7話 お金は計画的に
僕は”先天性魔晶石症候群”の資料を忘れ無い内に作ろうと思い。帰ってから明け方まで制作していた。
次に起きたのは。お昼を回ろうとする時間。ある衝撃で目を覚ます。
「えい!!」
「ぐはぁ!」
「起きろねぼすけ!」
何だと思い目の前を確認。マリーが腹の上に居る。こ、こいつ!
やけに元気そうで、目がらんらんと輝いていた。
「リザが治った!」
「それは良かった…って何!?」
「…ん、何だセレクトが治したんじゃないのか?」
「そんなに早くは無理だよ。一月以上はかかるはず…」
しゃべってからしまったと思う。
「ふっふっふ、だとしたら私の祈りが効いたようだな!」
「はぁ」
馬鹿でよかった…しかし、半日もかからずに治るとかどんだけだろう。アレだけ結晶化が進んでいただけに絶対に一月以上はかかると思っていた。
「お祈りって?」
「私は、セレクトが寝ている間。ずっと教会でリザが治るように祈ってたのだ!そして嫌いなピーマンも食べたのだ!」
なるべく話が違う方向へシフトするように仕向けておく。マリーにせかされながら僕は寝巻きを着替え、遅い朝食を取り、リリアス邸に赴く。その最中何かのお祭りなのか馬車が一台通れる程の幅を残して人だかりが出来ていた。
何所まで続いているのか分からない人の群れにマリーはこれ以上行けない所まで進み困っている。
リリアス邸から伸びる道の方から馬の足音が聞こえ黒い塊が現れる。それには見覚えがあった、父さんが設計した馬車だ。
その馬車の周りで歓声が沸いている。やがて歓声の波が押し寄せ、目の前に馬車が来た時に中から声がした。
「セバス止まって!」
馬車が急に止まり中から女の子が飛び出してきた。
「リザ!良かった、今から向かおうと思ってたんだ」
「ありがとう、マリーちゃん」
マリーが溜め込んでいた物が流れ出すように泣き出す。リザもつられて泣いている。
僕はそんな二人を見つめていると共にリザの経過が気になる。髪の毛にはまだ魔晶石が付着していたがじきに剥がれるだろう。僕がリザを見ている事に、リザが気付くと。恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。
(セレクト、ありがとう)
(お礼ならマリーに言って。マリーが連れて行ってくれなかったら駄目だっただろうし。ってかまだ心が読めるんだ)
(うん、そうみたい。前より感情は伝わってこないけど)
(何処か痛い所とかある?)
「ううん」
リザが声に出した事でマリーが反応する。
「そう言えば馬車に乗って何所に行くんだ?」
「うん、ちょっとお城に」
すぐに僕は理解した。彼女の病気は治ったという前例が無い奇病、だからここより設備が整った王都で治った理由を検査するんだろう。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、すぐ帰れると思うし」
マリーがうな垂れる。リザがなだめ、僕はリザに心で話しかける。
(ああ、リザちょっといいかな)
(何?)
(僕がやった事は内緒って事でお願い)
(分かった)
(あ、でも容体が悪くなったら僕を呼んで。そこまで隠す事でもないからさ)
「………」
リザは途中から答えなかったが物悲しそうな顔で返事をする。マリーとの短いお別れを言い馬車へと戻る、その際馬車に乗っているリリアス夫妻の顔が見えた。やつれた顔は完全には治ってはないが絶望していた黒い陰は無い。
馬車が走り去っていく姿を何時までもマリーと手を繋ぎ見送った。
(結局ガイアス達を紹介出来なかったな。まぁ、すぐに戻ってくるだろ…あ、そう言えばフェリアが風邪ひいてたな、見舞いに行くか。)
その後マリーとフェリアの見舞いに行き、何故かその日は家にガイアスは居なかった。
あれから季節が過ぎ。雨季を迎えた。家の中で遊ぶことが多くなり、その際は何故か僕の家に集まるようになった。
研究やら何やらで時は過ぎる。蒸し暑い季節がやっきた。
「あついー」「んー」
ガイアスとフェリアが木の床に冷たさを求めて転がっている。
「っと出来た。あれマリーは?」
「まだ来てない」
「まぁ、いいか。今から面白いものを見せてあげよう」
