継続 2
記憶を辿っている間は、
眠っているように意識が他のものを遮断してしまう。
何度も辿った記憶は、一部欠落したままだけれど、
此処の生活だけに集中すれば、眠る時間は必要ない。
延々起きたまま、世界を創り続る。
すると世界が喜んでいるのがわかった。
今まで此処には悲壮感が漂っていて、
欲求不満で空気が張り詰めているようだった。
言葉を発する事のない世界達は、
常に私を求めていたのだ。
まるで違う場所の様に、此処の色合いが変わる。
実際に目に見えて変わっていたのだ。
決意も新たに此処を見直して始めて気付いた事だった。
「ごめんね」
呟くと、答えるように世界の器が幾度かの明滅を繰り返した。
アルテルはそれに気付いて一瞬不思議そうにしたが、
すぐに理解したようだった。
「彩伽、これから世界を見回ってきます。
暫く留守にしますね。」
このところアルテルは、以前のタキシードを着ることはなく、
いつもカラフルなつなぎを着ている。
どのくらい前の事かは表現できないけれど、
ふと服が動きづらいと気付いたようで。
「彩伽、何か動きやすい服に着替えたいのですが、
いい服はありませんか?」
そう言われ、散々色々な服を試した。
「動きやすい服…ねぇ。」
考えながら、体育の授業で着るようなジャージ、
上下揃いの作業服、Tシャツに短パン、
トレーナーにジーンズ、チェックのシャツにサロペット。
アルテルは驚いたり首を傾げたりしながら、
服が変わるたびにカラダを動かして動きやすさを確認した。
「これ、良いですね!」
動きやすさが気に入ったらしいつなぎは、
車の整備工場でよく見かけるような薄いブルーのものだった。
しきりに身体を動かして、満足そうに微笑むアルテルを見て、
なにやら違和感を覚え、私はアルテルの了解も得ず、
つなぎの色を変えた。
「これもいまいちね。」
アルテルは戸惑いながらつなぎを見つめており、
暫くすると目を回した。
「彩伽…少し待って下さい…」
ふらついて弱弱しく訴えるアルテルに、
思わず駆け寄った。
「ごめんなさい、アルテル。」
支えると、何とか倒れずに済んだものの、
酷く目を回している事は明らかだった。
「…だ、大丈夫です。」
苦笑いを浮かべるアルテルに、
更に申し訳ない気持ちになった。
「…」
するとアルテルは。
「彩伽、こんなのはどうでしょう?」
前身ごろと後ろ身ごろばかりか左右まで違う配色のポップな雰囲気。
バラバラに見えて、しっかりまとまっている。
「素敵。」
感嘆は心底自然に出たもので、
アルテルは照れくさそうに微笑んだ。
そうしてアルテルは、時折配色を変えながら、
すっかりお気に入りのつなぎを着ているのだ。
「いってらっしゃい。」
軽く手を振ると、
アルテルも軽く手を上げ。
「はい。いってきます。」
と、出かけていった。




