4話 別れ後に時々出会い
「これが完成された魔法……」
「まだこれは完成じゃありません……むしろ最初の一歩です。もしかしたら、これも間違ってるかも知れない……」
あれから様々な魔法書を開き、陣を見比べて使えそうな形を洗練していった。
それは気が遠くなるような作業で、数え切れないほどの魔法を試し…魔力の動きを観測。それの繰り返しをしてやっと使えそうな形へと導き出した。
その間約4年、僕の年齢は7歳になっていた。
それは漢字とハングルの中間の形をしている。曲がり方、太さ、長さ、様々なパターンを集約して出来た文字の様な形。これを僕と神父は”自然文字”と称する事にする。
「本来であれば、通常の魔力の50分の1で発動するんですよね?」
「まぁ計算上はですけど」
「では……始めます」
この術式には詠唱などは必要はない。自然文字を研究していて分かった事の一つだ。条件として発動させる際に音で魔法を共振させる必要があったのは不完全だったため。しかしこの完成に近い形の自然文字は魔法へ振動を与えるための経路を備えている。それに加えて魔力を加えた際の綻びによる漏れや、無駄な文字をなくす事で魔力の節約にも成功。
魔方陣が発動させるために、より光を強くする。
今まで失敗の連続。
ついに完成した魔法の発動。
早まる鼓動。
遅く感じられる時間。
そして……
あたり一面を埋め尽くす光は炎……放たれた炎は目の前の木々を燃やし尽くすほどの劫火。
僕と神父様は予想以上の出力に唖然と立ち尽くす。
奥で木が燃えながら倒れる。その振動でやっと我に返る。
「”水の精霊ディーの加護を宿す!”」
「”水を契約せしはディーの意思!”」
神父様は波のようにうねる水を、僕は一点集中させた水をかけて火を消す。辺りには蒸発した水で霧が広がる。
「上限設定を決めてませんでした……どれくらい魔力を込めたんですか?」
「……期待しすぎちゃいましてね。セレクト君的に言えば10ぐらいですか」
「10でアレだけの威力……サラマの陣500倍とは思えなかった…」
「はは」
大変な結果になってしまったが……成功と言う事にしておこう。
まだまだ改良の余地は残っているが、得たものは大きく。
数日の間に複数の自然文字を応用した魔法を発見していく。
神父と研究を重ねる日々は楽しかった。
しかし父さんに一通の手紙が届くことにより終わりを告げる。
「来月にリリアに引っ越す事になりそうだ」
リリアとは父の勤め先の街だ。
「「え!!」」
やっと研究が順調に動き出したのに……
「そんな、研究途中なのに!」
「ここの畑を手放すの!?」
「父さんの設計した馬車が評価されたんだ、そしたら商会の方でお願いされてね。だから作るために町に引っ越そうと思う……ついてきてくれるな?」
母さんはその事を聞くと抱き合いながら父さんと喜びを分かち合っている。
が、僕は呆けてしまう。
「神父様には私から伝えておく。心配するな」
「……はい」
「そうがっかりするな……この寂れた集落より町のほうが友達が出来るぞ?」
「…………」
だけどこれ以上の抗議はできない。それは父さんの努力の結晶で夢だったからだ。
事の他早く引越しの作業は終わり、僕は神父様と手紙のやり取りをする事で納得した。まあ会いに来たければ会える距離ではあった。ちなみに大人の足で片道平均2時間。
引越しの日が訪れる。
神父から別れの餞別に箱に入った魔道書を貰う。
馬車に揺られて30分ぐらいぼーっと風景を眺めていた。
そこに母さんが話しかけてくる…
「セレクトは何貰ったの?」
「本……中身はなんだろう」
箱を開けてみると、そこには以前読んでとても興味があった魔道書。
そして次の研究テーマ……錬金術。
「…………」
母さんがハンカチを出して目元を拭ってくれる。
「泣かないの……男の子でしょ?」
どうやら泣いていたらしい。
(僕は恩師に恵まれているな……)
あの時神父が無理やりにでも渡してくれた本が無ければここまでの発展は無かった。
そして様々な思いが溢れ涙となったようだ。
町へつく間は魔道書に没頭していた。
魔法とは若干違う分野の錬金術は科学よりの解釈で問題はなさそうだ。
(自然文字との融合で……ふふふ)
笑みがこぼれる。
母さんはそんな僕を見て安心する。
森を抜け、丘を越えた所で眼前に大きな町が現れる。
ここから見ると三日月に広がる港、その湾岸を覆い尽くすように家が建っている。
僕は映画でも見ているような感覚だった……
「ここが母さんが育った町……港街リリアよ」
母さんはリリア出身と言う事は7年間の会話で察していた。
「これからあそこに住むんだぞ」
自慢げに父さんが指で指し示すが何処だか分からない。
しかし、ここまで大きな街だとは思っていなかった。
街が見えてから街を守る外壁までは30分程時間をかけようやくたどり着いた。
その壁の高さは3階建ての家程の大きさで、弧を描いたように町を守っている。
父さんは馬車を降り、書類を片手に街役人兼門番と話している。十分ほどで手続きが終わり、門を潜りいざ街の中へ。
