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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第1章――
8/59

8話 蛇は月に染まり…

 今年は涼しく夏を乗りきった。秋も間近に迫る。

 僕は鏡を見ている。鏡、これも錬金術で作った物の一つ。他にも歯ブラシ、石鹸、日本人なら必要不可欠の風呂。


「…変な顔」


 なんとなく呟いてみる。違和感なく自分の顔を見れるようになったのは何時ごろだろう。

 前の日本人だった頃の顔とはだいぶ違う。前の世界でもイケメンというわけではなかった。そしてこの顔もそうだ。温厚な父さん似の顔。決してイケメンではない が、いったって普通の顔?

 髪の毛を触る。茶色に近い黒。さらさらとストレートの髪。寝癖を直す。

 眠気を飛ばすために顔を洗う。


「ふぅ、今日も研究日和。よし!」

「セレクトー手紙が来てるわよー」


 神父の手紙と思い受け取る、すぐに中を取り出して読む。


『やあ、セレクト君。ヤルグです。もしかして神父さんからの手紙と思って期待しちゃった?しちゃったでしょ。まぁ、僕も多忙な身なので要件を単刀直入に書きます。先日お邪魔したさい、色々見させてもらいました。特に目に入ったのは洗面所の鏡と香水が入った純白の石鹸。それと、あの甘い食べ物のケーキとか、とても美味しかったよ。用はこれらの精製をしたいので図面か何かをいただけませんか?ちゃんと報酬は弾みます。ヤルグ・ウィック・ツェルより愛をこめて。』


 呆然と立ち尽くす。

 直ぐ様、台所に居る母さんに事情聴取を行なう。


「母さん、この前、父さんの上司のヤルグって人来た?」

「ヤルグさんってお父さんの仕事場の偉い人よね?来てないわよ」


 手にもった手紙を潰して、


(侵入しやがったなあいつ!…そう言えば二日前に父さんのケーキがなくなってたような)


 何か陰湿な嫌がらせは出来ないかと思考をめぐらてせいると、何時ものうるさいやつらがやってくる。


「セレクトー、マリー号でアイス売りに行くぞー」

「あー分かった、からちょっと待ってて」


 急いで仕度をする。僕たちは、あれから週2回のペースでアイスを売っている。札は市場の混乱を避けるために売っていない。



 何時ものように噴水の周辺で大人にアイスを売る。子供には無料で配る。

 昼前には完売してしまう。


「今日も全部売れたなー」

「材料費を差し引いて銅貨10枚の儲けだな」

「マリーはお金の計算速くなったな」


 ふとマリーが思い出したかのように呟く。


「リザにもアイス食べさせてやりたい、ケーキもまだ食べてない」

「うーん、何時戻ってくるのだろうな」


 リザが王都に検診に行ってから2ヶ月が過ぎている。


「なぁリザって誰だ?」

「ああ、お前はしらなかっな」

「リザは我々マリー海賊団の副団長だ。訳あって名前を伏せていた」

「………」


 多分、忘れていたに違いない。そんな理不尽なマリーを背に、ガイアスが遠くに叫んでいた。


(理不尽を受け入れた君は、大人になった証拠だ。ガイアス)




 その日の夕方。手紙が家にまた届いていた。今朝の事を思うと憂鬱になりながら、恐る恐る中を見る。

 しかし、中の文面は綺麗とも汚いとも、言いがたい文字で書かれている。内容を読んで理解する。リザからだった。あれから2ヶ月、王都での検査がやっと終わって秋祭りには帰って来るそうだ。他にも愚痴のような事が書かれていた。って秋祭りって?


