はじまり 7
「ワン!!」
ちぎれそうなほどに尻尾を振り、
顔を舐めまわす。
慣れ親しんだ動作に、
自然と笑みが漏れた。
「マロン!!」
抱きしめると、
温もりをより強く感じる。
それが、どれほどに尊い事か、
今に至るまでに痛感していた。
「…彩伽?」
ふと胸元から聞こえる声は、
明らかにマロンが発したもの。
息も出来ずに静止したまま、
幾らか時間が経過した。
「どうしたの?」
真っ直ぐ向けられる黒い目が、
途端に信じられなくなる。
「どうして?」
何が?
と、言う風にマロンが首を傾げると、
次の瞬間には。
「ワン!!」
元の鳴き声が響く。
もしや…と、思い至り、
『マロンと話したい』
と、強く思った。
「マロン?」
また首を傾げるマロン。
「なぁに?」
やはり…
そう思うと同時に、
一瞬でもマロンに不信を抱いてしまった自分を悔やんだ。
「…ごめんね…」
言いながら頭を撫でると、
マロンは気持ちよさそうに目を瞑る。
「ん~~、気持ちいい。
耳の下もぉ~。」
思わず笑いが漏れながらも、
望み通り少し指を立てるように撫でてやると、
本当に気持ちよさそうな顔をして、
今にも眠ってしまいそうだ。
マロンは茶色と白のロングコート。
茶色の部分が栗の皮の色に近い為、
マロンと名付けた。
少しウェーブのかかった少し硬めの毛質。
お世辞にも触り心地が良いとは言えないけれど、
マロンが子犬の頃から撫でるのが大好きだった。




