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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第1章――
5/59

5話 団員を救え!

 マリー達とは、あれからは午後に呼びに来るようにと言い聞かせ、ちゃんと分かってくれたようで。それからは、午後から現れるようになってくれた。

 午前中の時間。僕は研究に費やすことになる。

 それからひと月程で自然文字と錬金術との融合が出来る事がわかり喜んでいた。

 と、そんな時……

「友達が来たわよー」

 母さんの声が一階から聞こえてきた内容に僕は悪態おつく。

(にしても午後からだと言ったのに、まだ午前中は3時間以上はあるはずだ!)

 とりあえず改めて来る様にと言いくるめるために一階へと降りることにした。

「マリー午後からだって言ったよね?」

「…!!」

「………」

 視線を少し落としたその先に居たのはガイアスの妹のフェリア。

 ガイアスと同様に髪は黒く、特徴は目が丸くクリクリしている。マリー達の近くに居る時はそれほど怯えた表情を見せないが。

 今はそわそわとしている。

(何でこの子だけ?)

 フェリアは口数が少なく。実のところ僕はまだ話したことが無いし……てか声すら聞いたことが無いかもしれない。

 何故この子”だけ”が来たのか分からない。初めて顔を合わせた時の怯えた顔を思い出す。

(いつも泣きそうな表情してるから話し掛けづらいんだよな)

 観察を続けていると、今度は目を瞑りじたばたとしだす。

 体が揺れるたびに小さな尻尾が揺れている。

(うむ、たしかに……可愛いかもしれない)

 小動物の保護意欲を沸き立てられる。

 そのまま数秒ほど見ていると、この子は意を決したように僕の手を取る。

 何処かへ連れて行こうとしているのだと察する。

 そして、僕は一つの事に思い当たる。

「もしかして、マリー達が危険!?」

「んー!!」

 どうやらそうらしい。

 手を引かれて外に出た僕は目の前でちょこちょこ走っている?フェリアを見つめ、もどかしくなって抱きかかえる事にした。

「で、何所行けばいい!?」

「んー!!」

「噴水か!」

 僕は新しい言語を習得してしまったようだ。


 フェリアを抱きかかえたまま走り出すこと5分、噴水前にたどり着いた僕は肩で息をしている。

 流石に何かを抱えて走るのは疲れる。

 そこにはマリー達と対立する子供が二人、見るからに背は大きく体格もどっしりとしている。

 ただその構図を見てから僕は察する。

(なんだ子供の喧嘩か、僕がはいると3対2になっちゃうしな。それに大人が介入するのはいささか引ける……)

 そんな事を考えていると降ろしたフェリアが無意識に僕の手を掴んで来た。

(ああなんだろこの小動物は……可愛いぞこれ!)

 と、僕がフェリアの可愛らしさに悶絶していると場が動いた。

 マリーが先手必勝とばかりに図体の大きい子供の顔面を拳が捕らえる。

 すると続いてガイアスも動く。

(ああーだめだガイアス。あの動き読まれてる………あちゃー)

 案の定、ガイアスの直線的な攻撃は届かず反撃にガイアスは後ろに転ぶ。

 しかし、泣かずに立ち上がる姿はさすが男の子だ。

 ガイアスは倒れた状態の姿勢から驚く程早く、俊敏に相手をする子供の足にかぶり付く。

(あれ痛いんだよなー……にしてもフェリアかわいいなー)

 僕がお花畑を展開してる間に、マリーは一人で既にもう一人の子供をやっつけていて、ガイアスの戦いに参戦。ガイアスが被り付いている子供に後ろから飛びつくなりヘッドロックを入れ、重心がずれた子供はそのまま後ろに倒れてしまう。