 次の日。マリーにも手紙が届いていたのか、朝一番にやってきた。


「マリー、秋祭りって?」

「そうか、セレクトは初めてか。秋祭りってのは本当にすごいぞ?海の女神様が祝福して海が夜なのに光出すんだ」

「なるほど、確かにすごぞうだ」


 秋祭りまで後2週間。まだ、リザは帰ってこない。

 僕は朝早く噴水の前に集まっていた。辺りはまだ人影も無い。そこにガイアスが現れる。


「よ、ガイアス」

「セレクトか、マリーは?」

「まだ来てない」


 例のごとく、早朝の魚の水揚げ場に行くのだ。

 そして、マリーが少し遅れてやって来た。


「マリー遅い、行くぞ」



 水揚げ場にやってきたが、何時もの活気がない。スキンヘッドの男を見つけたので近づく。


「あ、マリー達か…今日は水揚げは無しだ。早く帰れ」

「えー折角、早起きしたのに。何でだよー」

「まぁ詳しくはいえねぇよ。確定もしてないしな」

「それって大人の事情って奴か?」

「ああ、そうだ。だから帰れ」

「大人の事情じゃしょうがないな」


 マリーが珍しく引き下がる。ガイアスはまだ納得いっていない顔をしていたが、団長の命令でそこを後にする。


「大人は子供に何でも隠しすぎだぜ。」

「同感だ。どうにかして聞き出すか?」


 どうやら諦めていない様だ。僕は大人の意見をぶつける。


「やめておいた方がいい。大人が出来ないのに子供の僕らが何とかできるはずが無い」

「しかし、大人が出来ないことをセレクトはしたぞ?」

「うっ、それはそれ、これはこれだよ」


 こういう場合、マリーは僕の意見を意外と素直に聞いてくれる。


「セレクトがそういうならこのまま解散か」

「えー」

 不満のたらすガイアス

「というわけで、後でセレクトの家に集合だ」

「えー」

 不可避だと理解した上で不満をたらす僕……



 しかし、その噂が耳に届くのはそんなに遅くは無かった。


「海に魔獣が出たんだってよ!」

「「魔獣!!」」


 情報源はガイアスの父、ジーノ。夫婦の会話を盗み聞きしたようだ。

 魔獣、魔物よりはるかに凶暴なモンスター。書物でいくつか読んだ事がある。魔物であれば傭兵で事足りるが、魔獣となると軍隊が必要なレベル。現在、王都に使いの者を出したが、軍隊の到着までには2週間はかかってしまう。


「そんな。秋祭りはどうなる!」

「中止だってよ」

「リザが楽しみにしてるのに!くそ、魔物め!」


 マリーが本気で怒りをあらわにする。マリーさん本当に怖いです、八つ当たりとかは勘弁です。


トントン

「セレクト、お客さんよ?」

「客?」


 マリー以外には尋ねてくるような友達は居ない。

 言われて玄関へ行く。何時ものヤルグの使いが居た。そして用件を聞きくと、


「あー、マリーごめん。急な用事が出来たから出かけてくる」


 二階に聞こえるように伝える。マリー達に早く帰って来いよと言われ家を出る。




「いやー、本当にこまった」


 ヤルグは困ったと言いながら顔は笑っている様に見える。余裕は無くとも、あせりは見せない。職業がら癖になっているのだろう。


「困ってねぇで何とかしやがれ!」

「酷いなー。僕だって色々やってるんですよ。にしても、この時期に大海蛇シーサーペントだなんて。ジーノさん王都からの連絡はまだですか?」

「いや、まだだ」

「周りから傭兵を集めて何とかするか…」

「それはやめておいた方がいい、統率が取れない連中を大量に集めれば大変な事になる」

「だよねぇ。お金も掛かるしねぇ。だからといって、待ってるだけだと危ないしなー」

「って秋祭りはどうなっちまうんだ?」

「ああ、中止だよ。やっぱり、傭兵かなー?」

「まぁ、そこはヤルグさんに任せます。ディーマスさんが居ない今、決定権はあなたにある」

「皆して僕に責任押し付けるの?酷いなーって結論を出すにはまだ早いかな。意見を聞いておきたい人が居るんだよね」


 ジーノは心当たりがあるからヤルグを睨む。スキンヘッドの男は分からない様子だ。そこでドアをノックする音がする。


「入ります」


 セレクトが部屋に入る、ジーノが睨んでいる目がより鋭くなる。スキンヘッドの男が少し驚く。


「ってマリーの腰巾着じゃねーか」


 腰巾着なんて酷い……僕は二人を横目にヤルグに近づく。


「で、僕に何か用ですか?」


 ヤルグが軽く説明をした。


「で、君の意見を聞きたい」

「おい、ちょっと待て。さっきから聞いてりゃ、相手は餓鬼だぞ」

「意見を出さないあなたは黙っていてください。僕は使えるものは何でも使う主義なので。たとえそれが子供でも変わりません。で、どうなの?」

「どう、と聞かれても。そうだな、大海蛇シーサーペントに関する情報はがほしいな。とくに特徴とか描いてあるのとか」

「ああ、それならここにあるよ」


 机の上の本の中から見つけ出す。かなり汚い、必死に調べていたのだろう。


「ほらあった、これで分かるかな?」


 手渡しされた本を開き内容を確認、特徴が絵で描かれている。形は完全に蛇の形をしていた。


大海蛇シーサーペントって言われるだけの事はあるか、蛇だな…でもこれなら対処ができるかな)