僕は今、魔法を閉じ込める実験を行なっていた。この方法はすでに存在していたが実用するには魔術師でしか発動できないという制約があったので、今回はそこを含めての改善を行なう形になった。
今しがた僕が手に持っている物は自然文字と錬金術の融合で作った真っ白いただの紙に自然文字を書きつらねた物。この自然文字に使われているインクの素材は聖水と呼ぶ。この聖水とは魔晶石を水に漬けそこに誰でもいいので魔力を注ぎ込む事で精製が出来る物で、長ったらしく一々魔法を唱えなくても魔法が発動するように作ってみた。従来の物は発動する際に詠唱が必要であったり作った本人しか使えないといった法則があったが、すべて自然文字を使う事で解決できた。こいつは魔法の札とそのまんまの名前で呼ぶ事にする。
水を張った桶を床に置き、そこに先ほどの魔法の札を桶の水に入れる。すると札が水に含まれたエーテルと反応を起こし、水を吸い上げ…
妙な音と共に氷の花が出来上がった。高さ50Cm、幅30Cmほど。
「んー、なかなかの出来だな」
「うおー!氷かこれ。触っても大丈夫か?」
「んー」
「もう大丈夫だよ」
この魔法の札の内容は水分子に含まれる電子を整列させ氷を作る事と、形を作る事が書かれている。花の形にしたのは何所まで細かく操れるか知りたかったからだ。
「これ一つだとまだ部屋が涼しくないから。他の桶を持って来よう」
「了解だ!」
「んー」
ガイアスと共に部屋に水を張った桶を入れる。
フェリアも小さい桶をちょこちょこ運んでいる……可愛い。
しばらくして部屋は涼しくなり、そんな時に奴が来た
「今日は一段と暑いな!!」
奴が勢いよく扉を開けたおかげで、外の蒸し暑い空気が入ってくる。
「マリー暑くなるから。扉を早く閉めて」
「何を…って涼しい!」
部屋の氷に驚きながらも、すぐに近づき。
マリーは氷を見つめる。
「これ買ってきたのか!」
「セレクトが作った」
まだこの世界では氷を作る技術は冬場に出来るものか魔法しかない。
魔法で作った氷はぼったくりな値段で取引されている。
ひと涼みしてからマリーが質問してきた。
「前々から思ってたんだけど、セレクトは魔法が使えるのか?」
「まぁ、これは錬金術だねこれは」
「セレクトって錬金術師なのか!すげー!」「んー!」
ガイアスが今更気が付いたらしい。それに同調するようにフェリアも喜ぶがこちらは理解して無いだろう。まぁ、可愛いので許す。
マリーが氷を見て考えている…
「どうした?」
「これ、売れないのか?」
「あ…」
多分売れる…考えていなかった。
紙だって錬金で作ればコストがかからない。
聖水だってあの石があれば際限無いほどに作れる
「で、どうなんだ?」
「ちょっとまってて、今考えてる」
(手で書くには時間がかかりすぎるから版画を使えばいい…しかし、自然文字が人目に触れるのは避けた方が良いからな。他にも装飾を付け足すか…出来る!)
今まで研究だけに費やして来た分、たまにはこういう事も許されると思う。
僕はマリー達に材料調達を言い渡す。僕は版画の原画を作る。
(コレで研究費を少し稼げるかな)
マリー達が材料調達をしてきたのは使い道のない捨てられた木材。
どんな大きさでも構わないので、部屋にはゴミ屑同然の木材が転がる。
「合格だ。ほらよっと」
「すごいな!」
「すげー!」
「んー!」
木材を一瞬にして白紙の束に変える。数にしてA4用紙1000枚、魔法の札はこれの4分の1の大きさなので4000枚は出来る計算だ。
「で、そっちは出来上がりそうか?」
「あー、まだ時間かかるな。明日まで待ってくれ」
「えー」
「ちゃんとお楽しみも用意するから。文句は言わないでくれ」
ぷんすか言われたが作業の邪魔になるので。もっと木を調達してくるように言った。
僕の作業は深夜までおよんだ。出来たのは判子の用な物が3つ。
次の日。マリー達は朝早くから集まってくれたが…正直、僕はまだ眠い。
「どうだ出来たか?」
「ああ」
僕は朝食を食べた後に色々と準備するものがあるので、魔法の札の作り方を教えた後に家の外へ出た。
時間が過ぎ―――昼になる頃。
準備していた物が完成したので二階へと呼びに行くと予想以上に魔法の札が大量に出来上がっている。僕の方も準備が整ったことを告げ。彼らを庭へと連れ出すと…
