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旅立ち  作者: 白銀みゆ
33/119

展開 7

その後、暫く入院が必要であるマロンを病院へ託して帰り、

父親を加え、家族全員で改めて話し合った。

結果的に、マロンが家族になる事に家族全員が賛成し、

母がすぐに病院へと連絡してくれた。

それが火曜日の夜だった。


その日を迎える為の準備に、一番張り切っていたのは父だった。

僅かな庭のスペースで、犬が楽しく効率的に運動できるように、

と、手作業で可能な限りの高低差をつける。

更に、所々に障害物を設置するというこだわり様。

父製の小さなドックランは、

その日を迎えるまでの期間で、合計5日間あった休みの日を、

全て費やして作り上げられた。

誰よりも父が、新しい家族がやってくるのを心待ちにしていた。


病院からの退院連絡を家族全員が気にしており、

そわそわした毎日を過ごした。

そんな風に向かえた2週間後の金曜日、

ようやく待ち焦がれた電話が鳴った。


いつ電話が鳴っても良いように、

玄関先に必要なものを全てそろえてあった為、

電話を受けてから10分もしないうちに家を出発できた。


土日祝日が休みである父は同行できなかったが、

母は不定休で、その日はたまたま休みだった。

母と二人、子犬用のプラスチック製キャリーケージを抱え、

迎えに行った。


病院のスタッフに促され母がケージを渡すと、

すぐにマロンがケージに入れられてきた。

マロンは忙しなく尻尾を振っていて、

ケージの側面に当たる音が絶え間なく聞こえる。


公園で見つけた時には、

力なく声を絞り出す事しか出来なかったマロンが、

元気になっている。

それが嬉しくて抱きしめたかったけれど、

まだ傷は完全に治っていないと聞かされた。


はがれていないかさぶたがあり、痒い状態でストレスもかかる。

掻かないようにエリザベスカラーをつけなくてはならないが、

入院していなければならないほど深刻でない。

また、病院のスタッフが急病で休んでいるため、

忙しい週末には十分に面倒を見てやれない可能性があるという。

その為、土曜、日曜をどこへも出かけず、

彼と一日中一緒に過ごすという条件の下、

退院してもらう事にした。

そんな話だった。


次の月曜日に診せに来るよう言われ、

その時に異常がなければ触れるし、

散歩にも行けると聞かされた。

私はマロンの為に、

先生が良いと言うまでは絶対に触らないと約束した。


その時はまだ名前のなかったマロンだが

病院のスタッフに訊ねられた。

すぐ傍では母が必要な書類に記入をしていた。


「この子の名前は、もう決めた?」


ケージを覗き込み暫く見つめて考えてから、答えた。


「…マロン。」


すると、誰より先に返事をしたのは、

当のマロンだった。


「ワン!!」


周りに居た大人たちが目を丸くして驚いたが、

次の瞬間には、顔を見合わせ笑み崩れていた。


「マロンはあなたの事が大好きみたい。」


女性スタッフは満面の笑みで、

私もつられて笑顔になった。

そして、マロンは大切な家族の一員になった。

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