 子供が倒れた拍子にマリーあ下敷きになってしまうが、それでもヘッドロックはかけたままとすごい根性見せるマリー。

「ほら、参ったって言え!」

「ま、参った!」

 マリーは手を離し、一心不乱に被り付いているガイアスをなだめると、のそのそと起き上がった二人の子供は悔しそうに捨て台詞を言って、そそくさと逃げてしまった。

「覚えてやがれ!」

「何時でもこい!何度だって叩き伏せてやる!」

「グルルルルルゥ!」

 ガイアスがいっちょ前にも尻尾お立てて威嚇する。マリーは何やら手振りで何かのサインを作っていた。

 そんなマリー達は自慢げに周りを見て僕達を見つける。

「悪は去った。すまないがセレクトの出番は無かったよ」

「どうも、お疲れ」

「へっへ、見てたか俺の強さ!」

 ガイアスの汚れた服をマリーが払う。よく見ると二人共生傷ある、ただその中には治りかけのもあり、こんな事は日常茶飯事の事のようだ。

「心配してきたけど意味無かった見たいだね。であいつら何?新キャラ?」

「新キャ…「ブリミー兄弟だ!同じ顔してて怖いんだ!でも俺達は正義の味方だから負けねー!」

 マリー何か言おうとしたがガイアスにより妨害される。

 気を取り直してマリーが言う。

「セレクト君が来たのには意味は無くは無い」

「と、言うと?」

「何もして無いセレクトは、私たちに何か奢らないと行けないのだ!」

「なるほど、そう来ましたか」

 しょうがないと思いとりあえず家に来るように言う。

 家に着くまでの間にブリミー兄弟との数々の喧嘩の武勇伝を聞かされた。

 家に着いた時にはちょうどお昼になっていて、母さんがみんなの分も何故か用意してくれていた。

「さすが知将のセレクト!ご飯がもう用意されているとは!」

「うまそー!」

「何で皆の分が用意されてるの母さん?」

「うーん。虫の知らせ?」

「……使い方違うよ」

 いつもの何処か抜けた母さんとのやり取りをしながら昼食にありつく。

 ガイアスが妹の面倒を見ながらご飯を食べる所を見るとお兄ちゃんなんだなと思う。

 こういうのを見ると兄妹も良いかと思ってしまう。

 前の世界でも一人っ子だったので不意に焦燥感にかられた。


 朝食を終え、ゆっくりと床に寝転ぶマリー達。

「マリー、次何所行く?」

「マリーではない団長だ!そうだなぁ……そろそろアジトを見つけに行くか!」

「アジト!」

「まぁちょっと待て、お前達に良い物を食わせてやる。しばし待たれよ」

 僕は若干キャラを変えて言ってみたが、そんな事を行ってしまう自分が段々と毒され始めているきがする……

 台所へと移動すると母さんが食器を洗っていた。

「母さん、小麦何所やったっけ?」

「んーと、そこの棚にしまったけど」

「ありがと」

「何か作るの?」

「ケーキだよ」

「皆に食べて貰うのね。お父さんにも取っといてあげてね」

 実のところ家族には何度かケーキを作ってあげた事がある。もちろん材料の問題があるので、なんちゃってケーキという事になる。

 僕は生地の下地を完成させると、最初に暖めておいた暖炉に入れた。

(30分ぐらいかな)

 すると居間の方から声が聞こえる。

「まだー?ひまー」

(このお子様め。少しも待てんのか!いったい何様だ!……ってお子様か……仕方ない少し暇を潰させてやるか)

 居間へと移動すると視線が集まりねっころがりながら僕に注目する。

「出来た?」

「まだ焼いてるところ。少し時間が出来たからな、暇なんだろ?いい遊びを教えてやろう」

「何々!」

 食いついて来たのがガイアスだけだった。

「いいか良く聴け。その名も”かくれんぼ”だ!」

「かくれんぼ!?」

「って何だ?」

 かくれんぼのルールを簡単に教えると直ぐに理解してくれた。最初は僕が鬼でマリー達を隠れさせる。

 正直な話、僕もかくれんぼは余りした事が無い。

 覚えてるのは小学校低学年の授業で少しやった事があるくらいだった。

「よーし見つけてやるぞー!」

 数を数え終えた僕は探し始める。

 子供は小さく狭い所だったら何所だって隠れられる。一番最初に見つけたのがガイアスだった。階段下の隙間に隠れたつもりだったが尻尾がはみ出ていた。頭かくして何とやらだ。

 尻尾を掴み”見つけた”と言ったが、いつも通りに”キャウン”と鳴いた後に噛み付かれた…痛い。

 次に見つけたのがマリーだった、何所に居たかと言うと天井の柱と柱の間に手と足に力を入れてつっかえていた。力の限界で落ちてきた所を見つけた。

 最後になったフェリアだがなかなか見つからない。さらに15分は探してみたがやはり見つからない。ケーキの出来上がる時間と、クリームを作る時間を入れたら僕が鬼をやっていられる時間も限界だ。

「フェリアー、僕の負けだ。出てきてー!」

      「…………」

 反応がない……

(どうしたものか……そうだ!)

