彩伽10
アルテルが戻ると、彩伽が途方に暮れていた。
「アルテル、お帰りなさい。
待ってたのよ。」
片方の壁の一部が光っていた。
それは、その部屋が消え、この部屋が広がる予兆だった。
彩伽は何かを考えこんでいる。
「アルテル。
この世界は想像力がすべてで、その力が弱いと、部屋を失うのよね。」
それはこの世界の法則で、変えることのできないものだった。
アルテルが頷くと、彩伽は続けた。
「アルテルに見せてもらった風景では、巡る光の粒子の中に、
大きな一つのブドウの房があるように見えたけれど、その房自体を増やすことは、
出来ないのかしら?」
アルテルは目を丸くした。
今あるものが世界の全てだと思っていたし、
それは不変のものであると信じていたからだ。
「それは…わかりません…」
彩伽に関しては、本当に”わからない”という言葉が多発する。
「やってみましょう。」
強い決意をもって、彩伽が立ち上がる。
「でも、どうして…」
アルテルの戸惑いに、彩伽は迷うことなく答える。
「このままではこの世界に私しかいなくなってしまいかねないからよ。
世界は想像力を必要としているでしょう?
そして、ここは想像力の行き場がないものの場所でもあるわ。」
彩伽がアルテルの手を取る。
「だから、私だけの世界になってしまわないように、何とかしたいの。」
促されるまま、アルテルは部屋の外へ彩伽と共に飛び出した。




