展開 11
マロンは確かにあの時死んだ。
それは間違いない。
此処にマロンが現れたという事は、
私も死んだのだろうか?
そう思うようになったのは、
暫く時間が経ってからだった。
此処にきて間もない頃、、
私が生きていた地球での生活は、
霞がかかったように曖昧な記憶しかなかった。
元来、記憶は時間と共に薄れていくものだと思っていたが、
此処では記憶は徐々に鮮明になっていった。
最初は思い起こす事が出来なかった両親の顔、
友人たちの顔、様々な自分の過去たち。
それは鮮明になるばかりか、
ある時を境に俯瞰になった。
自分自身を含めて外から見る状態に戸惑い、
最初はそれが記憶であるとは思えなかった。
しかし、確かに記憶なのだ。
1分1秒刻みで鮮明になっていき、
私自身の人生をそのまま映像化したような様子に、
違和感は大きくなっていくばかり。
さかのぼるような時間の流れに気付いた時、
これは記録なのだと悟った。
ちょうど、私が世界を覗く時のような視点で、
頭の中に再生され続けていた。
私が生まれる以前に母のお腹の中で感じていた事まで鮮明に蘇り、
また私の人生がはじまる。
その映像は往復して繰り返し再生され、
再生されるたびに鮮明化していった。
今となっては、私がどんな人生を送ってきたのか、
地球に生きていた時には全く覚えていなかった事まで詳細にわかる。
しかし、マロンとの思い出の丘を家族3人で降りた後から、
此処に来た瞬間までの間だけは、何度往復してもわからない。
その丘を降りるところで、映像は逆再生を始めていた。
何度も何度も。
きっと、その間に何かがあった。
それだけはわかるのに、
それが何であるのかどうしてもわからない。
「一体何があったの?」
無意識に口を吐いた言葉に、アルテルが反応した。
「彩伽?」
アルテル頬に触れると、その姿が思い描いていたものに変わっていく。
こげ茶色の髪。
深い緑色の瞳。
日本人の肌にはない透き通った白さ。
身長176cm、体重は67kg。
筋肉質でありながらも硬質な印象のない、
しなやかな肉体。
「アルテル・・・素敵よ。」
寄り添い、鏡に写す。
「・・・これは・・・」
アルテルが変わり果てた自分の身体を確かめるように触りだす。
戸惑うのは当然の事だろう。
「お父さん。」




