42話 ヤルグの腹黒計画
「ってヤルグの仕業かよ!!」
目の前にはニタニタと笑うヤルグがいる。
抱きしめているリザを離し、腕を後ろ手に組んでいるヤルグへと近づく。
「色々聞きたい話はあるが……どういう事か説明してもらえるよな」
荒野の真っ只中、チラホラと見窄らしい家なのか小屋なのか分からない建物が周りには有る。
キャラバンが止まったのはその中にある立派な屋敷の前。
「いやあ、なんて事は無いよ。いつも通り商売の話で色々と助言をしてもらおうと思ってね」
いつもの商売の話のようだが……
その事を伝えずにこんな所まで連れてくるのだから、手の込んだ嫌がらせでしかない。
「それに、道の分岐点で気づかなかったのかな?」
時折僕の心を見透かし、純真そうな腹黒い笑顔で小首をかしげるのには本当に毎度腹が立つ。
商才あふれるヤルグは独自の読心術でも兼ね備えているのだろう……
だが確かに僕も研究で警戒をしていなかったのが悪い……止まる寸前まで気づけなかった訳だし。
しかしヤルグの商売絡みで立ち往生などはごめんだ。
それにリザをリリアに送らないといけないという僕の使命がある……
「僕には商売の話は関係ない。リリアで依頼を受けるならまだしも、リザが居るのに……これ以上ヤルグなんかに構ってられないよ。歩いてでも僕とリザはリリアに向かわせてもらうからね!」
指をさしながら、まだ少し僕より背が高いヤルグを見上げて言ってやった。
そして僕はそのまま振り向く。
「もう、セレトンはの意地悪だなあ、ちょっとスペリアムでの請求書の腹いせに悪戯したからって怒らないでよ。それに人前ではボクの事はさん付けって教えてあげたでしょ?守ってね。僕にも体裁があるんだから……でもさあリザイヤ嬢は本当に帰りたいのかな?」
ヤルグの言葉を無視して振り向いた僕の目に飛び込んできたのはディーマス・ルドロ・リリアスさん。
ディーマスさんはリザの父親でリリアを仕切る貴族である。
それとリザ母と抱擁するリザの姿。
「仕方ないなぁ、じゃあセレクト君だけ”一人ぼっち”の夏休みを過ごしたいらしいから送って差し上げて」
久しぶりに腹黒ヤルグの手の上で僕は踊らされている、それを強く実感した一言だった。
僕の帰る理由を根こそぎここへ持ってきている……そんな意味合いが含まれているのだと気がついた時には。
父さんと母さんの姿が見えていた。
「セレクトっ!!」
「やっと来たな。待っていたよセレクト」
母さんが泣きながら近づき、父さんと一緒に抱きしめられた。
懐かしい匂いがする……ん?
「父さん……母さん」
「オレもいるぜ!!」
母さん達の後ろから聞こえてきたのはガイアスの声……
抱擁をし終えると、ガイアスの他にもその妹のフェリアとその家族も見える。
そして、神父様までもが居た。
積もる話もしたかったが、ヤルグがまだ話をしたいらしく、僕を引っ張ぱって集団から離す。
先程とは違い、ヤルグは真面目な話をする時の感情が読み取れない顔に戻っている。
「セレクト君、今君たちが襲われた話を聞いたんだけど」
「……え?あれはヤルグの差し金じゃなかったの?」
「心外だなあ。ボクは流石にそんな危ない悪戯はしないよ?襲われた以外にも情報はないかな?」
少し疑問が多いところに突っ込んで欲しいのだろうが、こいつのペースに乗せられる事だけは避けたので、流しておこう……
「黒尽くめの人が依頼主ぐらいで、それ以上は分かってない」
「うーん、調べておいたほうがいいな。一応セレクト君とリザイア嬢にはボクが信頼出来る人を護衛につけさせるよ。いいね?」
「うん、ありが……っておい!僕はヤルグの仕事を手伝うなんて言ってないからな!」
「構わないけど。これで困るのはボクよりディーマスさんだよ」
「うっ……」
それを言われてしまえば僕は困るし、考え直さなければならない。
