世界10
まるで壁があるかのようにそれ以上は先に進めないのか、
大きな丸い世界をぐるぐると回っていた。
壁に当たったわけではないが、自然にその地点で方向転換している。
思ったほど広い空間ではないのかもしれない。
気を取り直して、彩伽はその壁らしき部分をくまなく辿ることにした。
足跡はすべて視覚化して、一度通った場所はわかるようにしながら。
自分には出来る、と、もう一度強く心を持ち直し、壁を超速で辿っていく。
どこにも出口のようなものは見つからない。
どのくらいの時間が経ったか、全体を把握するまでにさらにどれほどの時間を要するか、
そんなことを考えるのはもうやめよう、と、彩伽は思った。
無駄なことを考えても仕方がない。
とにかくやるだけだ。
今は、一先ずのゴールが見えている。
心が折れそうになっても、もう大丈夫。
駆ける彩伽の光は、彩伽の部屋からはあまりに遠く見えなかったが、
時間差で届き始めていた。
「彩伽…」
アルテルは部屋の外を見つめ、呟いた。
部屋に視線を戻すと、48体の分身は、懸命に働いている。
彩伽の作り出した世界はあまりに多く、
アルテルが定期的に行っていた世界の中の星への偵察は、
もう大分長いこと出来ていない。
夫々の世界がきちんと機能しているのか、
外側から観察するのが精いっぱいだった。
まだ小さな部屋だった頃が懐かしい。
世界の全ての星を確認して回ることが出来た。
マロンもいたあの頃…
アルテルの寂しさや、思いはこの部屋には影響しない。
この部屋は彩伽の部屋なのだから。
「早く、帰ってきてください…彩伽…」
伝えない言葉を口に出した途端、アルテルの瞳から涙がこぼれ落ちた。




