安堵のため息を漏らすと同時に脱力し、行隆の事を思った。

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