はじまり 8
本当に寝てしまったマロンに、
寝床を作らなくては。
そう思うと、
景色は部屋と棚のある整然とした空間へ戻る。
先ほどからずっと抱いているマロンには
全く重さがない。
温もりや感触はあると言うのに、
重さだけがないのである。
「不思議ね。」
言いながら部屋の中へ入り、
マロンに相応しい場所を探す。
六角形の部屋の壁は水色で、
白い天上に貼りつく半球状の照明。
白い床に、白いアンティーク風の丸テーブルと、
お揃いの椅子が2脚、
部屋のちょうど真ん中の辺りに置かれている。
真っ白いアップライトピアノは、
ドアの真正面の壁際に、
真っ白い二人がけソファが、
ピアノの両脇の壁際に一つずつ。
マロンがそこにいると違和感があるため、
自然な木の色を基調とした雰囲気に変えた。
丸テーブルの下へ、
ベージュのギンガムチェック柄のペットベッドを思い浮かべると、
思い浮かべた通りに現れる。
そこへ、マロンをそっと寝かせた。
もう一度見回し、
ドアを背にしてピアノの右手に置かれていたソファを消した。
そこへペットベッドが乗るくらいのオットマンを出現させ、
その上へペットベッドを移動させた。
自分の身体に睡眠や食事が不要な事は、
なんとなく悟っていた。
だからこそアルテルは、
キッチンもベッドもないこの部屋を完成だと言ったのだろう。
だが、マロンは今寝ている。
マロンには食事も必要なのだろうか?
答えを示すように、ミニキッチンが現れた。
自分の好みに作り変えると、
空いたもう一面の壁を見て悩む。
果たして本は、
記憶にない範囲まで出てきてくれるのだろうか…
思い描くと、そこには本棚とそこに綺麗に収まった本。
いくつか手にとってページを捲ってみると、
“本物”のようだった。
細かい装飾を部屋に施し、
心ばかりか部屋を大きくした。
窮屈に詰まっていた家具と家具の間に適度な隙間が生まれ、
まとまりの良いところまで。
こうして、此処での生活がはじまった。
第一章はここまでです。
次回からは二章になりますが、8/5~9までの期間はお休みさせて頂きます。
次回更新は8/12を予定しております。
どうぞよろしくお願い致します。




