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世界2
彩伽の父、行隆が、
自らの仮説に基づき、研究を秘密裏に行っていたのは事実だった。
会社の未使用になった倉庫を自由に使う許可を得ていたため、
仕事を終えると連日その倉庫に通い詰めていた。
時には泊まり込みになることもあり、
それから夫婦の不仲が加速していた。
状況的には浮気を疑われても仕方がなく、
しかし、行隆は説明をしない。
自分が行っている実験を誰にも話すつもりがなかったし、
むしろ知られてはいけないと思っていた。
夫婦仲はますます悪化するが、
行隆は意に介さず。
その時は、実験の事で頭がいっぱいだった。
その実験とは、
宇宙を創ること。
様々な試みが何度も失敗した。
あらゆる実験に言えることであると思うが、
成功までの道のりは険しく長い。
その険しさや、長さは夫々違うとしても、
一度目から成功する実験など、恐らく存在しないはずだ。
行隆もそれがわかっていたし、
しかも自分がやろうとしている事の無謀さも大いに自覚していた。
10年か、20年か。
一生かかっても成果は得られないかもしれない。
そういう覚悟をもって臨んでいた。