 読み終わり本を閉じる。


「どうかな」

「あまり得策って訳でもないけど、罠にはめる方法を思いついた」

「本当に!ぜひ聞かせてほしい」


 概要を説明する。


「やっぱり君に聞いてよかった。でも、もう少し僕に敬意を払ってほしいな」

「子供を平気で利用出来ちゃうとかいう人に、敬意も糞も無いと思います」

「はっはっは、坊主、気に入ったぜ。今度、酒の席に来い」

「これで上手くいくのか?」

「五分五分。いや、それ以下かもしれません」

「でも、失敗しても船が一隻無くなるだけ。安いもんですよ」


 立てた作戦はすぐに実行に移された。

 僕の頼みで助っ人として神父を呼んでもらい、久しぶりの再開。


「神父様すいません、こんな事で呼び出すなんて」

「いやいや、頼ってくれて嬉しいよ。久しぶりにセレクト君と魔法の開発が出来てどきどきしてるくらいだ」


 神父に作戦の内容を説明する。そして、必要な物の作成をする。無人の船を移動させるための風の札の作成、火を起こすための札の作成。他にも色々と小細工。3日ほどで完成した。


「後、一日待って連絡が来なかったら…作戦を実行しよう」


 王都からの返答は無く、作戦が決行される。


 最終調整を終える。


「じゃー後は任せました、僕と神父も高台に行きます」

「後は大人に任せなさい」



 そして僕は、皆が逃げている高台にやって来た。ここからは港が全部見渡せる。母さん達を探す。

 すると母さんが先に僕を見つけてくれる。


「こら、セレクト何所へ行っていたの?」


 母さん達には内緒にしていた。


「神父様も一緒か…って神父様!?」


 神父の存在に気づき母さんと父さんが会話を始めてしまう。

 ふと、人ごみの中にマリーの影を見つけたので隣にいく。高台からマリーは港を見ていた。そして僕の気配に気づき話し始める。


「セレクトはまた何かやっていたんだな」

「いやー、それは」

「知っている、お前は何時も大人を驚かせるような事をする。リザの時もそうだ、私がお祈りしか出来なかったが、お前は何とかしようとしてた」

「でも、あれは」

「全部しってる。リザを治したのはお前だ。私のお祈りは神様には届いてくれなかったし、今回もそうだ。それでもやはり私はお祈りしか出来ない。」

「…それだけじゃ、いけないのか?」


 マリーが初めてこちらを向く。その目は子供らしくなく…決意を目に宿している。


「私は強くなる、いろんな物に立ち向かえるぐらい力がほしい、見ているだけは嫌だ。祈っているだけは嫌だ……………だから…」


 そこで、周りの人が騒ぐ。会話を中断して港を見る。

 僕と神父で罠を仕掛けた船が、沖へと移動し始めていた。何が始まるんだと、周りが騒ぐ。

 そんな船を見守りながら僕は、


(予定の時間だともうすぐか)


 地を響かせるほどの音。船底につけた札が起動したのだ。

 蛇の特性として地響きなどを感知しやすらしい。昔、テレビの動物番組でやっていた事だ。


「セレクト、何が始まるんだ?」

大海蛇シーサーペントを呼び出してるんだ」


 十分ほど経過する。


(早く来い、出ないと発動しちゃう)


 待っていると海に変化が起きる。

 盛り上がる海。


 現れる大きな影。



 大海蛇シーサーペントだ。



 それは予想より大きくて、船の3倍の大きさに見えた。

 避難した人から悲鳴が上がり、パニックになりそうになったが神父が作戦だと説明する。


(でかい…が、予想の範囲内か?)

「大丈夫か?」

「大丈夫だ!」


 大海蛇が船に近づく。船の反対側に尻尾が突き出ると、ぐるぐると船に巻きつく。そして船を潰し始める。

 船には二つのスイッチを用意しておいた、時間で爆発するものと、強い衝撃で爆発するものだ。

 立て続けに爆発する音が響く。

 すさまじい程の衝撃だったが、その爆発でもひるまない大海蛇。しかし、これだけでは終わらない。白い紙が舞、海や濡れた大海蛇の体に張り付くと同時に白い噴煙にも似た冷気が大海蛇を隠す。これは氷の札だが通常の物とは違い力の上限を最大限にまで高めた”氷結の札”