さすがの僕も本を閉じ周りを見渡す。
こちらの世界に来て初めて人の数の多さに驚く。
(こんなに人が住んでるのか)
道は広く作ってあり、港まで緩やかな坂道が続いている。
立ち上がり周りを見渡そうとしたが、途中で馬車が右に曲がり細い道に入ってしまい、建物で海が見えなくなる。
そこで残念そうな僕の顔を見て父さんがいろいろと説明をしてくれた。
先ほどの大きい道の他に2本、西と南にもあるそうだ。それらも同じように街の外壁の門から海岸まで繋がっているし、反対に進めば街道として隣町までつながっているのだとか。あとはそれらの道を繋ぐ大きな道が一本、外壁と海岸の半ば、弧を描いて走っている。ちなみに僕たちが入って来たのは北の街道とつながっている。
そんな父さんから街の構造を聞き終えた後、気を抜いて馬車に揺られていると今度は小さな視線に気がつく……子供が物珍しそうにこちらを見ていた。
(子供か……そういえばあの時、裾をつかんできた子がいたな。ここに居るのかな)
ふと昔の思い出に浸ろうとした時、馬車が止まり僕は周りを見る……どうやら着いたようだ。
「まあ大きい家。しかも二階建てよ」
「そうだろ、そうだろ」
母さんが興味深々に真っ先に家に入って行き、頷いていた父さんは荷物に手をかけて降ろし始める。手伝おうとしたが危ないと言われ、小さな物を運ぶ事にする。
正直力仕事なら魔法で何とか出来るのだが、両親に人前で使わないようにと強く言われていた。
(やっぱり、子供が魔法を使うのは異常な事なんだな……)
小さな家具を家に入れて一息。すると母さんの声が聞こえ2階に来るようにと言われ、僕は2階へと移動する。
2階には同程度の広さの部屋が二部屋有り、どちらも東向き。
そのどちらか一つが丸々僕の部屋と言うことだそうだ。とりあえず階段に近い方を僕の部屋という事にした。
中を見ると一人部屋にしては広く10畳ほどと窓がある、研究するには十分の広さがあるが、一見して見て埃があまりにも酷いので、物を入れる前に一度窓を開けて掃除しなければならなそうだ。
埃に足跡をつけながら窓に近づく、立てつけが悪いのか木窓は固く閉じている……そこで強く力を込めて開ける。
「うわぁ!」
枷が外れたかの様に窓は開き風が強く入ってきた、辺り一面にホコリが漂う。
(流石にこれはひどい……)
とりあえずどこにも人の目も無いので魔法を使う事にした。
陣を描き魔法を発動。
”風よ、息吹をもって答えよ”
自然文字を使った魔法はまだ使いこなせないので、慣れた通常魔法を使う。
風は僕の意思で動きホコリを舞い上げた後に窓の外へと勢いよく流れる。
「よし、綺麗になった」
「セレクトーちょっと来てー」
母さんにまた呼ばれて今度は一階の台所へと移動する。ある程度棚の拭き掃除が終わったので魔法を使って小さな家具をしまってくれと頼まれた。
次に使うのは別の仕組みの魔法というより技、魔力だけで物を操るという何とも曖昧な力で動かす念力のようなもの。慣れないと上手くは動かせないが、慣れてしまえばいくつもの手が生えたように軽いものを動かせる。
それで僕は食器類を一瞬で棚に片付けてみせる。
「セレクトが居てくれると便利」
「……」
その後、家の中の家具を魔法で移動させては手早く終わらせた。
(そう言えばこの技の仕組みも解明しなきゃな)
物を動かすこの技法は主に風の魔法として分類されている。
しかし、使ってみるがこれは風じゃなく重力に似た力を操っている気がする。
その日の夜は何時もと違うベッドに、なかなか寝付けなかった。
――新たな街の朝。
街には浅い霧がかかり、そこに朝日で照らされた街は幻想的な光景を映し出す。
遠くからカラカラと荷車を引く音や、次第に聞こえてくる、木窓叩く音。
それらを瞼を閉じたまま、ベッドの中で街の動きを耳で確かめていく、外が騒がしく感じ始めた頃、そこから感じる鬱陶しくも懐かしいもの。
それはまだ死ぬ前の学生生活の日々のこと……
(大学…教授は大丈夫だったかな)
転生してから何度も考えていた事。
僕がいなくなった後の教授の生活がちゃんとおくれているのかとか、研究施設はどうなったかとか、まあ今の僕にそれを知る手段は何もない。
だけれども、それらはもはや遠い過去になりつつあり、曖昧な記憶もちらほらと見え隠れしてる。
(いい加減起きるか……支度もしなきゃいけないし)
僕は朝ごはんの手伝いのために起き上がる。
高校生活で磨き上げた家事はこの世界に来ても腕を振るう。
最初は母さんに手伝わなくても大丈夫よと言われたが、今では義務に変わっている。
作った朝食はマッシュポテトと卵、そしてベーコンといった具合。
これらの食材は前の世界とあまり変わらないような気がするのだが、どうにも育ち方があまりにも違うようなのである。
例えばこのマッシュポテト……僕が知るジャガイモは根っこに生えるが、この世界ではトマトのように実になっていたし、トマトは柿のように木なっている。
改めてジャガイモをまじまじと見て……
(この形で実とか……まあ、ありなのかな?)
