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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第6章――
58/59

58話 夕闇の宝石

「声、途切れちゃいましたけど……大丈夫でしょうか」

「まだ、問題ないかな。通信が途切れたのも、リザの精神の深層域に近づいてる証拠だし、身体や数値に異状は見られないから続けます」

「でも、驚きです。魔法がこんなにも、えと……凄くて……はは、ダメですね。今の私じゃ何が凄いのか分からないです」

 イースさんの持つ魔法知識において理解できないのはしょうがない。頭ごなしに否定する輩がいる中で、受け入れる器量というものがあるだけで十分だ。

「魔術師の間で現在、使われてる魔法は精霊や神を信奉した、神聖魔法論を主としてるんです。魔法考古学を少しでも学べば分かることですが、今の魔法体系になるには何千年って時間がかけられています。その中でもこの数百年は教会がだいぶ牛耳っているようで、歴史的に改変思考が強く、調べるのに苦労しました……」

 僕が使う自然文字にたどりつくまでの数年間は本当に苦労の連続であった。

「実は魔法って言葉は聖法の対義語として教会が作った言葉だって知ってました? それまでは魔力や魔法っていうのは世界に選ばれた人だとか、才能ある人だけが使えるものとして扱われていたとか。そして魔力は光の力、魔法は五元法とか真言葉なんて呼ばれていたらしいです。ちなみに五元法ってのは魔力の色に合わせて火、水、土、雷、木ってのだったり、時代によっては光や闇が雷と木と入れ替わってて、試行錯誤された魔法の中では禁術がとても多く。真言葉は利権まみれの貴族が登台した時の魔法の体系で、五元法の矛盾を指摘したおおまなか内容でした。まぁどちらも同じ欠点として個人差で使える魔法と使えない魔法がでてしまい、論争激しく戦争沙汰にもなっています」

 今でも人によって得手不得手と魔法が存在するが、それは人の持つ固有の魔力の波長が違うせいだからである。

「えっと、それだと教会は間違った教えを広めてるということですか?」

 国教を否定することにはイースさんも危機意識があるようだ。

「教会が利権を得たのは万人が魔法を扱える法則を独自に見つけたからでして。それ自体の功績はとても褒められる事なんです。ですが、戦争が少なくなり規模も縮小、小さな争いを止めようと魔法を神聖視した教会は、聖法という括りを作りました。そこから本質からずれてしまい、現状となるんです。だから僕はそれらの魔法を紐解いて整理し、式と解を作ることで独自の魔法論を作りました。その集大成として、これが賢者の石という複合的に魔術を展開し、記憶する事が出来る万能魔道具です」

