展開 7
その後、暫く入院が必要であるマロンを病院へ託して帰り、
父親を加え、家族全員で改めて話し合った。
結果的に、マロンが家族になる事に家族全員が賛成し、
母がすぐに病院へと連絡してくれた。
それが火曜日の夜だった。
その日を迎える為の準備に、一番張り切っていたのは父だった。
僅かな庭のスペースで、犬が楽しく効率的に運動できるように、
と、手作業で可能な限りの高低差をつける。
更に、所々に障害物を設置するというこだわり様。
父製の小さなドックランは、
その日を迎えるまでの期間で、合計5日間あった休みの日を、
全て費やして作り上げられた。
誰よりも父が、新しい家族がやってくるのを心待ちにしていた。
病院からの退院連絡を家族全員が気にしており、
そわそわした毎日を過ごした。
そんな風に向かえた2週間後の金曜日、
ようやく待ち焦がれた電話が鳴った。
いつ電話が鳴っても良いように、
玄関先に必要なものを全てそろえてあった為、
電話を受けてから10分もしないうちに家を出発できた。
土日祝日が休みである父は同行できなかったが、
母は不定休で、その日はたまたま休みだった。
母と二人、子犬用のプラスチック製キャリーケージを抱え、
迎えに行った。
病院のスタッフに促され母がケージを渡すと、
すぐにマロンがケージに入れられてきた。
マロンは忙しなく尻尾を振っていて、
ケージの側面に当たる音が絶え間なく聞こえる。
公園で見つけた時には、
力なく声を絞り出す事しか出来なかったマロンが、
元気になっている。
それが嬉しくて抱きしめたかったけれど、
まだ傷は完全に治っていないと聞かされた。
はがれていないかさぶたがあり、痒い状態でストレスもかかる。
掻かないようにエリザベスカラーをつけなくてはならないが、
入院していなければならないほど深刻でない。
また、病院のスタッフが急病で休んでいるため、
忙しい週末には十分に面倒を見てやれない可能性があるという。
その為、土曜、日曜をどこへも出かけず、
彼と一日中一緒に過ごすという条件の下、
退院してもらう事にした。
そんな話だった。
次の月曜日に診せに来るよう言われ、
その時に異常がなければ触れるし、
散歩にも行けると聞かされた。
私はマロンの為に、
先生が良いと言うまでは絶対に触らないと約束した。
その時はまだ名前のなかったマロンだが
病院のスタッフに訊ねられた。
すぐ傍では母が必要な書類に記入をしていた。
「この子の名前は、もう決めた?」
ケージを覗き込み暫く見つめて考えてから、答えた。
「…マロン。」
すると、誰より先に返事をしたのは、
当のマロンだった。
「ワン!!」
周りに居た大人たちが目を丸くして驚いたが、
次の瞬間には、顔を見合わせ笑み崩れていた。
「マロンはあなたの事が大好きみたい。」
女性スタッフは満面の笑みで、
私もつられて笑顔になった。
そして、マロンは大切な家族の一員になった。