これらの植物の成り立ちについても大体の予測はした。
この世界にだけ存在する力、魔力の源”エーテル”それは進化の過程で多大な影響を及ぼしているはずだ。
朝食を終えた父はそそくさと商会へと家を後にし、残された母さんと僕は二日目ということで心機一転の買い出しに出かける予定なっている、買い出しの内容というのは母さんが使い古した家具を一新したいと我が儘から来たものだ。
正直、今日にでも錬金術の練習をしようと思っていたが、僕もこの街をちゃんと見ておきたかったという事もあるので母さんと出かける事にした。
家に鍵をかけ、辺りを見回してとりあえず迷子になった時のためにと、目印になりそうな物を探す。そして昨日見た大きな道へと向う。
大通りの道に出たら手を繋ぎ色々と見て回る。それと古い母さんの知り合いの挨拶回りだとかで、本題の買い物までにはかなり時間を要し、気がつけば家具を買えたのは太陽が天を仰いでからだった。
それにしても買い揃えた家具は不揃いなものばかりで木製の手作り。
新品というには少々問題がある気がするが、この世界の品質がどのようなものなのかよくわかる。
―――現在中央の道
教会の鐘の音が響く、正午の知らせ。
隣からお腹の虫が聞こえる。つられて僕も鳴ってしまった。
そこに魚の焼ける良い匂いが鼻を掠め……
「あれにしよっか」
母が匂いの元の屋台を見つたのかよだれを垂らしている。
「うん」
この世界に来て初めての新鮮な魚、たまに食べていたのはどれも乾燥させた干物。母も久方ぶりの故郷の味を思い出しているのかもしれない。
そんなわけで一人では大きいので二人で一つの魚を食べる事に、それでも周りに充満する匂いに他の食べ物にも目がいってしまう。
どうやら街道を繋ぐ中央の道沿いは、食べ物関係の店が軒並みに連なっているみたいだ。
焼き魚を食べ終わり、お腹の具合を確かめ、次の店を決めては母さんと満腹になるまで食べ歩いた。
「ちょっと苦しいね……」
「そうねぇ、食べ過ぎちゃったわね。そうだわあそこで休憩でも取りましょうか」
母さんが指差す方向には太陽をかたどったモニュメントが目立つ建物、神父様が所属していたグランモア教の教会だ。
先ほどの正午に響いた鐘の音はここから鳴らされているのか、その大きな鐘も見える。
この協会は岬に建てられていた神父様の教会と比べると3倍近く大きいだろうか。
「ここはね、お母さんが育った孤児院なのよ」
(……?母さんは孤児だったのか……知らなかった)
結構重要な事をさらっと言ってのけた母さん。
きっと僕が理解してないものとして話したのだろう。
僕はちょっとした動揺を隠し、無言で無知を通すことにした。
そして母さんは協会の門を叩き中へと入る、数人の白い衣装を着たシスターらしき人達と抱きついては僕を紹介した後、すぐさま談笑を始めてしまった。
今の状態から察するに、少しの休憩では終わらなそうである。
残されてしまった僕はどうしたものかと周りを見てみる。
内装はこれといって崎の教会と違いは無いように思える。だとすると大きく取られ建物のスペースは主に孤児院とした機能という事だろう。
先程も母さんが言っていたように孤児院として今でも活動しているようで、子供達の悲鳴?にも似た笑い声が奥から聞こえる。
ただ僕の興味は内装とか孤児達にはない、あるのはここにも魔法の書物があるのかどうなのか。
気になっては仕方ないので目的のものを探して歩き回り、結果的にはめぼしい書物はなく、唯一布教用の冊子が数本あるだけだった。
(あの魔道書達は全部神父様が集めたものだったんだな)
そうしているうちに日も傾きだしてシスター達が金を鳴らす準備に入り、母さんの談話にも区切りが来た事で、僕はやっと帰路につく。
協会から出た所でとある視線に気付き、そちらに目を向ける。
そこには孤児達の中にいる僕と同い年ぐらいの赤毛の女の子がこちらを見ては何か呆けている。
他の孤児達も集まり彼女が見ている僕に目を向けてきた。