 イースさんが綺麗とつぶやき、それが魔晶石塊だと理解しぎょっと驚いている。

 僕もマリーとリザの脳波を細かく表示し終えたので、分析を開始した。




 一方のマリーはリザの精神深くまで降りてきていた。

 リザがリザである大事な記憶が転がる場所。

「何なんだ。ここは……」

 見たことのない四角い建物が立ち並ぶ風景にマリーは頭をひねる。

 足元にはオルゴールが転がり、つまみを捻るとまるで聞いたことのない曲が周りから流れ出す。

 マリーはアスファルトに舗装された道を適当に選び、歩き出した。

 しだいに街並みは変わる。見たことのないビル群からスペリアムの街並み、それから学園や王都。

 そして見知ったリリアの街並みとなり、目的地を見定めた。

 東に大海、三日月型の入江が特徴的なリリア。そこから南に位置する丘は街が一望でき、リリアス当主が住まう屋敷が建てられている。

 マリーは丘の坂を登りながら、街を見て自身がもつ記憶と同じだと、優しく安堵する。

「あれは……」

 入江の内、その中程に懐かしいものをマリーは見る。

 それは海上で出逢えばその驚異に抗うことは許されず、見るものを震え上がらせる相貌。大海の覇者、名は大海蛇、シー・サーペントであった。

 だけどもそれはマリーの記憶と同じく、氷の中にある。

 何処か神聖的で神々しい風景を見つつ、マリーは屋敷へと到着し、鉄格子の扉に手をかける。

「開かない……」

 鉄格子は固く閉じられ、力をいくらも込めても開く気配は無い。

 飛び越えるのも容易にできたかもしれないが、マリーはあえてもうひとつの入口を目指す。

 そして記憶と同じくそこは開いていた。リザの病が治ってからは使われなくなった通り穴。

 マリーは昔のように木に登り、リザの部屋のバルコニーへと降り立つ。

 何もかもが懐かしいが、当時よりもだいぶ背が伸び、周りが小さく見える。

 いつも鍵が開けられていた扉はすんなりと開く。

「リザ、入るぞ……」

 マリーは返事を待ったあとに一歩踏み入り、部屋を見渡す。

 机や椅子は記憶のままに、その上には数々の想い出深い品が並べられていた。

 その中の一つ、セレクトとマリーが送った鳥を模したブローチを手に持ち、眺めては戻す。

 そしてベッドの傍らへとマリーはやってきた。

「すまない。私のせいでまた……」

 大きな水晶に包まれたリザがその中で眠るように囚われていた。

 いつか見た病を彷彿とさせる光景にマリーは涙を流す。

 今すぐ出してやりたいと触れてみるが無機質な感触に阻まれて、リザを触ることはできない。

「どうすればいい……」

 つぶやくがセレクトの声が届かなくなってからだいぶ経つ。

「私が出して……」

 返事も無くリザの前に立ち尽くす。

 何もできない……

 マリーは知恵の無さや思慮の浅はかさを思い知らされ苛立った。

 セレクトならと何度も頭をめぐる。

 自然と両の手を合わせ――

「やめろ! セレクトが私なら大丈夫だと信用したのだ! もう、裏切ってなるものか! リザを見ろ! 私が助けるんだ!」

 祈りを捧げようとしていた自身へと罰するようにマリーは叫んだ。

 自分が祈ってきた時にセレクトが何をしていたのか思い出す。

「……力ずくで壊すのはダメだ、これはリザの心そのもの、閉じた心。セレクトは何と言っていた……同調がどうのと言っていたはずだ。同調……そうだ、リザの想いと……でも、どうやって」

