彩伽5
「そして、元の世界でもその生を終えたわけではありません。」
彩伽にとっては衝撃的なことだった。
「…それは、つまり…ここから去るという事は、元の世界に戻るか、
死ぬってことなの?」
アルテルは困った顔をして答えた。
「わからないんです。
ここから去った人がどこへ行くのか。」
死んでいないという事はわかるのに、どうしてわからないのだろう。
彩伽はわからなかったが、アルテルに聞くのは問い詰めるようではばかられた。
「私たちの役割も、本当はよくわからない。」
アルテルは迷子になった子供のような顔をしている。
今まで目の前にある、成すべきことを、ただひたすらに、
何も疑問を持たずにやってきたのだろう。
それが、今は、自分の存在はなんなのか、なぜここに居るのか、
成すべきことは何のためか…
止め処なく溢れる思考に搔き乱されていた。
「アルテル、謎を解きましょう。
どうやら私はまだここに居られるようだから。」
気づけば元の部屋、更に広くなったその空間は、今までとは何かが違っている様に感じた。
「彩伽…これは!!」
そこには階段があった。
それも、上へと続く階段と、下へ続く階段が。
一体どれだけ広くなったのか、まずは上へと昇ってみることにした。