 卑怯かもしれないが魔法で探索をかける。

 魔力というのは人体から微弱ながら放出されている。放出された魔力はエーテルとなって漂うのだが、その際固有の”色”の様な物が付き痕跡になる。時間経過や場所にもよるが。この閉鎖された場所であれば見つけられる。

「みーつけたっと……よくもまぁこんな所に隠れるな……」

 やっとの事見つけたフェリアは小麦粉をしまってあった引き出しに見事な形で入っていた。

 マリーはフェリアに賞賛を送っていた。

 フェリアは何時になくやる気が出ているのか次のかくれんぼはまだかと期待して待っていた。

 しかし、ケーキが出来た事を告げると耳をたれて寂しそうにする、そんなフェリアの姿に僕は……

「ケーキもすごく美味しいから驚くよ」

 そう言うと花が咲いたようにキラキラとした目を向けられてしまった。


 目の前に出されたケーキを見たマリー達は見たこともない、だけど香ばしいそれに目が点になっている。

 このケーキは俗に言うシフォンケーキである。

「究極の兵器”シフォンケーキ”だ」

「究極!何か格好いい!」

 ガイアス君、賞賛をありがとう。

 ケーキを切り分けてそれぞれの皿に載せ、後にクリームをたっぷりと塗ってやる。

「さぁ、ご賞味あれ!」

 三人とも同じタイミングでケーキを口に入れる。

       「…………」

 ………返事が返ってこない

 (……不味かったかな?)

 すると。

「あああああ!!」

「ほあああああ!」

「んーーーー!!」

 まるで帳尻を合わせたように発狂する。

「おい、どうしてくれる、美味いじゃないか!」

「こんなの初めて食べた!ちょううめー!」

「んんーーー!!」

 三者三様の驚き方で、僕に讃賞を送ってくれている。

「これからはセレクトをコックと呼ばせてもらう」

「そうだろ、そうだろ。僕も教授に初めて作って貰った時もそんな反応だったよ。それと僕はコックでは無いサイエンティストだ」

「教授?」

「サイエンティスト?」

「まぁ、今のは聞か無った事にしてくれ。そして、食べたなら帰ってくれ。僕はこの後とても重大な実験があるのだ」

「よーし。またかくれんぼしようぜ!」

「んー!!」

 いつものスルースキルを使われた。そうです空気です、知ってます。最近こんな事ばっかです。

 その日は、ずっとかくれんぼをやらされる羽目になった。


――その夜。

「セレクト、神父様から手紙が届いてるわよ?」

 すぐさま手紙を受け取る。内容は何時もと変わりなく新しい自然文字を見つけたから見てくれという内容と、研究がはかどらないとか伝々。最後にケーキを食べたいと書かれていた。

(母さん的いえば、虫の知らせ?)




 次の日は雨で、流石に誰も来ないと思い気楽に実験をしていると……

 奴らが部屋へと入ってきた。

(雨などお構いなしと言うことか!?)

 その日も。ひたすら、かくれんぼをやらされる羽目になった。

 こどもって飽きないよね………

 帰る時間になるとより雨は酷く、雷も轟く。

 するとこいつ等は泊まると言い出したのだ。

 どうにも口裏を合わせていたらしく自分達の親にも了承済みだとか。

 ふざけんな!こっちの事情はお構いなしか!と叫びたくなる。

 結局の処。それから数日間まともな研究は出来なかった。



 だいぶマリー達の扱いが分かってきた日の事。

 まだ街が動き出す前、朝日すらまだ上がらず、夜の帳が見え隠れする時間。

 例の噴水へと集合させられた。

「あれ、フェリアは?」

 いつものメンバーの中にいないのでガイアスに聞いてみると。

「寝てた」

(そりゃそうか……)