 そのヒントは有るはずだとマリーは周りを見渡す、その中でリザがもっとも大切に思う物。

 心の拠り所を……

「確か……見てきた……ここに来るまでに」

 鳥のブローチ、知らない音楽、星の降る夜、透明なコップ、白い花の扉、そして大切に持っていた夕闇の水晶。

「そういう事か……」

 リザの中にある物にはセレクトが居て、どれもが輝いていた。見覚えのない物を見ると、言い知れない感情が締めつけに来る……

 マリーも同じ輝きをもって傍にいる……そう思うことでほんのりと、また胸の中が熱くなる。

 改めてリザを見てから手を伸ばし、固く拒絶していた水晶は、水のような抵抗となって沈んでいく。

「リザ、謝らせてくれ。聞いてくれ、私とセレクトは待っている」

 目の前にいるように見えていたリザに手を伸ばしても届かない。

 とても深い……

 全身を水晶へと委ね、リザの想いがマリーへと流れ込んでいく。

 いくつも見えるセレクトの顔、笑い、悲しみ、怒り、困惑、羞恥、会話し、見つめ、交差し……抱きしめる。

 鼓動の温もりが染み込み、響く――

「マリー?」

「ああ、すまない。迎えに来るのが遅れてしまった」

 リザを抱きしめて、周りは部屋へと戻っていた。

 ベッドの上の水晶は消えてリザと目が合う。

「ここは……リリア、なの?」

 部屋の中をリザは見回して、違和感を感じ、マリーを見る。

「いや、リザの心の中だ。セレクトが起きないリザを迎えに行けと、私をよこしたのだ」

「あ、ごめんね。マリー……勝手に心を見ちゃって……」

 リザは倒れる前の事を思い出していた。

「謝るのは私だ、リザ。私は勝手に乱れ、泣き喚いただけだ。辛い思いを押し付けてすまなかった。許して欲しい」

「……うん。わたしの大好きなマリーだもの……だから、わたしも、許してくれる?」

「もちろんだ」

 軽く笑い合うマリーとリザ。

 マリーの手を取りベッドからリザが降りる。

「マリー……この後はどうするの?」

「起きればいい……が、どうすればいいのだろう」

「マリーはどうやってここまで来たの?」

「ひたすら降りて……いや、落ちてきた」

 事細かなルートをリザに説明し、登るのなら一苦労すると説明した。

「うーん。私の心の中だし……登ってからまた考えてみよ」

 リザが先導して屋敷から出る。

 記憶の中にあれど、リリアの風景を見てリザは嬉しく声を漏らす。

 ただ、マリーは先ほどと違う景観に危機感を抱いた、

「いなくなってる……」

「何が?」

「シー・サーペントだ。あのあたりで氷付けになっていた。どこに!」

 地が響く。浅い海岸から顔を出した大海蛇が、街の一角をなぎ倒した瞬間であった。

「どうしよう、マリー……リリアが」

 マリーはどうして大海蛇が動き出したのかを考えた。

 氷と思っていたものは、リザを封印していた水晶。大海蛇はリザが覚醒した事で解かれたのだと……

 セレクトは言っていた、負の感情がリザを侵食し犯したのだと。

 で、あれば。あの大海蛇は負の感情そのもの。

 あれを残して逃げるわけにはいかない。

「もちろん倒す。あれは私の弱さで罪そのもの」

「わたしも手伝うから!」

「……後ろから……魔法は使えるのか?」

「うん、大丈夫みたい!」

「なら、それで頼む。私は囮となって立ち回る」

「気をつけて……」

「ああ」

 マリーは街中へと走り出し、リザも魔法で捉えやすい位置へと開始した。

 

 土煙が立ち込め、街並みは瓦礫と化す。

 偽りのリリアと思っても不快極まりない。

「あの時の私は小さく無力であったが、今は違うぞ」

 丸腰だが強気のマリーは大海蛇を前に恐怖しない、メルヴィナの殺気に比べるのなら取り乱すほどではなかったからだ。

 大口を開けた大海蛇が体をひねり、荒々しい嵐の本流の如く突進してくる。

「分かり易い、動きだ!」

 真横へと避けたマリーは、大海蛇の横っ腹に魔力を込めた蹴りを叩き込む。

「軽すぎる……」

 衝撃は与えられたが硬いウロコと分厚い脂肪で分散する。

 そして大海蛇はその長い胴体を使いマリーを囲んでしまう。

 マリーの逃げ場をなくし、優位的な攻撃を繰り出した大海蛇だったが、

「それで勝ったつもりでいるのか?」

 余裕を見せるのはマリーも同じで、蜷局を中心から跳躍し、その死角となる胴体へと着地する。

 マリーの次の狙いは大海蛇の頭、姿勢低く狙いを定めてマリーは駆け上がった。

「こっちを向け!」

 マリーは大声で叫び、大海蛇が狙い通りに顔を向ける。

 脳天へと衝撃を入れられた大海蛇は大いにのけぞり、手応えが感じられた。だが、

「っ!」

 空中で無防備のマリーに大海蛇の尾が見事に当たり吹っ飛ばされ、瓦礫へとマリーが突っ込んだ。


 リザは大海蛇が魔法で捉えられる距離として、噴水がある広場へと位置を変えていた。

「早くマリーの援護をしないと……」

 得意とする氷の攻撃魔法をリザは選び、描き始める。

 その傍らで大海蛇と対面を果たしたマリーが見え、大きさの対比に泣き言を言ってしまいたくなる。

 大口を開けた大海蛇がマリーを飲み込まんと突撃した瞬間には目をつぶってしまう。衝撃の音が聞こえ、避けたことに安堵する。

「ダメ、早くしなきゃ」

 止まっていた魔法を完成させるべく指を動かすリザ。

 八割方魔法が完成した時に、マリーが攻撃受けてで吹き飛ばされた。

 瓦礫の中で蠢くマリーに怯えを感じるほどに急かされる。

「天空の牙、大峰に輝きて、振り下ろさん。氷河猛りを持って示せ!」

 詠唱を始め、狙いを定め、魔力を込めた。

 変換される理の中心で生まれる氷、それは鋭利にも尖った槍で、いくつも放物線を描き射出される。

「早く届いて!」

 上方から見ていたリザは全貌としてその巨躯を捉えていたが、瓦礫から這い出たマリーは、大海蛇を見失っていた。

 まだ氷の槍は中空、建物を遮蔽物として大海蛇はマリーに這いよる――

 