話しぶりからするとヤルグはあくまでディーマスさんの助言役と言う立場らしい。
それにしても荒野の真っ只中で僕に何をさせたいのだろうか……とりあえず思いついたことを言ってみた。
「こんなに痩せた土地で農業やるより、他に良い場所なんていっぱいあるでしょうに……」
「いやいや、そんな事じゃないよ。ちょっと都市を作るのに協力して欲しくて」
「…………は?」
僕は漠然と思う、それはまだ農業を復活させるほうが楽だと。
都市を作るなんて言ったら人生をかけなくてはならない一大事業。
夏休みだけで終わるのかすら怪しい話に乗っかれる訳が……無い。
「それこそ無理な話だろ」
「ごめん言葉が悪かったね、都市作るにあたっての下地を作って欲しいって話なんだよね」
「下地を作る?」
「ここで話すのも何だし屋敷に入ってから話そう」
結局僕はヤルグの誘いにホイホイ付いて行きながら、荒野の屋敷へ入る。その際にふと考え事に、げんなりする。
それは何故ヤルグが最初から”都市を作るための下地”と言わなかったのかを考えてしまったからで。
もしかしたら僕はもっと下を目指せたのかもしれない……
屋敷の中はついこの間までは誰も使っていなかったのか、閑散としている。
ある程度掃除はしてあるようだが、隅までは行き届いていない。
玄関から入って目の前の広間は3階までが吹き抜けていて、大きなシャンデリアに蜘蛛の巣が張っているが見えた。
中央奥には幅が広い階段があり、途中で二手に分かれ二階へとつながっている、手すりで見えないがその先にも広間が続いていそうだ。
そんな玄関口から広間を見るに、ここの元の持ち主はよほど宴が好きだったのだろう……
「これでも相当念入りに掃除を皆でしたんだけどね。領主不在で十数年放置されていたようで、埃がしつこくてね」
カビ臭いにおいもそのせいか……
「他の部屋は綺麗にしてあるから、残りはここだけなんだけど」
何やらヤルグがチラチラと見てくる、僕に残りの清掃でも頼みたいのだろう。
「やってあげるから、早い所本題に入ろう」
「そうですね、ではグラッツさん息子さんをお借りします」
僕の後ろに居た両親には聞かれたくないのだろうか、ヤルグと二人で会話する事になった。
玄関口から左手奥にある扉の部屋。
その部屋は僕の寮部屋よりも小さく、中央には綺麗な膝下ぐらいのテーブルがあり、装飾が施された長椅子がそのテーブルを挟み二つ向かい合わせでセットされていた。
それと窓があるので外も見える。
「とりあえず座って話そうか」
ヤルグの言うとおりに僕は窓を背に長椅子に座る。
話が長くなりそうなので、持っていた手荷物から紅茶セットを取り出し、紅茶を作り始めた。
「その道具面白いね!」
「いいから話して」
興味深々なヤルグを制し、本題に入らせる。
「ちぇ、後で教えてもらうよ……まずはこの領地について教えておくよ」
ヤルグも僕の前の長椅子に座り、話し始める。
ここは昔、農業が盛んで多くの農作物を周りの領地や王都へと下ろしていた。
そして領主も農業に詳しく、土地を痩せさせない農法を見つけ安定供給に成功していたらしい。
もちろんそれで領地は潤い、お金を使いさらに領地を拡大。より多くの農民を抱え何代にもわたって守っていたとか。
だが何代も続けばボンクラが出るのは仕方がない……そのボンクラ領主は地力の事も後先考えず農作物をつくりまくり、土地は荒廃。取れるものも取れなくなったにもかかわらず、何も問題など解決しないまま豪遊を繰り返した。それを見かねた農民は怒り狂い、領主を袋叩きにし、生きたまま土の中に胴体だけを埋めたらしい。
きっと体が腐るまで生きながらえさせられたのかもしれない。
怖い話だが、こんな話はどこにでもある。
ちなみにこの話は領主の間では戒めとして語り継がれているみたいだ。