「そうか」

 またガイアスも寝起きなのだろう、テンションが低く一言で会話が終わる。

「集まったな!よし、今から食料確保にいくぞー!!」

 マリーはそんな事はお構い無しのハイテンションで僕たちを先導する。今回の集まりはどうやら朝の魚の網引きを見に行くようだ。

 

――水揚げ場

「お、マリーじゃねーか。また魚を猫糞しにきやがったか?」

 スキンヘッドの巨漢が話しかけてくた。

「手伝いに来てやったぜ!」

 何の物怖じしないマリーに少しひやっとするが、

「いい心意気だ!気に入った。じゃーそこの樽を向こうに持って行ってくれ」

 このやりとりは毎度の事のようだ。

 とりあえず僕も手伝い、樽を運ぶ。

「お!お前さん意外と力あるねぇ!!」

「あ……まぁ。はい」

 少し魔法を駆使したことは内緒。


 1時間ほど手伝った。すでに町は動き出している。

「じゃーその中から好きな奴持って行きな」

 魚のあまりが入った樽には、大きい魚と、中ぐらいの魚と、小さい魚が入っていた。

 ガイアスがすばやく魚を捕まえ様と狙いを定めると……僕はそこで提案をする。

「まぁ、ちょっと待てガイアス」

「ん?」

「このまま早い者勝ちで選んだら後々友達や団員して色々わだかまりが出来てしまうと思うだ……そう思わないか団長?」

 僕が団長と呼んだマリーはすぐにその気になる。 

「いい案でも有るのかね。セレクト一等兵」

(ちょろいな……って誰が一等兵だ!)

 こいつは何所でそんな言葉を覚えてくるんだ……という思いをぐっとこらえる。

「やはりここは互いの運を信じて勝負をするのがいいと思う」

「ふむ、くわしく」

「”ジャンケン”だ!」

「なんだそれは」

「今から説明してやるから待て――」

 そしてジャンケンの説明をしていざ勝負。

 結果、ガイアスが一番大きい魚を抱え、マリーが中ぐらいの魚を担いで、一番小さい魚を僕が握っている、そんな構図が出来上がった。これが言いだしっぺの末路である。

「まぁまぁか」

「母ちゃんおどろくかな!」

(ふむ……ガイアス…僕達のわだかまりは増える一方だよ)

 そんな思いを抱いてるとは露知らず。ガイアスがご機嫌に帰ろうと言う。

 しぶしぶ自分の手の平の獲物を見つめてから、帰路につく。

 南の大通りと中央通りの交差点でガイアスと別れた。

 マリーと僕はもう少し先だ。

「じゃーガイアス気をつけて帰れよ。お前どじっこ属性あるからな」

「じゃーまたな。セレクトの家だぞ!」

「おう、またなー」

「お前ら来るのかよ!」

 と、突っ込みを入れて分かれる……そして少し離れた所で。




 キャン!!