 あっと言うまに大海蛇を覆い尽くしてしまい、冷気が収まるとそこには大海蛇の氷柱が出来ていた。


「…………」


 沈黙が続く……静けさの中で口々につぶやくとそれに答えるように誰かがまたつぶやく……


「おい…あれ…え?」

「氷漬け…?」

「やったんじゃ…ないのか?」

「やったの?」

「………」


 決定的な何かを感じ始めた人々は前触れも無くあわせたように。


「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 人々の間で悲鳴にも似た歓声がわあがる。隣ではマリーがこちらを見て悔しくも嬉しそうに見える表情を見せた後に僕に抱きついてきた。


「お前は本当にすごい。見てみろ、あの大海蛇が氷漬けだ!」


 しかし、歓声はつかの間で、ある異変に誰かが気づく。海が…何時も見ている波の揺れ方がおかしい事に。それでも大海蛇は固まったままだ。


「おい、あれを見ろ!」


 海岸。何か蠢く影。それはここからでも分かる程うねうねと群れている…最初は分からなかったがそれは大海蛇の子供。

 唖然と誰もがここから見える浜辺や漁港工を傍観している、際限が無いと思えるほどに海から上がってくる大海蛇の子供、やがて埋め尽くすほどの数になる。ここからでは小さく見えるが、体長は2メートルはあると予想できる。


 またしてもパニックが起こる、先程とは違い狂気をひしひしと感じる。神父が町の門の外に逃げろと告げると大移動が始まった。

 僕はマリーの手を繋ぎ急いで町の外へと向かう。門の向こうにたどり着くまでに何度も離しそうになったがその度に硬く手を結ぶ…何とか無事に門の外へと逃れ息を整えられる所まで来た。

 そこで見失っていた母さん達を見つけた。抱擁で家族の無事を確認しているとマリーが何かを見つけたようで手を引っ張られる、その先を見るとガイアスがいた。

しかしどこかおかしい…あいつもこの中で迷子になった口のなのかと思い、安心させてやるために声をかける。


「おい、ガイアスどうした?」

「あ、セレクト!マリー! お、俺どうしよう!?」


 思っていたリアクションとはだいぶ異なる事に不安が心を締め付ける


「まぁ、落ち着け、どうした?」


 ガイアスと自分自身に言い聞かせる。


「少し手を離しただけなんだ…本当に少しなんだ。でも、あいつが…フェリアが居なくなっちゃって……」


 その言葉の最後でマリーと僕はまるで体が飛び上がったような感覚になる。


「「!!」」

「とりあえずガイアス!あそこに居る神父様に言ってこい」


 分かったといい、神父様の方へとガイアスが向かう。


「セレクト、お前はどうする」

「どうするもこうするも。助けに行くよ」

「でも、門はもうすぐ閉まるぞ!?」


 僕はマリーとの会話を途中放棄して走り出す。門の前にはまだ人が群れているがお構い無しに突き進む。何とか門が閉まる前に町の中に入れた。

 門がしまる直前に門番が叫んでいたが何の意味もなさない。

 僕は広大な町の中からフェリアを探し出す事が出来る。以前かくれんぼをした際にフェリアを探すためだけに作った魔法、それを今使う。


(どこだ…何所に居る!)


 空気中にわずかに残るフェリアのエーテルを探して走り回る。その途中に木材が転がっていたので錬金で木刀に変える。久しぶりに触る木刀はとても手に馴染む…あの時の辛く苦い思い出は無い。それよりも懐かしさがこみ上げてくる感覚にセレクトは思う。

 未だ残っていると思っていた…憎しみでずっと手に染み付いてついて来るものだと思っていた…でも消えちゃうんだな…忘れられるんだ、こういう事も。


 強く木刀を握り締めて木刀から顔を上げると目の前に大海蛇の子供が道をふさぐ。


(くそ、もうここまで来てやがるのかよ!)


 目の前の障害物をすみやかに排除する動きはあの頃より鈍ってはいたが、まるで問題は無かった。そしてフェリアの痕跡を見つけだし。急いでたどっていく。大通りを横切り。突き当たりの店。その店と店の間の路地。漂うフェリアのエーテルは色濃くなっていき……