 現実よりかは幾分か痛みは鈍く、攻撃も軽かったようにマリーには思えた。

 実際に体には傷は見られない。

「奴は何処に……」

 あれだけの巨体がどこぞへ隠れたのか分からない、辺りの気配を察し振り返る。

「くっ!」

 既に大口を開けた大海蛇が眼前と迫り、避けれないと察したマリーは自動的に衝撃に備えようと体が動く。

「…………」

 うっすらとマリーは目を開けると、何本もの氷の槍が辺り一帯に降り注がれ、大海蛇を地面へと縫い止めていた。

 リザの魔法が間に合ったのだと知ると、マリーの方から力が抜けていく。

 だが、まだ大海蛇の眼光からは悪意が生きている。

「今止めをさしてやるぞ……ん?」

 マリーは腰に違和感を感じて手を伸ばし掴む。手になじむそれは、

「今更だが……」

 叱りつける愛刀を鞘から抜き、大海蛇を一刀、真っ二つにされたことで生気が完全に失われた。

 鞘に収めて軽く撫でてやる。

”おーい、マリー聞こえるか? おーい――”

「セレクトか、ちょうどこっちは終わった。リザを助けて悪夢を倒したからな」

”上出来じゃないか、リザはそこにいるの?”

「今は……こっちに向かっている。直ぐに合流だ」

 マリーは坂を降りてくるリザを待っている間、周りの瓦礫や大海蛇が綺麗に消えていることに気づく。

 何事も無かったように街並みが戻っていた。

 ここまでの経緯で不思議がるようでもなんでもない。

「マリー、怪我してない? あれ、大海蛇は……」

「心配をかけたが傷は無い、全部終わった。街並みも戻ってる。それとセレクトと連絡が取れたんだが……リザは聞こえないか?」

”リザが無事で良かった。マリーとも仲直りできたみたいだし、万々歳だ”

 頬を染めたマリーがうっとおしそうに「もう、いいだろ」とつぶやき、リザは笑顔で「うん」とひとこと答えた。

”それで、二人共こっちだと深い眠りに入ってる状態なんだけど、表層意識まで戻ってこれそう?”

 マリーとリザは辺りを見渡して上を見るが、登れそうな所は見当たらない。

「時間をかければ戻れるかもしれないが。私は落ちてきただけだからな」

”心の中だからリザが強く思えば何かしら具現化出来ると思うけど。試してみた?”

「え、そんなことできるの! ちょっと待ってて。試してみる!」

 目を輝かせたリザはウキウキと目をつぶり、強く念じてうーんと唸っている。

 何かが降りてくる影をマリーは捉え、上を見ては流石にぎょっとした。

「リ、リザ。なんか降りてきたぞ……」

「そう、そう、これこれ!」

 小刻みに跳ねたリザの前に銀色で出来た鉄の箱が鎮座し、それを見たマリーは興味深そうに探る。

 上下の矢印が描かれた四角いボタンをリザはドキドキしながらも、しなやかな指で躊躇なく押す。

 なめらかに何層もの鉄の扉が左右に開くと、リザは確信を得て戸惑うことなく中へと入る。

 マリーも釣られて中へと入るが、いったいどういうものなのか分からなかった。

「えーと。これかな。えい!」

 リザは数多くあるボタンの中でもっとも数の大きい物を選んで押す。

 マリーも時折セレクトのノートを覗き見たことのある文字で、それが数字を表すものと理解していた。

 一面だけガラス張りとなっていて、閉塞感は緩和されているが、閉じる扉に不安を感じてリザに聞く。

「なぁ、リザ。これは何だ?」

「えっと。えれべーたーだよ。ボタンを押すと上に運んでくれる鉄の箱なんだって」

 ぐっと膝に重力を感じ、地面から勢いよく離れていく。

「こんなものが……リザ、一体これはどこで?」

「うーん。なんて言えばいいのかな……セレクトが教えてくれたの……ごめんね、マリー。わたしの口からはこれしか言えないの」

 セレクトの秘密をリザの口からは言えないが、自慢したい気持ちと、マリーならいいのではないか。そんな葛藤がリザの曖昧な言動に出てしまった。

「ならセレクトに聞くか。なあ!」

”ん? どうしたの”

「この妙な乗り物はなんなのだ」

”乗り物って?”