 それは聞き間違えるはずもないガイアスの声。

 咄嗟に振り向くとガイアスが二人の子供に絡まれている。

 そこにいるのはブリミー兄弟でガイアスと何か口論している。

「あいつ等!性懲りも無く!!」

 マリーがとさかを立てて歩き始める。


「へっへっへ、あいつが居なけりゃ怖くねー」

「お前一人なら楽勝だ。この前の恨み晴らさせて貰うぜ。それと、その魚も貰う」

「ガルルゥ!魚は渡さねぇし一人だけどお前らなんか怖くない!」

「生意気言ってるのも今だけだ!」


 マリーと僕が歩き出すがまだ遠い。

「やるってのか。かかってこい!」

「いい度胸だ。うらぁ!」

 次の瞬間……

 ブリミー兄弟がガイアスを押し、バランスを崩したガイアスが後ろへと後ずさる事で男にぶつかってしまう。

 その一連度操作がすべて遅く感じた。そしてそれには訳があった。


「痛ってー」

「だっさ!だっさ!!」

「何やってんだお前?」

 子供達の間での暗黙了解がある、それは外部から来た人間には絶対にちょっかいを出さない事。

 ガイアスがぶつかった先――

 三人の鎧を着込んだ男――

 それはまごうことなき傭兵。

 三人は左から細い体つきの男、小太りだが筋肉がある男、髭を生やした図体の大きい男だ。

 ぶつかったのは真ん中の小太りの男が……

「おいおい、何だこの餓鬼?」

「ちょ、まじうけるですけど」

 細い体つきの男が小太りの男を笑うと。笑われた小太りの男はかんに触ったのだろう。

「お前は黙ってろ!」

 激昂する……ただその大声に対してガイアスは完全に恐怖におののいている。そして自分に何が起きたのか分からない顔だ。

「お…俺……押されて……」

「ほう、誰にだ?」

「あ…あ………」

 すでにブリミー兄弟の姿は無い。

「お前、俺にぶつかって来ただろ。どうしてくれるんだ?俺の朝飯がパーじゃねーか。それに鎧に染みが付いたしよう」

 店の店主が次の物を用意しますからと、フォローを入れるが、小太りの男が睨むと黙ってしまう。

 通行人が輪を造り始める。しかし、誰一人助けに行こうとしない。

 マリーも唖然と見てしまう。当然だ相手は傭兵なのだから。そして、僕も動けないでいる。

 ガイアスが完全に混乱に陥ると先ほど落とした大きな魚が目に入り、何故かガイアスはそれを拾おうとする。

「聞いてんのか?おらぁ!」

 拾い上げようとしてた魚ごとガイアスを蹴り上げる。

「ギャウン!!!!」

 ガイアスの聞いたこともない悲鳴があがった。

「おいおい、俺がまるで悪者みたいじゃねーか。朝っぱらから使い駒されて、被害者だぜ?なぁ!?」

「クーンクーン……」

 消え去りそうな声で鳴く。ガイアスは涙と鼻水を垂らしながら恐怖で動く事も出来ない。

「おいおい、くせぇと思ったら、漏らしてんじゃねーか。」

「ちょ、まじうける」

「おい、団長に知られたら大変な事になる、やめといた方が良いんじゃないか?」

 細身の男はまた下種な笑い形をして。図体の大きい男が制止にかかるが、

「ああ?あんな奴が怖いのか?お前は図体ばっかでかくて。気がちいせぇなおめぇはよ……いいか、ここに居るてめぇら全人だ。何もここでは起きなかった。良いな!」

 普段は和気あいあいとしている民衆、だが自分たちも巻き添えにされては危ないと誰もが踏み込めない。

「……………ヴヴうぅぅ」

 それは先程まで怯えきっていたガイアスから発せられる呻きであったが、少し様子がおかしい。

 なんと言えばいいのだろう……さっきまでの怯えがまるで無いように感じられる。 

「おいおい、泣いてないで弁償しやがれおらぁ!!!」

 小太りの男がうつ伏せのガイアスに蹴りを入れた瞬間であった。

「うううううがががああああぁぁっぁあ!!」

 僕には何が起こったのかは分からない。確認できるのは、ガイアスの魔力が異常に活発になり噴出している事だけだ。

「うわ!こいつ獣化しやがった!!!」

 小太りの男の腕にガイアスが噛み付く。

 それは僕に対してするものとは違い、一切の手加減などしていない噛み付き。 あわてて仲間がガイアスを引き剥がしに掛かるが取れ無い。

 小太りの男が悲鳴を上げる。

 すると小太りの男は痛みを押し殺し地面へとガイアスを叩きつけ、衝撃でガイアスは吹き飛び輪になっている民衆の近くに転がる。

 すると、それをまた除けるように民衆の輪が広がる。今度こそガイアスは気を失った。

 図体の大きい男が小太りを介抱、その腕からは血が流れている。

 代わりにと痩せた男がガイアスに近づいて行く。

(僕は何をやっているんだ……目の前で友達がこんな目にあってるのに……何もしないのかよ……何も動けないのかよ!転生までして何でも出来るんじゃないのかよ!…動けよ俺!)