「やーーー!!!!」


 大きな声…小さい子供の声。急いで聞こえてきた方向に向かう。

 家の角を曲がったところで何かを取り囲むように大海蛇の子供が群れをなしていた。するとその中の一匹の蛇が体をばねにし飛び掛る瞬間…

「…………!」

 間一髪で木刀が届いた。他の蛇たちがこちらに注意を向けるその一瞬に無駄の無い流れで蛇を叩き伏せる。

 蛇達が囲っていた樽の隅を見る…丸まって怯えた小動物…フェリアが居た。


「フェリア、もう大丈夫だ」

「!!」


 フェリアが飛びついてくる。目には大粒の涙が流れていた。小さくも抱きついてきた温もりを感じる。これだけは絶対に忘れたくない…ふとマリー達の笑顔がよぎる。


「さてと、何時もの平和的な日常に戻らないとな…」


 心のそこ安心したのかそんな事をつぶやき周りを見渡す…が蛇達はとりあえず居ないようだ。急いで来た道を戻る。

 大通りに出る道を曲がると何故か見覚えのある生傷の耐えないブロンド赤毛の少女が…


「って、マリー来ちゃったの!?」

「当たり前だ!団員の危機に駆け付けない団長が何所に居る!!」

「はぁ…まあいいや。とりあえずこれもってて」


 これと言ってフェリアを預ける。


「ああ、分かった。でも来た道はもうやつらが」

「見えてるよ、大丈夫」


 マリーの後方に大量の蛇がうじゃうじゃと居る。


(さっきはフェリアが居て使えなかったけど)


 自然文字を使った魔法を素早く描き、あえて上限を設定しない。

 体から絞るように大量の魔力が込め――放たれた業火は、轟音と共に空気中の酸素を燃やし尽くす。炭化した大量の大海蛇の子供が骸となって崩れる。


「よし、一気に駆け抜けるぞ!」


 先ほどの魔力の大量消費で、精神的にも体力的にも尽きかけている。

 それでも息が途切れて嗚咽が混じりながらも、一生懸命に走る。

 後方は見なくても感じた、その殺気と大量の大海蛇の子供達を……

 あと少し、あと少しと。そしてやっと門が見える……閉まっていたはずの門は開いていて、なにやら騒がしい。が、何も考えられない……


「はっ…はっ…やっとたどり着いた、これは?」


 そこには先ほどは居なかったはずの武装した騎士団の様な人たちが居る。


「セレクト君無事だったね、よかったよ。この人たちは王国の騎士団の人たちだ」

「騎士団!?じゃー早く行ってあげてくさい。ジーノさんたちがまだ残ってるんです」

「分かってるよ、もう動き始める」


 複数の兵士を置いて動き出す。統率の取れた進軍は一つのずれも無い音を奏でながら町へと入っていく。それをマリーと見送っていると…


「そんな事より早く、お母さんの下へ行った方がいい。すごく心配してたよ」

「あ」


 その後僕は母さんにぶたれて、抱きつかれた。また心配をかけてしまった。

 しかし一週間も早く騎士団が到着したのには訳があった…王都に居たディーマスさんが奮闘してくれたおかげだ。

 迅速に町中に散らばった蛇を駆逐していく。

 しかし、その日は街に入れず。町の外にテントを張り過ごすことになった。





「いやー、一時はどうなるかと思ったけど。丸く収まってよかった」

「フェリアももうガイアスから離れるなよ?」

「んー!!」

「ガイアスも手を離さないで居てやれよ?」

「ああ…」


 落ち込むガイアス。

 あの後、ジーノさんたちは無事救出された。ギルドの門を閉めて篭城していたらしい。




「お待ちしておりました、中へどうぞ」


 それからまた数日後―――現在…秋祭り。

 リリアス邸の門の前に来てセバスが中へと丁重に案内してくれる。


「あ、マリーちゃん達やっと来た。始まっちゃうよ」

「すまない、ガイアスが遅れてな。」

「ガイアス君っていうんだ、よろしくね、私リザイア・ルドア・リリアス。リザって呼んでね。」

「が、ガイアスだ、よろしく。」


 若干赤くなりもじもじしている。なんだ一目惚れか?

 自己紹介を終えると急いでリザの部屋のベランダに移動する。


「リザ、約束のケーキだ受け取ってくれ」


 えらそうにマリーが手渡す。もちろん僕が作ったやつだ。


「ありがとう。セバス、これ切って貰って良いかしら?」

「かしこまりました。お嬢様」


 ケーキを食べながらその時を待つ。海には未だに凍ったままの大海蛇シーサーペント。生態調査の標本として騎士団が持って帰るそうだ。今頃はどうやって持って帰るか議論している処だ。


 そしてその時が来た。満月がちょうど真上に差し掛かかり光が海を照らし出すと海中で変化が起きる。


「綺麗だ…」


 僕の口からこぼれる。そこには海が七色に光っている、その中心に氷漬けの大海 蛇が居るが逆に神聖さをかもし出している。


「毎年見てるけど、すげーな!」

「私、この時期になると苦しくて見れなかったんだよね」

「それは…」


 僕は途中で言うのをやめた。この現象を不思議なままにして置きたかったからだ。


「………」

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