「聞いていなかったのか?」

”いや。多分そっちが伝えたいと思ったことしか聞こえないから”

「そうか。なら聞くが。この、えれべぇたーという物が気になってな。こんな物は一体どこで――」

”エレベーター! なんでそんなものが……ああ、そうか。滑車を使った昇降機だけど……気になるならまた今度ちゃんと話すよ。こっちはちょっと手が離せないから。また後で”

 誤魔化されたかとも思うマリーだったが、約束がされたことで納得する。

 エレベーターは既に雲の上まで上昇し、夕闇の空へと戻ってきていた。

 絶景を見ていたリザが感嘆の声を上げたあと、マリーに向き直る。

「ねぇ……マリー。その、わたしはね……セレクトがすごく好きなの……もちろんマリーも好き」

「急に改まってどうした。リザ」

「でも、恋とか愛してるとか……そういう好きなの、セレクトの事が」

「……ああ、そう、だな」

 心臓を鷲掴みにされたような錯覚がマリーを包む、それでもリザはやめない。

「わたし、マリーが感じてることを、助けてくれた時に流れ込んできたの……ねぇ」

 リザの思いがマリーに流れたように、マリーの思いもリザへと伝わっていた。

 そしてその思いの大きさに二人の間で差はない。

「わたしはこれからもこの想いは変わらない、変えたくない……諦めたくない。マリーはセレクトの事どう思ってるの?」

 答えを知るリザはあえて口にする。

 言葉を紡ぎ、想いを形に、伝える重要性をリザは知っている。

「…………」

「マリーはセレクトの事が好き?」

 今、誤魔化すことは許されないとマリーは目を閉じる。

「……私は、セレクトの事が……好きだ」

「うん……」

 目をあけてリザの瞳と交差し、未だ答えを求めていた。

「…………セレクトの事を、あ――」

 


 一時は精神の同調が激しく、マリーを引っ張り出そうかとも思ったが……

 リザの力の暴走が収まり、マリーとも連絡が取れて、一時間。

 外が闇に染まり始めて、やっと二人が目を覚ましてくれた。

「おかえり」

「ただいま」

「…………」

 リザは問題なさそうだが、マリーの様子が変で、目を合わせようとしない。

 可能性を考えるに、少なからず精神に異常をきたしている可能性があるので、個別に検査が必要そうだ。

 只、今は、二人が無事に帰還したことを喜ぼうと思う。

「一時はどうなるかと思ったけど。無事で本当によかった。でも、後でまた心身の異常がないか調べるから。それと、これ。リザに返しておくね」

 魔法の阻害になるためリザから外しておいた夕闇色の首飾りを返すと、リザが付けて欲しいと上半身を近づけてきた。

「リ、リザ! その、汗をだいぶかいたようだ、風呂にしないか!」

「え、あ……うん。そうだね」

 マリーが素っ頓狂に声を荒げ、それに匂いを嗅がれたくないと顔を赤らめたリザが後ろへとのけぞる。

 だから僕の持っていた首飾りは手渡すことになり、二人はそのまま風呂場へと入っていった。

 ちなみにイースさんは僕の持っていた魔法理論を記した資料に夢中で、自分の世界にダイブしてしまっている。

 僕も今しばらくは作業に勤しむとしよう。

 にしても思わぬ収穫である。本当にリザ達から取れたデータは貴重なもので、助けると言う名目があったにしても、整理と解析は今後の研究に大きな助けとなるだろう……

「ん?」

 何やら袖を引っ張られたので顔を向けた。いや、忘れていたわけではない。

「リネットさん。そちらも終わりました?」

 黒装束のリネットさんがいつの間にか居た。

「…………あっち」

 リネットさんはふるふると首を振り、出入り口の扉を指す。

 見てみれば扉は空いたままに、

「ああ、迎えか」

 ペトゥナさんが無表情で立っていた。そしてこちらも黒装束だった。

「この場にいる全員を城に連れて行く……」

 セレーネさんの迎えがペトゥナさんとは思わなかったが、本当に気が進まない。

 既に逃げられる状態にもないのだろう。手に持っていた賢者の石を袖へと隠す。

「二人が湯浴みを始めてしまったので。支度が済むまで待っていてください」 

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