「どうしたの?」
「なんでもない……帰ろ」
僕の姿が見え無くなるまで見られていた気がする。
そしてその夜―――。
初めての錬金術の研究に足を踏み入れる。
錬金術とは鉱物を変化させる事に特化した魔法の技術と言えばいいのだろうか……
適当にそこらの物を魔道書の通りに錬金してみるが思ったように上手くいかない。出来ないわけでは無いが、想像していた以上に不純物が入ってしまうし、形が統一されない……このままでは使い物にならない。
また新たに錬金術にあった自然文字を探し出さなければならなそうだ。
その日は幾度と魔力を錬金術に使い込み、枯渇する手前まで試行錯誤を繰り返した。
この町に来て早くも、二日目の朝を迎える。
昨日と同様に街は動き出す。五月蝿く感じる前に起きようと目を擦り背伸びをしたその時――
「たのもー!!」
それはまごうことなき子供の声。
まだ、すこしだけ静かなはずだった朝が騒がしくなる予感がする。
母さん達は起きていない。こんな朝から何だと思い説教に向かう僕……我ながらよく出来た子供だと思う。
「こんな朝からさわが」
「居たーー!!!」
僕の声がかき消された。
子供らしい実に五月蝿い反応され、僕は全力で嫌な顔をするが……
「噂は本当だったようだ」
完全に無視された。
よくよく見れば昨日の僕をまじまじと見ていた赤毛の女の子だ。
「いや、朝からうるさいから」
「なんだとー!折角舎弟にしてやったのに」
何処から突っ込めばいいのか、考えるのも疲れる反応に……”はぁ”とため息で答えるしかない。
そんな子供にげんなりとしていると。階段を下りてくる足音が聞こえ振り返る……母さんが降りてきいた。
「あら、昨日のお友達?」
「おう!」
「言ってやってよ母さん」
「ご飯は食べたの?」
「まだー!」
「じゃあ朝食にしましょうか」
「わーい!」
「……」
僕は沈黙したまま……ドアの外……建物の隙間から覗く太陽の光を見る。
女の子は玄関に僕を置いて家の中へと入っていった。
(朝日、まーぶしいなーちくしょう)
朝食をとりながら、母さんがやんわりと注意を促してくれた。
そして朝食を終えた僕は気がつくと、中央通の開けた噴水のような洗濯場の前に居た。
(どうしてこうなったんだろう……今頃は錬金術のテストしてるはずなのに……どうして)
自問自答を繰り返す僕の隣では、悠然と腕組みをし仁王立ちしている赤毛の女の子……
彼女の名前はマリーだという。
その名前に覚えがあった……ちょうど1歳の時。教会で僕の裾をひいてきた幼児、多分それがこのマリーという女の子だ、絶対にそうだ!!
彼女の特徴は短髪で赤みがかったブロンドの髪、それと常に何か悪巧みでも考えていそうな鋭い眼光。
服装は完全に男の子にも見えてしまいそうなのだが、顔立ちがある程度整っているせいか女の子としてもちゃんと見える……と思う。
落胆するように僕は噴水のちょっとした段差に腰を下ろす。
目線を少し上げるとマリーはキョロキョロと顔だけを振るように周りを見ている。彼女はなにやら待ち合わせをしているらしい。
だとすると僕は彼女の友達に紹介される立場ということだが、帰れるタイミングが来るのは何時になることやら……
それから少し待っているとマリーに反応が有り、両手を上げてアピールをしだし僕もそちらに目を移す、そこには同い年ぐらいだろおうと思われる黒髪の男の子、それとそれにくっついて離れないよう裾を掴んでいる小さな女の子が近づいてきていた。
「マリー来てやったぞ。で、その隣に居るのは誰だ?」
「ふっふっふ聞いて驚け。セレクトだ!」
「何!セレクトだと!」
(いや、お互いに知らんだろ……)
「私の新しい舎弟になった子分2号だ!」
「な、なにー!」
「良かったなガイアス、お前に舎弟が出来たぞ?」
男の子の名前はガイアスというらしい……マリーと同様に少し目が鋭いが、こちらは野生動物が持っているような……ん?