そして領主の居なくなったこの領地は一度国に召し上げられ、幾度となく領主を取り替えてはみたものの、土地は荒廃してしまっているので使い道がなく、ここ十数年は放置されていたとか。
「だいぶいわく付きの物件ですけど……なんでそこを開拓する羽目になったんですか?」
「それはね、リリアが借金を返し終えて今じゃ開港都市なんて呼ばれてるんだけど、お金が入ってくると周りの溢れた領民が流れてきてね。でもリリアもそんなに土地がないのは知ってるでしょ?それを見かねたディーマスさんが国に申し出てくれまして。まあ領民についてはボクはまだまだ大丈夫だと思ってるんだけど。問題を早く対処しておきたいディーマスさんはちょっと急ぎすぎまして、そこでタダ同然ですが……この不良物件を掴まされてきた次第です」
ディーマスさんは行動が早いが詰めが甘い所がある。
それはきっと人が良いからなのだろうが、ヤルグがいなければ本当にリリアはダメになっていただろう……
「うーん、それで都市開発ってのも何だか急な話のような……」
「痛いところつくね……夏の終わりに首都で祭りが行われるのですが、そこで王国への貢献度が高いリリアのその領主、ディーマスさんに爵位が渡されることが決まってるんです。ただその前祝いのパーティーの場で酔った勢いで都市開発をすると公言してしまい、その他関係各所から人が押し寄せてるんです」
僕は周りの領主にしてやられたなと思う。
何百年と戦争をしていないセプタニアでは領民が増える傾向にある。
先程の話にあったように領民が増えて困っている領主もいっぱい居るのだろう、人が溢れるような領地では仕事を見るけるのも大変だし、不満も積もる。そこで都市開発なんて話があれば食いつくに決まっている。
領民も移動させて、その先で仕事もある。
後腐れもなく嬉しい限り、受け入れる方も人材確保で本来ならWINWINの関係になるはずだが……この荒野だ。
「うわあ、引くに引けなくなってるのか……それでヤルグは便乗して魔法道具の制作所を広げて、改めて工場でも作りたいというわけか」
「すごい、当たりです」
珍しくヤルグが本当の笑顔を見せる。
僕が入れた紅茶のカップを片手に窓際へと移動した。
「喜ぶな、褒めてない!」
そして窓の外を眺めつつ、気を取り直してヤルグは言う。
「まあそれでお金はあるんですけど……なにせ急な話ですからね。こちらで領民を受け入れる体制が整っていないのが実情です」
そこは雇用という重要な役割の一つだと思ったが、ヤルグが人の斡旋で苦い顔をするわけがない。
問題はまだありそうで……嫌な予感がしてつぶやいてみた。
「もしかして……のもしかしてだけど。すでに移民が始まっててこっちに向かってるとかいう話なんじゃ」
「はは、大当たりです」
外を見ているヤルグの笑顔は笑っているのではなく、引きつっているのだと気がついた。
そして手に持ったカップをカタカタと揺らし、口を付ける。
嫌な予感しかしない……
その話が本当だとすれば早い所、最低でも衣食住は確保しないとボンクラ領主と同じ末路になってしまう。
「ちなみにその移民の波はいつ来て、どれくらいの規模になるのかわかってる?」
「さぁ、でも今まさに来てますよ……にしてもこの紅茶は美味しいですね」
ヤルグは創世の大樹の紅茶の効果”安らぎ”を得てから平然と言う。
だが、僕にはヤルグが諦めた様にしか見えない。
慌てて立ち上がり窓の近くへと行く
「おい、ふざけんなよ!!本当かよ!……うわぁ」
窓の外を眺めると、もうすでに数十人もの移民が集まってきていた。
すでに昼は過ぎ、このまま夕刻にでもなろうものなら大変な騒ぎになる……
僕は脱兎のごとくその部屋を飛び出す。
その後ろでヤルグの声が聞こえた。
「セレトンこの紅茶はどうやって作るの!!」
「五月蝿い!死ね!お前も出てきて手伝え!バカ!!」
