展開 9
「マロン?」
その日、一番早く帰宅したのは私だった。
高校生の私は、友達と遊ぶ事もあったけれど、
この日は両親の帰りが遅い事がわかっていた為、
なるべく早く帰ろうと努め、16:30には帰宅した。
季節は冬に近く、空は暮れかけていた。
「マロン?」
呼びかけながら家中を探す。
家の中にいるはずのマロンが、どこにも見当たらない。
庭に面した窓が開いているのに気付き、庭に出た。
すると、植木の下に黒い影が見えた。
「・・・マロン?」
その姿は出会った時の風景を思い起こさせた。
恐る恐る近付くと、マロンは眠っているように見えた。
しかし。
「マロン…。」
触れた瞬間、マロンがもう逝ってしまったのだとわかった。
冷たく、硬く、少しも動かない身体。
毛の触り心地は心なしか柔らかく、生きている間のそれとは何もかも違っていた。
庭にへたり込み、動けないまま、
ふと気付けば、辺りは暗闇となっていた。
寒さに身震いしてようやく我に帰り、
マロンをこのままにしておくのは可愛そうで、
抱き上げて、また膝の力が抜けた。
何故こんなに軽いのだろう。
こんなに冷たいのだろう。
「マロン・・・」
涙が溢れて止まらなかった。
その涙がマロンに落ちて染みる。
いつか見たアニメのように、
マロンが生き返ってくれないだろうか。
夢のような考えが頭を過ぎり、
また切なくなった。
その後、マロンをタオルで包み、両親の帰りを待った。
珍しく駅で偶然会った、と、一緒に帰ってきた二人は、
異常に気付くなり私に駆け寄った。




