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旅立ち  作者: 白銀みゆ
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輪廻8

考えても、考えても答えが出ず、

あまり頻繁に訪れては申し訳ないと思っていたマザーを訪れることに決めた。


「ちょっと、マザーのところへ行ってくるわ。」


背後から声をかけられたルクスは、身体ごと振り返り。


「行ってらっしゃいませ。お気をつけて。」


と、言った。

まるで執事の様に。


マザーのところに辿り着くと、やはり気だるげに姿を現した。


「…あなた、卵の時点で気が付いていなかったの?」


少々あきれたように告げたマザーは、少し考えてから。


「まあ、致し方がないのかもしれないわね。

恋をしたこともなければ、子供が生まれる過程も経ていないのだから。」


彩伽はマザーが何を言わんとしているのか、何となく察したが、

まだ、まさかという気持ちがあった。


「あなた、すっかりお母さんじゃない。」


目を丸くして驚く。

言葉が見つからない。


しかし、思い返せばすべてそれで説明がつくことも、また事実だった。


卵の頃、片時も離れずに過ごすのは、大変なことだったが、決して苦ではなかった。

なかなか生まれてこない事が心配で仕方なかった。

何が悪いのか、どうしたらいいのかと、悩み、

同時に、生まれてきたら、どうなるのだろうか。

自分にきちんと育てることが出来るのだろうかと不安を募らせた。


しかし、いざマザーが孵してくれて、ようやく生まれてきら、とても嬉しくて。

本当に嬉しくて、愛しくて仕方がなかった。

その瞬間にはアルテルの事は忘れていただろう。


「我が子が大事で、愛していて、心配だからこそ、不安になることもある。

だって、幸せになってほしいもの。」


マザーは厳密に言えば、女性でもなければそれ以前に生物でもない。

だが、この世界の中で沢山の子を生み出していて、

母性を持っているのだろう。

だとすれば、再生するはいえ、我が子の消失は心が痛むことなのではないか。


「アルテルは、確かに普通よりも早く消失したわ。

けれど、それはあの子が、あなたの役に立ちたい、と、自分で選んだこと。

何よりもあなたのために生きることが、あの子の幸せだった。

だから、あれでよかったよ。

だって、アルテルは、この世界の子供の中で一番幸せだったんだから。」


マザーが微笑んでいる。

それが彩伽に伝わって、彩伽はようやくアルテルの消失を昇華出来たような気がした。

アルテルは、幸せだった。

それをマザーの口から聞くことが出来たから。


「あなたにしてみれば、自分が親になるなんて、

大それたことだし、うまくできるか自信がないのでしょう?

それで、不安になるし、アルテルの時と状況も違うから、未知数で暗中模索しているよう。」


全くその通りだった。


「でも、無理に親になろうとすることもないし、

あなたは実際に親ではないのだから、別の接し方をしたっていいのよ。

それこそ、アルテルに接するのと同じ感覚でも構わない。

まあ、学習の面ではある程度時間はかかるでしょうから、

アルテルと同じ感覚で接することができるまでの間は、どうしたって、

親のような気持ちに惑わされることもあるでしょうね。」


無理に親になろうとしなくていい。

マザーのその言葉が彩伽の心を軽くした。


母性本能なのか、どこかで私が守らなくては。

きちんと育てていかなくては。

そんな気持ちがあったのも事実だ。


「この世界の子供とあなたがどう接するかは、あなたの自由なのよ。」


マザーは新しい卵を彩伽に渡す。


「この子は世界に増えた創造者のために、あたらに生まれた子。

この子がどうなるかは、創造者次第。

でも、この世界の子は、いずれにしたって不幸にはならないのよ。

感情がないからそういうことを感じない。

その点、あなたのところに行くと、感情を持ってしまうから、

不幸になる可能性がある。

それも不安要素にはなるだろうけれど…」


マザーは彩伽をじっと見つめて告げた。


「あなたが世界の子を不幸にするとは思えないわ。

だから、そんなに肩ひじ張らないで。

しかも、あなたの不安が過ぎると、この世界に悪影響を及ぼすわ。

あなたはそのことも自覚しなくてはいけない。」


彩伽は、良くも悪くもルクスに掛かり切りになってしまっていた自分を知る。

それは母性本能によるもの。

全体のバランスをとるために、今後ルクスとどう接するのかも、

考えなくてはならない。

前向きに、信じられる方法を。


「マザー、ありがとう。」


結局いつも頼ってしまう。

それが、申し訳なくもあるが、

きっとこの先もなにかしら頼るのだろう。


「あなたの話すのは嫌いじゃないわ。

今後もあなたは世界に変革をもたらし、私に負担をかけるのでしょうけれど、

相談する相手は私しかいないのだから、遠慮せずにいらっしゃい。」


彩伽は苦笑した。


「そうさせてもらうわ。」


挨拶して踵を返した彩伽の顔は、とても晴れやかだった。

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