世界5
行隆はそうして見守るうちに、彩伽と同じように宇宙に取り込まれた。
しかし、倉庫には行隆が作り出した宇宙は跡形もなく消えており、
彩伽の遺体捜索を行っていた警察が踏み込んだ時には、
研究の資料など一切なく、長年使われていないような雰囲気が立ち込めていた。
行隆に倉庫の使用を許可していた上司も事態を把握できず、
彩伽はおろか、行隆さえも忽然と消えてしまった現状を誰も解明できなかった。
何人かに容疑がかかったものの、結局証拠がなく、
そのうち、二人が存在したことも、
最初からなかったことのようになくなってしまった。
そんな状況であることは、彩伽は知るはずもなく、
もはや自分が地球には戻れないという事を理解しているに過ぎなかった。
この世界で生きていくしかない。
そんな中で、この世界の根源を探している。
もう、どれほどの時間が過ぎたのかわからなかった。
ただ、アルテルの呼びかけはなく、意識も途切れることはないから、
問題は起きていないのだろう、と、信じていた。
連絡手段がないのだから仕方がない。
と、思ったところで、
本当にないのだろうか?と、思い直した。
もしかしたら、こちらから呼びかけることもできるのではないか。
「アルテル、聞こえる?」
それはいわゆるテレパシーのようなもので、
彩伽は言葉を発してはいない。
しばらく待ったが応答がなく、もう一度呼びかける。
「アルテル!」
今度はアルテルの頭の中に直接言葉が届くのを強くイメージした。
「さ…い・か?」
通信状況の悪い無線のようにアルテルの声が聞こえた。
アルテルに、私に声が届くことを強くイメージするように伝えると、
その声がクリアに聞こえるようになった。
「アルテル!よかった!
そっちは順調?」
孤独に当てもなく世界を彷徨っていたから、
誰かと話をできることがうれしい。
「順調ですよ。
48体全員、元気に働いていますし、彩伽の身体にも変化はありません。」
アルテルも嬉しそうに話す。
48体の分身は話すことがないので、アルテルもまた孤独な時間を過ごしていたのだ。
二人はそれからしばらくとりとめもない話をし、互いに救われたような気持になった。




