はじまり 6
意識を向ければ早く育つ。
そういうものなのだとわかり、
手元にあった玉を棚に並べた。
もう一度見回して棚を確認するが、
そこに器がいくつあるのか検討がつかない。
「器はいくつあるの?」
途方もない数に、視界が揺らぐ。
「無限です。
あなたが種を植え、育てる力が尽きるその時まで、
器は無限に現れます。」
確かに、見えないところまで棚は続いている様で、
際限は感じられない。
「此処から、他の場所へは行けないの?」
アルテルはその質問には答えず、
突然姿を消してしまった。
「アルテル!?」
返事はない。
私は可能な限り空間を動き回る。
その都度、空間が形を変えていく。
思い描くものが形になるこの場所には、
不足がない。
唯、孤独だ。
「まさか、友達なんて現れないわよね…」
思い描く友人の姿は、何故か顔がない。
家族の姿も思い浮かべたが、
やはり顔が浮かんでこなかった。
きちんと浮かんできたのは、
6歳の頃からほんの数日前まで一緒に暮らしていた、
ボーダー・コリーのマロンだけだった。
「…ワン!!!」
聴き慣れた鳴き声に反射的に辺りを見回し、
あてもなく呼びかけた。
「マロン!!」
じわり、胸元が温かくなり、
ふと目をやると、そこにマロンが現れた。