知的な表現など何もしない、罵倒の声を浴びせ僕は屋敷を出た。
集まる人々のはどんどん集まっていて、その後ろではさらに長く人の尾を作る。
神父様や警備団、それに商人達が集団の先頭に立ち状況の説明をしていた。
僕はそんな神父様に近づき、話しかける。
「神父様、久しぶりです!」
「セレクトくん久しぶりだね、積もる話もありますが。それにしてもすごい人の数だね。どうしようか」
溜まっていく移民は若干不安げである……
中にはここに来れば職があると叫ぶ者がいたり、住居はどこにあるんだと言う者もいる。
もしこれが暴徒と化したらただではすまない。
「とりあえず僕が簡易的な平屋みたいな宿舎を作っちゃいますから、出来るまで何とか持ちこたえてください」
「任されました」
「それとヤルグもすぐに来ると思うので、列でも作らせてください」
僕はまたすぐに踵を返し、より広い場所に向かう。
そして遅れて走ってきたヤルグにとりあえず神父様の手伝いをしてくれと言葉をなげた。
とりあえず移民から目を反らす事で冷静になる。
ここは荒野の真っ只中、有るのは土と石だけ。木材になりそうな木はない。
だから錬金で石と土だけで家を作らなければならなかった。
「石で土を包んで体積増やしてブロックを作って……いやいやそれじゃあ遅すぎる。家自体を錬金で作るしかない」
大きく複雑な物を錬成するには相当な技術と早さを求められるが、賢者の石があれば簡単だ。
それとなる自然文字を選び魔法を構成する。
一度魔法を作り上げれば後は、複製と貼り付けも出来る。
「大きさは……家族5人だとして。十畳一間に玄関つけて台所つけて……トイレも上下水道も風呂場も全部後だ」
今は家だけに集中する。
慣れていないせいで5分少々かかってしまったが、早いほうだと自分に言い聞かせる。
魔法を作りながら今が夏場なのが救いだと思った。
「よし出来た!!」
賢者の石を地面に向けて魔法を発動させると、地面を押上げあっという間に土と石で出来たとは思えない家が出来上がる。
なんとも早い仕上がりに僕も驚いてしまうが、一つだけで満足などしていられない。
そこから横並びに幾つもの石の家を作り、長屋にする。
二十組ほど収まりそうなので一度、神父様の下に戻り、人々を誘導してもらった。
「セレクトくん、これはすごいよ!直ぐに人を入れられる」
「ですがまだ、移民は集まってきてますし。衛生面も考えたら上下水道とトイレと風呂場……それと井戸もだ!」
「落ち着いてください、何でも一人でやろうとしすぎです。これだけでも相当魔力を消耗したはず。一度屋敷に戻り休んでください」
「いえ、まだ大丈夫です。それよりも家がまだ足らないのでってヤルグはどこに行きやがりました?」
僕が疑問に思っているとヤルグが商人たちと話している姿を見つけた。
こんな時に何を口論しているのか気になり近づく。
「ヤルグ……さん、どうしました?」
「セレクト君か、宿舎は順調なようで助かる。今はボク達は彼らにこれを渡そうと思って」
ヤルグが言うのに対して目の前にいる商人は言う。
「セレクトさん言ってくだせェ、ヤルグの旦那が商品を金も取らずにあげちまうって言うんですぜ」
商品……それは僕も愛用している魔法簡易保存食キットと、火の札と氷の札。
このために作られたと言ってもいい、これで食糧事情も数日は解消される。
「だから言っているでしょう。ボクがお金は後で払いますから、今は配ってください」
ヤルグはこの移民達から不満が漏れてしまっている状態を恐れている。
それは僕も思ったからこそ、急いで家を建てていた。
「僕もいいアイデアだと思います、このままだと不安を募らせた移民達は暴徒となり商品を全部取られますよ」
商人は暴徒と聞いて驚いたのか了解してくれた。
