38話 愛情を込めて
「どうしたものか」
今日はとある事をなるべく早くに終わらせておきたかったが、どうにも上手くいかない。
午後にはマリーが来て騒がしくなるのは分かっているからこそ、午前中に終わらせておきたいのだが……
目の前で喜ぶ姿に僕の頭の整理が追いつかない。
何で愛情を注いでしまったのか後悔さえある。
僕は大きな木を前にし、右手にはノコギリが握られていた。
思い出して欲しい。僕がスペリアムに何を取りに行ったのかを……
「名前なんて付けるんじゃなかった」
今の僕は魔法道具の素材として創生の大樹を必要としていた。
しかし、名前という愛情を与えてしまったが為に僕は悩む羽目になっている。
「切ったら痛いのかな…」
大木のセフィラは僕が久しぶりに長い時間近くに居るせいか、妙にテンションが高い。
風も無いのに凄く揺れている。
そこには紛れもなく感情が存在する……
切りつけたりしたら悲しむのだろうか……
「…………だあああ無理だ!!出来るわけない!!ごめんよセフィラ。僕を許してくれ……君を傷つけようとした事を……」
地団駄を踏み、ノコギリを手離す。
涙ながらにもセフィラに抱きつき謝罪をする。
僕が無情になりきるなんて無理な話だった。
命を狙ってきた暗殺者だって傷つけずに返してしまうお人好しなのだ。
困っている人がいればホイホイついていってしまうのだ。
毎日僕の挨拶で喜んでくれるセフィラを傷つけられる訳が無かったんだ。
するとなにやら後ろで地面をえぐる様な重い音が聞こえ、首だけ振り返れば立派な枝が落ちていた。
上を見れば枝があったであろう場所から樹皮が剥がれている。
感極まりそしてもう一度抱きつく。
「セ、セ、セフィラああああぁぁ!!」
「セレクトは何をやっている?」
聞き覚えのある声に振り返る。
「マ、マリー……とリザか、どうしたの?今日は早いね」
僕が平静を装うが、逆にマリーが本当に心配そうな顔をする。
「セレクトは最近疲れていたからな、今日は休め。また倒れるぞ」
心配されすぎているというか……完全に頭が可哀想な子の扱いになってはいないだろうか?
「大丈夫だよ。セフィラが我慢強い子だったから。ちょっとね……」
また涙腺が……最近妙に緩くなっている気がする。
「セフィラって誰?」
リザの質問に対して、説明をしていなかった事を思い出す。
「名前をつけたんだよ。この子がセフィラだ」
セフィラに手を向けて答える。
僕は大木なんて呼ばないと、この時初めて決めた。
「ほう、いい名前だな……セフィラか!よろしくな!!」
セフィラを見上げるマリーは眩しそうに手で太陽を遮る。
「セフィラちゃんか……あれ、セレフィラ君かな?」
リザは疑問に思ったのかそのまま僕に話を振る。
だが僕も性別の事については考えていなかった。
女神リアム・レアルは女性だが…そもそも植物なので性別という概念が希薄である。
一応聞いた話では雄と雌に分かれている木があったと思う……桑の木とか確かそうだったはず。
しかしそれがセフィラにあてはまるかといえば、分からない……
「たしか実がなれば女の子かな?」
すると目の前に赤色の何かが落ちてきて、鈍い音と雑草の潰れる音がする。
足元には赤い果実が転がっていた。
「女の子のようだな」
断言するマリー。
これでセフィラが女の子?として認識される。
それがマリーとリザの会話の分岐点だったのか、彼女たちの本題に入った。
「セレクト……そろそろ……その……なんだ、作ってくれないか?」
もじもじするマリーに対して何をと言いかけたが、刀の事だと直ぐに思い返す。
「刀ね、今から作ろうか。じゃあマリーはそこの枝を持ってきてよ」
「……む、意外と重いぞ」
「マリーなら運べるでしょ。それと気をつけてね、折角セフィラが分けてくれた枝なんだからさ。それにマリーの刀になるんだよ?今から大事にしなくてどうするのさ」
「そ、そうだな!私の刀だもんな!!しっかりと持って行くぞ!!」
テンションの上がるマリーに……ちょろいなと僕は思う。
刀を作る作業場はもちろん僕の部屋だ。
本来必要になる鍛冶道具は全て錬金で済ませられるから問題は無い……はず。
それに、正直に言うと僕は刀の詳しい作り方は知らなかったりする。
あるとすればテレビのワイドショーで知っている知識ぐらいしかない。例えば柔らかい鉄を比較的に硬い鉄で挟む。その時に使われる鉄に玉鋼が使われている……それぐらい。
しかし、そこまで知っていればあとは知識で何とかなると思い、自分なりに作ってみる予定だ。
既に刀を作るためにと僕が用意していた材料はセフィラの一部を除けば、全て揃っていた。
後は到着の遅いマリーが来れば始められるのだが……
「…………」
にしても本当に遅い……
「……はぁはぁ……これは思ってた以上に……重い」
やっと部屋に入ってきたマリーは息が切れている
あの力と体力だけのマリーが疲れていたのだ。
何とか部屋へと運び込み汗だくのマリーは椅子へと腰掛ける。
そこにリザがすかさず風を扇ぐが……本でやるのはやめてほしい。
僕の心が聞こえたのかびくりとリザが反応し、そっと本を机に戻す。
にしても本当にマリーが疲れていることが意外であった……
「本当に辛そうだな」
「お前も持ってみろ。私の苦労が分かる」
