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旅立ち  作者: 白銀みゆ
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彩伽3

二人は、再び目が開けられないほどの光に包まれ、

目の裏で光の弱まりを感じ、恐る恐る目を開いた。


3人で車に乗り込むと、父がふと呟いた。


「もう、元には戻れないのかな…」


後部座席に座っていた彩伽にはその時の父の表情は見えなかったが、


今にも涙がこぼれ落ちそうになるのをこらえ、エンジンをかける父。

その横で、母は氷のように冷たい顔をしていた。


彩伽の両親は決して仲の良い夫婦とは言えなかった。

むしろ、仲が悪い夫婦と言っていい。

その理由は、彩伽だった。


生まれてすぐにはわからなかったものが、歳を重ねるごとに明確になっていく。

この子は変わっている。

そう気が付いてからの母の焦り、不安、恐怖。

それらを夫にぶつけるだけでなく、子供にもぶつけていた。


「なんであなたは普通にできないの!」


何度となく言われたその言葉が、彩伽には理解できなかった。


反して父は、想像力が豊かなだけじゃないか、とか、個性的でいいじゃないか、と、

いつも笑っていた。

母はそれがなお許せず、ヒステリックになることもしばしば。


自分の娘を嫌いたくないという思いと、まるで異星人のような娘の言動の狭間で揺れ、

母は度々家を空けた。


父もそんな母に徐々に憤りを覚えた。


「なんで、自分の娘をありのまま受け止めてやれないんだ!」


そう叫んだ日、母の中で何かが切れたのだろう。

家には居ても、話はしても、まるで心がこもっていない。


それからしばらくしてマロンが家に来ることになり、

家の空気はがらりと変わった。

しかし、それはあくまでマロンに依存したもので、

マロンを失えばまた元に戻ってしまう、と、心のどこかはわかっていたかもしれない。


丘からの帰り道、一言も会話はなかった。

家につき、玄関で靴を脱ぐ父に続いて彩伽も家に上がるが、

母は、靴を脱ごうとしない。


「…離婚しましょう。」


頭が真っ白になった。

恐らく父も同じだったろう。


次の瞬間、彩伽は駆け出していた。

ほとんど無意識の行動で、台所に駆け入り、包丁を手にした。


「ごめんね…。

私がいるから…」


手首を切るのに迷いはなかった。

あふれ出る血を父が必死に抑えるが、母はやはり氷のように冷たい顔で見つめていた。


「おかあさん…ごめんね…」


その時、初めて母の顔に困惑の表情が浮かんだのを一瞬見て、

彩伽は意識を失った。

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