 不意にマリーが目に入り彼女もまた目の前の光景が信じられない状態で顔が泣きそうである。だけれども怖いながらも前に進もうという意思がそこにはあった。

 そんな時僕の中の何かが外れた気がした。

(はは。何でこんな小さい子にすがろうとしてるんだ…)

 自分のあまりにも愚かさに反吐が出る。

(僕なら何とか出来る……でもこんな中で攻撃魔法は使えないし、でもアレは使わないって……)

 天秤に賭けるまでも無い。考える事でもない。友達を助ける力があるのに何故疑問を抱く必要がある。そう僕には魔法以外に使えるものがある。

      ”波枝流闘剣術”

 破門したとはいえ。師範を破る力があった。それは積み重ねた経験。忘れる事なく体に染み込んだ記憶。鈍ってるとはいえあの中からガイアスを助け出せる力なのではないだろうか。

 マリーは、ガイアスの介抱するため近づいていた。細身の男が、マリーとガイアスに手を掻けようと手を伸ばす。


 その時。


 自分でも分からない程のスピードで飛び込んでいた。途中でおじさんが持っていたモップを拝借する。

 そして細身の男はマリーとガイアスに気を取られていたため僕の動きに反応できない。

 遠心力をこめ、膝めがけて打ち込む。

「うらぁあああああああ!!!」

 そして物の見事に命中。

 しかし、男の膝を強打したさいにモップの部分が折れ、それほどの衝撃は生まなかった。さすがに相手も傭兵だ。そのくらいではやられてくれない。でもバランスを崩すぐらいの衝撃は与えた程度、だから僕は膝を付いたところにすかさずモップの柄を軸に遠心力を加えた回し蹴りを男の顎に入れてやる。細身の男は脳天を揺さぶられ横へと倒れると、ピクリとも動かなくなった。

 僕は他の2人の傭兵を探す。

 しかし、映るのは小太りの男だけ。

(髭男は何所だ!)

 回りを確認するしていると、マリーが僕動きに気が付いたのか叫んだ。

「後ろ!」

(くっ!!)

 いつの間にか回り込まれていた。

 そのまま襟首と持っていたモップの柄を奪い取られる。

 そして高く持ち上げられ……

(叩き付けられる!)

 体を力いっぱいに捻り、掴まれていた襟首を引きちぎる。

 僕を叩きつけようとしていた大男は空を切り、無事に着地した僕の目の前にはちょうどいい高さに大男顔が来ていた。

 一瞬たりともその隙を見逃さず、顎へと回し蹴りを入れる。

 大男は一瞬ぴたりと動きを止めたあと、白目を向いて前のめりに倒れ込んだ。

「ふー……」

 ……残るは小太り。

(これだけの動きで、体が疲れてきてる……)

 小太りの男に向き直る。

「ひ、ひぃ」

 一連の動作を見て子供相手に怯える小太りの男は傭兵のプライドも無く噛まれた方とは別の腕で剣を抜く。

 辺りがいっそうとどよめく。

(糞、警戒されすぎたか)

 警戒されて剣を出されると周りにも危ないと思い、一瞬の後悔。

 小太りの男が一心不乱に距離を詰めてきて、剣を振るう。

 僕は寸での所でバックステップでよける。小太りの男は一歩前に出て一層深くとまた剣を横に振る、僕は綺麗に後ろ宙返りでよける。

 次々と繰り出される剣撃と呼ぶには短調の振り回しを寸でで避け続ける。


「くそ!ちょこまかと!」

(小さくてよかった。小回りが利く。相手は重い鎧と重い剣………)


 多少連戦で疲れてきてはいたが僕は特殊な呼吸で体の疲れを騙す。

 小太りの男がバテはじめた。その隙を見て棒を魔法で引き寄せる。

 だがそれを隙と思ったのか小太りの男は大きく上から剣を振りかざす。

(遅いね……)

 棒の強みは予備動作の少なさとその速さ。

 そして何よりも特に突きが早い。

 僕はモップの柄を突き出す、狙いは男の頭上、剣の柄を目掛けて鋭く突く。  小太りの男の手からするりと剣が抜ける落ち……

 勝敗は決した。

 それは圧倒的な速さで僕が男の目の前に二激目の棒を突き出していたから。


 落ちた剣の音が響く……



 一瞬の沈黙………



 ……………


「…う……うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」


 通行人による盛大な雄たけび。周りが揺れた気がした。

 しかし僕は男の眉間から棒をはずさない。

 睨みつけてやる。

「………ひひぃぃ。た、助けて」

(ここで、ばてている事がバレるとめんどくさい)

 苦しいが息を止める。

 それにしてもこいつの絞り出た声はなんとも無様だろう。

(これで終わりだ。最後の一撃を入れろ。ガイアスをあんな目にした奴だかまうことは無いだろ!)