(あれはもしかして……)
ガイアスに注目していると僕は有る事に気が付く……それは彼の頭に付いている耳と思わしき聴覚器官。
(犬?猫?)
事前に獣人がいる事は知っていた。しかし、初めて見る。
犬か猫か確認するために、後ろに回り尻尾をたしかめてみたくなり……
「俺はガイアスだ。よろしくな!って俺は子分じゃねー!って?」
(わさわさしてるな、犬っぽい。本によれば狼人だったかな?…これ本当に繋がってるのかな?)
疑問と好奇心がわいたのでガイアスの着ているシャツをあげて履いているパンツを引っ張っては根元を確かめると確かにでん部の上に位置する処にしっかりと生えていた。
「キャウン!」
そんな僕の奇行に犬のようにかわいらしくガイアスは吠える。
「ああ、すまん。獣人は初めて見るんだ……尻尾が」
弁明を測ってみたが問答無用と言わんばかりに唸り声をあげて噛み付かれた。
「いった!!」
何とか振り解くとガイアスはマリーの後ろに隠れ、僕は手をさすりながら見るが血が出ていない。手加減はしてくれたようだ。
次にふとガイアスにくっついていた女の子と目が合うとガイアスと同様にマリーの後ろに隠れてしまう。
「私を盾にするなー!はい!整列!」
不意にマリーの号令がかかる。逆らっても良い事もなさそうなので、めんどくさいアピールしながらも整列。
マリーの前にガイアスと並び……ガイアスが僕より若干背が低いのが分かる。
多分、僕とマリーはあまり背が変わらない。
「これから作戦を言う!町の平和を守るために町を巡回するぞー!」
僕達は隊列を組み歩き出す。
ぶらぶらと街の中を歩き回るのだろうなと予想していたのだが。
どうやら彼女達は僕に入ってはいけない所や、危険な場所等を教えられているようで。最初はこそは渋々と後ろをついて行っていたが、それらの情報は得ていくうちに考えを改めてもいいのかもしれないと思えた。
「っと、ここが我らマリー海賊団の食料庫だ!」
指をさすのは魚の水揚げ場。
「今はやってないけど。朝と夕方に来ると魚が手に入る!」
「ほぅ」
「じゃ、次」
淡々と紹介される。歩くのが疲れてきたなーと思っていると不意にガイアスが話しかけてきた。
「ふっふっふ、セレクトは子分2号でそして俺が1号…これが何を意味するか分かるな?」
「さっき子分じゃないとか言ってなかったっけ?」
「うっ……」
「そう言えば、その子も子分?てか妹?」
僕は改めて紹介をされなかった小さな女の子について聞いてみると、ガイアスは何か思い出したように……
「あ、そう言えばマリー。フェリアは子分なのか?」
僕の問いは完全にスルーされてしまう。だけどとりあえず名前だけは分かったので、また改めて問いただすのが面倒くさくなり、流れに身を委ねる。
「おいガイアス。私の事は団長と呼べ。フェリアはマリー海賊団のマスコットだぞ?そんな事も知らないのか?こう寂しい時にぎゅーってすると落ち着くぞ」
子供特有の空間に置いてけぼりになりながらも僕は一日中連れ回された。
太陽が町の壁の向こう側に落ちる……赤く染まり始める町。
「じゃーまた明日な!」
「またな!」
(疲れた……)
僕は背中越しに手で返事をして家へと帰る。
父さんはすでに帰宅していて、夕飯の準備も大体が終わっていた。
台所から母さんの鼻歌が聞こえて来るのを聞くと何やら上機嫌、その理由は夕飯を食べながら父さんとの会話で理解した。
周りの子供と馴染めないのではないかと不安に思われていたようで、早速この街で僕が友達?と仲良くし始めた?のを見て、親心ながら安心したようだ。
(まぁ、連れ回されただけなんだけどね……)
僕のどうでもいい心境は心にしまっておくことにする。
夕飯を食べた後は体力的な面で研究どころではなく……そのまま寝る事にした。
そして次の朝―――朝日が昇る静かな朝……昨日の疲れで僕は久しぶりにぐっすりと寝てたのか、気分よく目が覚めた。
「よし!今日は研究日和だ!」
「たのもー!」
「たのもー!」
(え……)