それにしてもこの現状は移民というよりも難民と称したほうが、しっくりきてしまう。
「水の確保もお願いします」
「それは今ディーマスさん達の手を借りてやってるから。セレクト君は引き続き宿舎を急いで完成させてください。あと七百人ぐらいは集まりそうです」
5人と目安に作った宿舎だったが、家族6人や7人いる場合は一つに押し込み、一人や二人の場合は我慢してもらい5人の相部屋になってもらった。
慌ただしい状況は日が落ちた後も続けられ、移民はあたりが暗くなるとその尾が途切れた。
それでも嬉しかったのは、簡易保存食品のマジックブレッドを食べながら、広い綺麗な家が出来たと子供達がはしゃいでる姿が見れたことだ。
何とか僕の方も魔力が尽きる前に宿舎と簡易トイレ、井戸と手押しポンプを作り一息つけた。
神父様は疲れている僕を見て、自分も賢者の石を使い家を建てておきたいと申し出てくれたが。この賢者の石は僕以外使えないよう施してある。
せめて何か出来ないものかと話し合っている最中、夕食が出来たという情報が入り、一度屋敷に戻る事にした。
夕食は商人達も含め皆でいただくこととなり、音頭取りをヤルグがする。
「今日は皆さんご苦労様でした。本当ならばお祝いの一つでもしたい所ですが、今は我慢しましょう。夕食の後に名前をお呼びますから、呼ばれた方はこのまま残ってください。明日からの大事な会議をします。乾杯!!」
こんな酷い乾杯は聞いたことがない……皆げんなりしている。
それに僕は絶対に参加しなければならないと思うと気落ちしてしまう。
夕飯は母さんとリザ、それにコックさん達とで頑張って作ってくれて、とても美味しかった。
その夕飯がすぎれば直ぐに会議が行われる。
ヤルグを筆頭にディーマスさん、父さん、神父様、商人達にガイアスとその父ジーノ。
そんな顔ぶれが並ぶ中、僕の隣にはガイアスが座り、久しぶりに話せた。
「ようセレクト、やっとちゃんと話せるぜ。にしてもマリーは学園に残ったんだってな。リザから聞いたぜ」
「何か急にライバルが現れてね、それがこの国のお姫様だよ」
「っておい!それって剛火竜のメルヴィナ姫だろ!!」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も超有名人だぜ!単騎で100のドラゴンを倒した武勇伝を始めにデボラ山脈で一人……」
こんな所でメルヴィナの話が出るとは思わなかった。
独りでに話し始めてしまったガイアスを隣にヤルグの会議の内容を整理する。
今日もしていたが移民の受け入れの際の住民登録。議題に上がるのはその方法の簡略化と今後も増えていく移民の受け入れ態勢。簡単な作業にすることで雇用を上手く作り、優秀な商人を他に回すと言う。
その他書類等はヤルグが今日中に作る事になった。
次は移民を遊ばせないために、大きな雇用先として水を引きたいらしい。
別にそれでも構わないのだが、下手に水路を引こうものなら雨季に決壊するおそれが出てくる。それに完成の目処もなかなか立たないと皆が渋い顔になってしまった。
そんな時に神父様が提案をしてくれた。
僕が一度掘ってみた井戸にはかなり水が溜まっていて、それを見た神父様が地面の下には大きな水脈があるのではないかと言う。そしてが確認出来れば複数の井戸を繋ぎ汲み上げることで上下水道を作ってみたらどうかと言う話。
ちなみに組み上げ方は僕の手動ポンプ式水組み上げ機を改良し、風車とつなげれば出来る。それにも神父様は目をつけていたようだ。
水脈があるか確認ができるまでは、水路の件は保留となった。
だがそれではやはり雇用の問題は解決されていない。
次に出された案はヤルグの物で、道の舗装作業を一挙手にやらせると言う物だ。