 しかし、僕の体はそれ以上動かない。すると外野から一段と高らかに笑う声がする。民衆の間を縫ってそいつは円の中に入って来た。

 それでも僕は小太りの男からは目を離さない。

 視界に入ってきた男の格好はいたって普通の服装、だがその腰には傭兵の証である剣が鞘に収められているし、かなりの修羅場を生きてきた証が顔にある大小様々な傷が物語る。

 僕の中の緊張が何段階にもなって引き上げられていく。

「お…おかしら。たすけてぇ」

「ハッハッハ!!!お前本当に面白いな。俺を笑い死にさせるきかよ」

(マリーとガイアスは逃げてくれたかな、流石こいつとはやりあいたくない)

「大の大人が3人がかりで餓鬼に負けるとか。本当に笑えるな。てか餓鬼に喧嘩仕掛ける時点で爆笑もんだろ?」

「は……はは」

 小太りの男は乾いた声しか発せられないようで。

「おい餓鬼、そんな物じゃちゃんと出来ないだろ?」

 そういって、先ほど僕が小太りの男から飛ばした剣を拾っては投げる。

 そしてそれが僕の足元へと落ちる。

「おかしら!!」

「ああ?誰がおかしらだって?俺!?待ってくれよ、自分の尻もふけない屑を仲間にした覚えなんか無いぞ!?」

「あ…ああああ」

 小太りの男からはかすれた声しか聞こえない。完全な戦意喪失。

「ふぅ…」

 溜め込んでいた息を吐き。僕は構えていた棒をその場に捨て、後ろを向いては汗を拭いながらマリー達の下へと戻った。

「何だ、やらねーのか?。良い目をしていたんだがな」

 マリーに近づき苦笑いを僕は向ける。

 でも何故かマリーの焦点が合わないし僕を見ていない。

 そして目を大きく広げたマリーは事の顛末を見てしまう。

 例えるならそれはまるでプラスチックを無理やり割った時のような音で。

 僕はすぐにマリーの目を伏せさせ、後ろを向いて惨状を見る。先ほどの男が半笑いで小太りの男に剣を突き刺していた。

「お……おかしら……なんで……?」

「はぁ……ケジメ。それにお前誰?」

 剣を突き刺した状態で傷の男は僕を見て言う。

「おい、そこの餓鬼。名前は何ていう?」

「…………」

「ほんとに食えねぇ餓鬼だ。っと行かないとまずいな」

 そう言ったあと傷の男は民衆の中をわって逃げていった。

 騒ぎを嗅ぎつけた警備団の人達が駆けつけてくれた。誰かが知らせてくれたらしい。数人の警備団が事態の聞き込みと野次馬を追い払う。

 すぐに僕達の元へとも来てくれた。

「息子を助けてくれたんだね……ありがとう」

(息子……ああ)

 ガイアスにすごく似ていて父親なのだということがすぐに分かった。

 後は大丈夫だからといって、気を失ったガイアスを連れて行ってしまう。

 呆然としながらも、僕はマリーを連れてすぐにその場を離れることにした。

 7歳児にとっては余りにも衝撃的過ぎる。親友が痛め付けられ。そして、人の死。

 マリーに何か声をかけようと思ったが、言葉が見つからない…



 どれくらい歩いたか分からない。気がつけば夕日は落ち始めていた。

「私……あの時何も出来なかった。ガイアスが泣いてるのに……何も………」

「僕もだよ………」

 傷を舐め合うような事しか出来ない自分に苛立ちを覚える。

「セレクトはすごかった。あいつら倒しちゃったもん」

「そんな事無い。僕はもっと早く動けたはずだったのに動けなかった………」

「ねぇ…私がもし魚とりに行こうなんて誘わなかったら…大丈夫だったのかな。あいつ等と喧嘩して無かったら。あんな事に成らなかったんじゃないかな?……」

「そんな事は誰にも分からないよ。」

「でも……でも………」

「……………」

 これが始めて見る彼女の涙だった。

 そんな僕は彼女の手を取り、強く握り締めてやる事しか出来ない。

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