継続11
思い返せば、彩伽はこれまで出会った人の中で、
一番容易に状況を受け入れた。
自分がいま置かれている立場をいち早理解し、
成すべきことを、まるで何の疑問も抱いていないかのように成した。
マロンに関してや、父に関しての想いが現れることはあっても、
ここにいることに対しての疑問や、自分がなぜそれをなす必要があるのかを、
深く追求されたことはない。
初めて投げかけられた根本的な疑問に、アルテルは頭が真っ白になった。
彩伽もやはり、他の人と同じなのかもしれないと感じたからだ。
「彩伽は、生きていた世界でとてもつらいことが多かったのか、
空想に浸ることが多かったですよね。」
彩伽は少し驚いたような表情を見せた。
「ええ。」
自分はどこにいても浮いていると感じていた。
はっきりそう思ったのは中学生くらいの頃だけれど、
思い返せば、幼稚園の頃からそうだった。
常に達観していて、冷めていて、集団行動に向いていないのだと、
先生もあきらめていたように感じていた。
「お父さんと、マロンの存在が、唯一の鎖だったんです。」
私の居場所はない。
どこにもない。
お父さんと、マロンだけが、心のよりどころだったのは確かだった。
「マロンが亡くなった後の記憶、まだ戻ってませんか?」
ずっと繰り返し追いかけてきた記憶。
なぜかマロンが亡くなった後に家族で出かけたところで止まってしまっている記憶。
「…ええ。」
アルテルは困ったような表情を浮かべ、少し考えてから口を開いた。
「その記憶についてお話することはできませんが、
ともかく彩伽は、”もうここに居たくない”と、強く願ったのです。」
思い出せない記憶。
それがきっかけで、ここへ…。
「アルテル…
その記憶を思い出さない限り、私はずっとここに居るような気がするわ。」