「おおお!!おお!!」「………」「!!!」
そこにあったのは移動式の屋台だった。家にあったぼろいリアカーと、余った木材を錬金して作ってみた。
マリーは驚愕しガイアスは言葉も出ない。
「ふっふっ僕を」
「かっこいいぞ!名前は何だ?決めてないのか?なら私が決めてやろう!」
途中からマリーによって妨害される。
そして興奮のあまり僕の声が聞こえていない。
「エキセントマリー号だ!」
何処かで聞いたような響きだがもう、好きにしてくれ。
とりあえず僕は荷物を屋台に運ぶ事にした。
皆でマリー号を運びながら、何時もの噴水の前までやってきた。
途中でいろんな人がギョっとした目で見てきたが、僕は見ないふりをする…
僕達を知っている大人達はこちらを見てから何時もの作業に戻る。
噴水の中に魔法の札を浮かべるとすぐに氷の花が形成される。それを何個も作っていると疑問に思った大人たちが遠めに見てくる。
皆の目が向けられる中で商売を開始する。
マリーとガイアスが呼び込みをし、フェリアは噴水に札を入れて遊んでいる。
ちなみに僕は会計だ。
「安いよ安いよ!今ならこの氷を作る魔法の札が銅貨1枚で100枚買えちゃうよー!」
普段市場で売られる氷は大きさにもよるが。夏の間に売り出される氷は30平方cmで銀貨1枚になる。
ちなみに銅貨25枚で青銅貨1枚。青銅貨が50枚で銀貨が1枚。銀貨が50枚で金貨1枚になる。父さんの給料は青銅貨40枚前後だ。
僕はそこまで儲けたい訳じゃないので。破格で売り出した。
人だかりが僕達の前にどんどん集まってくる、フェリアのおかげで回りも少し涼しい。噴水の周りで涼んでる人も居れば氷の花を見て触ってる人も居る。ガイアスとマリーには呼び込みをする際に整列させるすべを教え、店の回転率を上げる…
「すごい、あっという間に売れちゃうね」
一万枚以上は作っておいた魔法の札があっという間に売れてしまう。30分ほどで完売してしまった。
売れてしまうと人だかりが離れる。残るのは涼んでる人と遠巻きに見ていた子供だけだ。
「あっという間に全部売れちゃったな!また札作るか?」
「ふっふっふ、お楽しみを忘れてないか?」
僕は屋台に隠してあった蓋を開く。中には円柱形の箱が入っている。
「こんな隠し機能もついているだと!」
「驚くのはまだ早い」
箱を取り出して中を確認させる。
「なんだこの白いの?」
「アイスだ!」
「アイスだと!」
「そうだ」
「アイスってなんだ?」
僕がコケそうになったが気を取り直して。箱からアイスを取り出し食べさせる。
「う、美味い!!」
その雄叫びを聞いて、噴水で遊んでいたガイアス達が集まる。
「なんだ?どうした?」
「ガイアスも食べてみろ!」
アイスの匂いを嗅ぐ。僕が作ったといったらすぐに口に入れてしまった。
「口の中で溶けた!うまい!」「んんー!!」
「これも売るのか?」
「いや、売らない、配るよ。あそこの子供達に食べさせてあげよう」
ガイアスに呼びに行くように伝えると。跳ぶ様に子供達の元へ行き、連れて来る。
アイスを事前に錬金術で作っておいた紙コップに入れて配る。スプーンなんかも同様だ。コーンは時間とお金の問題で作れなかったのが口惜しい。
子供達や涼んでいる人に配っていると。いつの間にかまた人だかりが出来始めていた。
そこである二人組みが現れる…ブリミー兄弟だ。
マリーとガイアスは睨みつける、ブリミー兄弟とマリー達が近づく。
僕はそこでマリー達の前に出るとブリミー兄弟がたじろぐ。僕は傭兵の件で子供達には尊敬と憧れの眼差しで見られている英雄だ。同時にあまり近づきずらい存在…それはブリミー兄弟も同様だ。
僕はそこでブリミー兄弟へ不意に近づいて口にある物を押し込む…アイスだ。
「美味いか?」
首をて縦に動かす。美味さのあまり頭がはたらかないようで。
「なら配るのを手伝え。まぁ、それでガイアスの件はチャラにしてやる。後でちゃんと謝っておけよ?」
またもや首を縦に振る。
「セレクト!、なんであんな奴らを!」
「仲良くした方が良いだろ?」
「でも!」
「マリー海賊団は町の平和を守るんじゃなかったのか?あいつらも町の一部だ」
「ううー…」
