発見 12
器の中で蠢く銀色のアメーバのようなそれは、外側からは小さく見えても、
実際にはかなり大きくなってしまっているはずだ。
しかし、大きくなり続ける理由はわからない。
「そもそも、此処に持ってきたものを元に戻せるのかしら。」
シルバルドを見つめながら、半ば無意識に呟いていた。
これまで、世界から何かを持ち帰ったことはあっても、
元に戻した事は一度もなかった。
「出来ると思う。」
目線を合わせやすいよう、台に乗ったマロンが、
自信を持って言った。
「何かを持っていった事があるの!?」
問いかけると、マロンはあごを引いて上目遣いになる。
悪い事をした時の表情だ。
「…ご飯、持っていった事がある。」
それは、知らなかったというだけで済む問題ではない。
今まで目安にしてきたマロンのエサの回数と過ぎた時間の計算が、
全く意味を成さない事にもなりかねない事態だ。
私の衝撃は計り知れず、マロンが今にも泣き出しそうな顔をしている。
「彩伽…ごめんなさい。」
すっかり気落ちしてしまったマロンを、
そっと撫でてやる。
「良いのよ。
出かける時にお弁当を持って行くのは、悪い事じゃないわ。」
問題なのは、それを知らせてくれなかった事だ。
しかし、それを言葉にするのは止めておいた。
「そうだ!
一度試しに、少しの欠片を持っていってみてはいかがでしょう?」
必要以上に明るい声で気まずい空気をかき消そうとしているのだとわかった。
「アルテル…でも、どうやって?」
まず、あの器から一部分だけを取り出す事が果たして出来るものか。
「何しろシルバルドは、
此処にあるなんらかの物質で大きくなっている可能性がかなり高い。
ですから、彩伽が吸い取っても、小さくならないかも知れません。
それならいっそ、
何回かに分けて少しの欠片を持って行くんですよ。」
マロンも私も首を傾げた。
暫く考え、ようやく口を開いたのはマロンだった。
「少しずつ持っていって、
バランスの取れるところまでそれを繰り返すって事?」」
アルテルが頷く。
「そうです。
そうして残った部分を彩伽が全て吸収してしまえば、
綺麗に片付くのと思うのです。」
この提案に、一番難色を示したのは、
当然マロンである。
何しろ何往復すれば良いのか検討もつかない。
「まずは一つ試したいことがあるわ。」
やや唐突に切り出した自覚はあったが、
二人は少しも驚いた様子なく、私の言葉に耳を傾ける。
「これと同じ器を持っていけるのか。
それも、蓋を閉めたままで持って行き、向こうで開ける事が出来るのかを、
確認しましょう。」
シルバルドの入った器を指差しながら言うと、
二人が納得してくれた為、即座に新しい器を用意した。




