世界11
もしかしら、彩伽はこのまま帰ってこないかもしれない。
そんな不安が過る瞬間が何度かあった。
彩伽本体の痙攣だけでなく、この世界で起きたことがない現象が起きていた。
彩伽の部屋に限定したことだが、まるで地震が起きたかのように大きく揺れ、
その時は48体の分身も慌てふためき、なだめるのに苦労した。
その他にも、壁にひびが出来てそこから光が漏れだしたり、
部屋が縮小しそうになったりした。
都度、彩伽が遠隔で対処してきたが、次に何が起きるのか想像がつかないこの状況に、
不安は募るばかりだ。
彩伽の事は信じているし、成し遂げてくれると思っている。
だが、世界の反応については未知数だ。
数々の現象は、この世界の秘密を暴こうとしている彩伽に、
創造主が警告として起こしているのかもしれない。
もし、そうだとしたら。
今は警告程度の事でも、今後、本当に怒りを買ってしまったら。
しかし、彩伽は走り続けている。
アルテルはいつしか、自分で対処できるような些細なことは彩伽に報告しなくなった。
彩伽でしかどうにも対処できない事だけを報告して、対処してもらっていた。
本当にそれが正しいことなのかわからなかった。
だが、心配をかけたくなかった。
恐らく、後で彩伽が知ったら怒るのだろう。
なんでも話してほしかった、と。
アルテルが誕生してどのくらいの時が経ったのかはわからないが、
少なくとも彩伽よりずっと長く生きているし、沢山の人間に会っている。
それでも、これまで感情というものを知らなかったアルテルにとっては、
その機微がまだわからない。
きっと、彩伽はある意味で自分の事を子供の様に思っているだろうことは、
察していた。
同時に、ある意味アルテルの母親のような存在だと、
彩伽自身が感じていることも。
いつか、そのバランスが変わり、自分が彩伽を支えることが出来るような、
そんな存在になれるだろうか…
アルテルはそんな想いを抱えながら、また窓の外を見つめた。