マリーは自分との苦闘を始める。ブリミー兄弟はガイアスに謝っているのに対してガイアスは威嚇してブリミーに噛み付いていたが。ブリミー兄弟がそれでも謝るのでガイアスは怒を何所にやれば良いのか分からなくなり、落ち着く。最初はあまり話してはいなかったが。そのうち普通に接するようになる。
そんなガイアスの変わり方を見てマリーは苦闘するのをやめてくれた。自分なりの答えを見つけたようだ。
アイスも配り終えようとした時には辺りは人だかりで一杯になっていた。そこにある人物がやってくる。
その人物は周りに解散するように注意を促す…警備団だ。
すぐに人だかりは無くなる。中心に居る僕達の元へやってきた。
「あ、父さん!」「!!」
「あ、こら今は仕事中だ」
ガイアスが父親に抱きつく。苦笑いをしていたが本当は嬉しそうだ。そんなガイアスパパと目が合うと先ほどと同様にこちらに苦笑いを浮かべるが、それは本当に苦虫を噛んだような笑いだ。
僕は何かこの先の展開が気になり聞いてみる。
「あの、商売とかまずかったですかね?」
「うーん、まずいかな…それに人だかりとかも。しっかり商売許可と使用する場所の許可を取らないと」
「ああ、すいません」
「まぁ、今回は最初だし構わないよ。それに君には色々借りがあるしね」
傭兵の件の事だろう。
「そうだ、ついておいで。君を呼んでる人が居るんだ」
「セレクトを捕まえるのか!?」
「違う、大丈夫だ、父さんも着いて行くし」
マリー達が不安そうにこちらを見ていた。屋台を家に持って帰ってくれと告げる。
僕はガイアスパパに連れられて、ある場所へと向かう。
「ちゃんと自己紹介してなかったね。私はジーノだよろしくね」
「セレクト・ヴェントです」
目的地に着くまでガイアスを助けた時の事や、体術について色々質問された。気がついたら目的地らしい建物の前に来ていた。
目の前には必要以上に大きく設計された門が開いている。ここは一目で分かる、ここの町の商業ギルド。町の心臓といっても過言ではないそんな所。
僕はジーノとギルドの中へと入ると、そこには僕達を待っていたかのように案内人が立っていた。
「お待ちしておりました」
「連れて来た」
とだけジーノが言うと、案内人が僕を見て驚いている。すぐに建物の奥へと連れて行かれる。
この中は子供が入れないので内部は初めて見る。大量の荷物が山となり船での出荷待ちの物なのかはたまた入荷されたものなのか僕には分からない。しかしそこらじゅうで商人は忙しそうに走り回り怒号のような叫び声は今にも喧嘩が始まりそうな勢いに思える。そんな建物内部の奥を目指して歩いていくと階段が見えてきた。
「この階段を上がり一番奥の部屋です」
「ありがとう、じゃ行こうかセレクト君」
促されるままに階段を上る…階段は螺旋に出来ている。外観からは何階建てかは分からなかったがこの階段は数階分は跳ばして上がっている気がする、そして上りきると人が一人分通れる程のしかない通路に出た、そこは窓が無く奥に扉が見えるだけ。
ジーノの背中を見ながら歩く。扉の前まで来てジーノがノックをする。
「開いてるよ、入りな」
ジーノが声を出す前に返事が帰って来た。その声は扉越しではあるが妙に若い気がする。
部屋の中に入ると今まで暗い所に居たせいか窓からの射す光が眩しく感じる。
先ほどの声の主は机に腰をかけていたて外見はやはり若く、少年といわれても信じてしまいそうだ。
でもそんな商会の主がこんなにも若くて大丈夫なのだろうか……見た所二〇歳くらい。
「やぁ、始めまして僕の名前はヤルグ・ウィック・ツェル。ここリリア商会の主だ。セレクト・ヴェント君」
自己紹介は要らない様だ。僕は緊張する。
そして一瞬で分かった、こいつは僕の敵になるかもしれない。
「ん、大丈夫だからそんなに緊張しないでよ。別に商売許可とか土地の無断使用とかの話じゃないから」
「………」
「警戒してるね。まぁいいや。この部屋を見てごらん」
部屋の中は色々な物がおいてあり、一つ一つに統一感がない。
「僕は物を集めるのが好きだ、特に変わったものをね」
「………」
「…単刀直入に聞くよ。こういう物を売られると困る。僕の商売もあがったりだ………でも、そんな事はどうでもいい。コレは何だ?」
差し出されたのは、例の札だった。
