決別 2
「ボクを呼んだ?」
金色に光る瞳がまっすぐこちらへ向いている。
浮かんでいるように見えるけれど、実際はどうなのだろう。
今は、自分自身さえも浮いているかもしれない状況だ。
「此処はどこ?」
その存在は、徐に首を傾げた。
悩んだ様子で、暫く見つめていたが、
ふいに金色の瞳に触れる寸前の位置へと片方の手をやり、
そのまま何かを撒くように動かした。
すると、粉状の金色の光が四方八方へ飛び散り、
暗闇から一転、朝日に照らされたような明るい場所となる。
と、同時に、
先ほどまでは白い身体に金色の瞳であったその存在は、
黒い身体に銀色の瞳の存在へと姿を変えていた。
「ワタシは“朝の光と夜の闇を操るうさぎ”と呼ばれています。
ラテン語で名付けられたのですが、あなたは日本人だから、
日本語に訳しました。」
目を丸くするばかりで何も言えずにいると、
“朝の光と夜の闇を操るうさぎ”は。
「驚くのも無理はありません。
ここへ来る人間さんは、そう多くはありませんから、
ワタシも久しぶりの人間さんに少し驚いています。」
“朝の光と夜の闇を操るうさぎ”が、
真っ直ぐ身体の横へ片方の手を伸ばすと、
そこへ大きなステッキのようなものが現れる。
宙に浮いているように見えるそれを掴み、
一振りすると、一般的なうさぎ程のサイズから、
人間サイズへ姿を変えた上、グレーのタキシード姿になり、
もう片方の手を伸ばすと、どこからともなくグレーのハットが現れた。
「ルナーレ、とでもお呼び下さい。
他に新しい名前をつけて頂いても一向に構いませんよ。
本来ワタシは名を持たぬ存在ですから。」
そう言われ、反射的に考え始めた。
そういう時、無意識にあごへ手をやるのは、癖だ。
「…白と黒は、ラテン語でなんと言うの?」
直感的に思い浮かんだのは見たままの状態。
「白はアルブス、黒はアーテルです。」
組み合わせる方法を、いくつか頭の中で考えて結果を口に出した。
「じゃあ、アルテル。」
こういう事を考えるのは得意だった。
「なんと。素晴らしい名前をありがとうございます。
大変気に入りましたよ。…えー…」
少し誇らしい気分に浸りながらも、
アルテルが名前を知りたがっている事を悟った。
「サイカ。色彩の彩に、お伽の伽。」
伝わる確信がないのに漢字の表記を言ったのは、
アルテルの口ぶりの影響を受けたのかもしれない。
「彩伽。いい名前ですね。」
ウサギのような印象の形ではあれど、
アルテルの顔つきは宇宙人のそれに近い。
冷たく表情を感じない。
けれど、何か目に見えない波動のようなものが、
アルテルが微笑んでいると伝えていた。