目的としてはまだまだ集まってくる住民の今後の食料事情として痩せた土地では直ぐに作物は作れない、そのことから外から運ぶ他にない。住民たちも買い物をするには商人なり行商人なりが必要で、円滑に動かすにはまず道が綺麗で平坦でなくてはならないのだとか。
そちらの方で井戸の目処が立つまでは雇用を全部引き受ける事に決まった。
まあ魔法が使えれば水脈も一日で確認できるだろう。
まだまだ仕事は山積みだ…この後に控えている外壁作りや、街全体を包む障壁結界の依頼。
王都にある魔法研究機関には障壁結界部門があるらしく、そこの宮廷魔術師と優秀な魔術師を派遣してくれるらしい。
魔法に関してはヤルグは僕に頼みたいと目で訴えていたが、僕一人がやってしまうと雇用が生まれずお金が傾く恐れがある……だから僕はそこまで手を出さないと決めた。
結界の事はツテのあるディーマスさんに一任される事になった。
そんな会議も終盤に差し掛かった頃、ジーノさんの率いる警備隊員が急いで入ってきた。
血相を変えて叫ぶ。
「魔物が近くにまできています!!」
壁もない荒野の中、人の匂いを嗅ぎつけて魔物が近くまで来ていたようだ。
ガイアスとジーノさんが対応するので僕はまだ必要じゃない。
適材適所……役割分担はできている。
この騒動のおかげで今日の会議はこれまで。
僕は明日に疲れを残さないためにも今日は寝ることにした。
僕の用意された部屋は使用人達が使う部屋。
別に母屋に住まわせてくれなどは思っていない、むしろこれぐらいで十分だ。
母屋と離れをつなぐ通路でリザが僕を待っていた。
「セレクト、会議は終わったの?」
「うん、明日も忙しそうだよ。早く寝ないときつそう……あ、夕御飯凄く美味しかったよ。リザも手伝ったんでしょ?」
「うん、セレクトのお母さんに褒められちゃった。いいお嫁さんになれるって」
「でもリザにはあまり必要ないよね、専属のコックさんがいるだろうし」
「そんな事ないよ、美味しいって言ってくれるとすごく嬉しいし……メルヴィナ様が宮廷料理人にならないかって申し出も少し嬉しかったんだよ?」
「リザは聖法を覚えていろんな人を助けるんでしょ……出来るよ」
「ねぇ、母屋の方に来ない?私が頼んであげるよ……」
「うーん、いや。母さん達もこっちだし、いいよ。ありがとう」
「そう……話が長くなっちゃうね。おやすみ」
リザが少しがっかりしているが、別に会えない訳でもないし問題はない。
「うん、おやすみ」
リザの銀色の髪が通り過ぎる際に光を反射させ、母屋へと入って行った。
離れの両親の部屋。
父さんと母さんと僕……三人で雑談をするのは久しぶりだった。
他愛もない話をしその中で一つ気になっている事を言う。それは昼時に抱擁をした時に感じた違和感を確かめる一言。
「あのさ……母さん。もしかして僕に弟か妹がいたりして……」
「…………」
「…………」
察しの良すぎる息子だと思っているに違いない。
それにこの場合の沈黙は肯定でしかない。
僕がリリアを離れてハッスルでもしてしまったのだろう……
「黙らないでよ!いい事でしょ?お祝いだよヤッホー!!」
久しぶりにキャラが崩壊した。
そんな僕に笑ってくれた両親を前に、名前をどうするだのとまだ生まれてこない赤ちゃんの話をした。
僕も体力の限界を感じ、紅茶を飲んで少しでも魔力を体に馴染ませてから寝ることにした。
割り振られた部屋は隣で、ベッドだけはしっかりとした作りで熟睡できた。
誤字脱字報告は活動報告でも受け付けてます。
久しぶりに出てきたヤルグを全開で書いていたり。
書いてて楽しかった……
話はそれますけど、
活動報告の方でも書きましたが。
マリーの鎧に対して軽めの鎧の件を変えてみました。
軽装備と称し鎧その他下に着る服とします。
たぶん軽い鎧だけだと 本当に鎧だけみたいな表現で他がおろそかだったので。
むしろなんでこれでOKして書いていたのか……眠い頭を絞るとこうなるのかな。