「僕は今まで色々集めてきた…魔法もそうだ。以前にも魔術師が魔法を封じ込めたアイテムがあった。しかし、魔力を扱えるものだけしか使えない。たしかそうだったはずだ…なのに何でこれは水に浮かべるだけで氷が出来上がる?」
「………」
「他にもこれに使用されている素材、こんなに純白で洗礼された紙は見たことが無い。もしこんな物が市場に流れれば大混乱になるよ」
「………」
「何所で手に入れた?…いや作ったのか?」
たしかに僕の売り出していた氷の札は安すぎると思う。この人が市場の混乱を避けようと僕をこの場に呼んだ。なおかつその僕から情報を得ようとも策略している。
そこで、入ってきた扉からノックが聞こえる。
「何か御呼びでしょうか」
聞き覚えのある声は父さんだ。
「!!」
「忙しいところすみません」
「それより用事とは…ってセレクト!?」
「…父さん………」
僕は消え去りそうな声で呟く。
「役者もそろったし…じゃーもう一度。これは君が作ったの?」
「はい」
「あーあーありがとう。ヴェントさんもう帰っていただいて良いですよ」
「え?ええ!?いやセレクトが!」
「大丈夫、大丈夫」
ヤルグが押し込むように父さんを通路に出してしまう。扉に鍵をかける。
「これでよし」
「卑怯ですね」
「卑怯?ありがとう。ほめ言葉として受け取っておくよ…これで本題に入れる。で、この紙なんだけどうやって作るのかな?」
「錬金術で作った」
「錬金術?ああ、でも錬金術で作った紙は酷く不純物が含まれるはずだけど。どうやって?」
「研究した」
「なるほど。ならこっちの魔法陣も自分で作ったのか。すごいね、天才だね」
「………」
話していて気分が良いものではない。ジーノはさすがに少し怒っている。
「んーあんまり君を虐めると怒られちゃいそうだな。よし、商売の話をしよう!」
「売りませんよ?」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと筋は通すし。保障もしよう。たとえば…この手紙とか?」
紙を見ればすぐに分かる、神父の手紙だ。
「まぁ怒らないで。君が悪いんだよ?こんな便利な物を独り占めしようとするから」
「なら、どうしろと?」
「これを作って僕に売ってくれないか?」
「僕は毎日忙しいし、いちいち作ってはいられない」
「じゃー作り方を教えてくれ。こちらで作る」
一歩もひかない。さすがギルドを代表するだけの事はある。ただでは帰してくれなさそうだ。
「………条件がある」
「よし来た。何でも言ってよ!」
条件の内容はこうだ、この魔法については僕が関与していない事、手紙を盗み見ない事、絶対に高値での取引は行わない事。
「うーん、後の二つの事には少し言わせてもらうよ…この手紙の内容なんだけど、魔法に疎い僕でもやばい事が分かる。普通の配達はよした方がいい。僕の極秘に使ってるルートを特別に使わせてあげるよ。もちろんタダでだ。それと転売に関しては僕の範囲外。仮に見つけたとしたら対処はしておくよ。これでどうかな?」
意外といい人?と思ってしまう。
「そんなに驚かないでよ、筋は通すと言っただろ?、僕はルールは守る人間だよ」
「脅しておいて。どんな口が言うんですか」
「ごめん。君がすごく頑固だったからつい虐めたくなっちゃって」
「酷い大人だ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
それだけ言うとヤルグは部屋のドアの鍵をはずし扉を開く。
「じゃー、明日使いの者を出すから」
無視して通路に出る、後ろからジーノが付いて来る。
「なんだかやばいのに目を付けられたね」
「なら、助けてください」
「僕もあの人が苦手なんだよ」
ヤルグの悪口を言いながら階段を下りる。
階段の前には父さんが居た。
「父さん」
「セレクト大丈夫か?何かされてないか?」
「大丈夫ジーノさんがついていてくれたし、何も問題ないよ」
「そうか、もし何かあったら言うんだぞ?」
「うん、でも大丈夫。本当に何も無いから」
「それじゃー…ジーノさん、これで」
「ああ、またね」
僕はその後父さんと共に家に帰った。
その日も夜なべをして説明書と紙を精製するための魔方陣の判子を作る。
翌朝、ヤルグの使いの者が取りに来て…その日から父さんの給料が上がった。