マリーの辛そうな顔を見れば十分わかる。
仕方ない……床で作業をするか。
そんな軽いノリで枝に触るとわずかだが魔力が吸収されていく。
「なるほど。マリーは魔力を吸われたのか」
「そうなのか?」
「まだ枝自身が生きようとしてるんだ。それで担いだマリーの魔力を吸ったんだよ」
植物の生命力は強い。バナナの木などは幹を切って植え直せば生えるぐらい強い。
だけどセフィラのこれはどちらかといえばトカゲの尻尾だ。
まだマリーの魔力で保っていたが、直ぐに枯渇するだろう。
僕はそれを一旦待ってから机に置き、加工に着手する。
幹と分離された枝の部分は折れている訳ではなく、切断された跡のように見える。
これから行うのは枝の製材作業。
まずは樹皮、辺材、心材、細い葉の付いた枝の4つに分ける。
その中でも辺材が多く、次に樹皮、心材となる。細い枝と葉は使い道が分からないので後で紙にでもしよう…
本来は心材よりも樹皮の方が少ないはずだが、取れた部位が枝だったため心材が少くなっている。
セフィラの負担を考えれば今後もこの割合は変わらないだろう。
そして今回使う替えのきかない素材は心材で、全て使わないと思い描く刀は作れそうにない。
「ここの部分を心材って言うんだけど。この箱は覚えてる?」
「セレクトが一騒動おこした箱だろ?」
「運命の箱ね」
「そう、これはウェルキン校長から研究用に預かっていた運命の箱です。この素材も同じ心材部分が使われています」
心材は樹木全体に魔力を運ぶ大事な部分であり、一番魔力の浸透率が高い場所と言える。
「次に刀の形に玉鋼を加工して……」
両方の手に二種類の鋼を持ち、錬金魔法を手のひらに浮かび上がらせ二つを合わせたら、イメージしながら引き伸ばす。
これだけで刀の形と何故か刃紋が浮かび上がる。
イメージが過ぎたようだが、特に問題は無い。
刀を目の当たりにしたマリーの目が輝き始める。
刀本来の切れ味も再現出来ているか確かめてみようと思う。
方法として上から布を落とし、自由落下だけで切れるのか確かめてみた。
ハラリと落とした布は真っ二つに分かれ、切れ味も十分に思える。
「!!!」
その切れ味を目の当たりにしたマリーは声も出ない様子だ。
しかし、このままでは製法を詳しく知らない僕は強度に対しての自信が全くない。
そしてそれを補うのが心材、これを使った僕独自の製法だ。
刀身に引き伸ばした心材を合成し、これで得られる効果として、強度、しなり、魔法の浸透率が格段に上がる。
木材と鋼の合成と言ってもピンと来ないだろうが、ナノレベルでの編み込み作業という事になる。
これが一番緊張する瞬間で、少しでも心材のバランスを間違えれば脆くなるだろう。
時間を要する作業になる。
「…………ふぅ、これでとりあえず刀身の完成かな」
「触っていいか!見てもいいか!」
「いいけど気をつけてね。掴んだだけで指取れちゃうから」
興奮するマリーはさておいて……
次に僕は持ち手となる柄とそれにくっ付く鍔を作らなくてはならない。
だが単純に作る僕ではない。
ここに僕の一押しの魔法を加えようと思う。
まずは持ち手となる素材として余った心材を辺材に巻く事で下地を作る。
そしてここに何種類かの魔法を描き、樹皮を細く糸のように錬金で造り変え、下地に巻く。
鍔には辺材を使い柄が完成した。
本来であれ刀身と柄を合わせる時にブレが生じないよう、あと幾つかの部品が必要になるが。
錬金術でくっつけてしまうので要らない。
「マリーちょっといい……後は柄と刀身をくっつけて…………よし」
「おおおー!!」
「持ってていいから。あ、素振りはしないでね」
「部屋の中でするものか」
出来栄えは十分だ、後で魔法の効果を説明しなきゃだけど。今のマリーが聞いてくれるのか不安だ。
残り最後になる部品は鞘、これには余った辺材だけを使い外側に強度を上げる魔法と、内側に刃こぼれした刀身を再生する魔法を描く。
「これで完成だ」
鞘に綺麗に収まる刀、そこに収まる音を聞いたマリーは身震いをしていた。
「マリー、大事な説明するからそこに直れ」
何度もカチン、カチンと鞘に収まる音を楽しんでいるマリーに命令する。
「いいか、これは切れ味がすごい。今まで触ってきた武器で一番だ。手加減が出来ても絶対に人に向けて使うなよ!」
「だが、攻撃されたらどうする。例えるならメルヴィナとかにだ」
真っ先に攻撃してきそうな相手であるし、前に剣を交えるという物騒な話もしていた。
マリーが刀を手に入れたとあれば、襲いかかってくるだろう。
「ああ、拒否してもやってくるようならしょうがない、か……刀を使った実戦訓練と思って相手をしてやれ」
僕からの許可がおりたと思ったのかニヤリと笑うマリー。
本当に単純なやつである。
「じゃあ、本題にはいるよ」
「これからが本題なのか?」
「その刀に施した魔法についてだよ」
僕が刀に施した魔法は強度を上げる他に刀を振った際の重量増加、刀身のリーチを伸ばす見えない結界の刃がある。
基本的に対人用として作られた刀なので、魔獣等の巨大な生物に対抗するための必要な処置だった。
スペリアムで作った時の鈍らの刀にも施していた魔法だ。
だがこちらは素材が揃った事で自壊する事はないだろう。
その魔法をコントロールをする為にもマリーには練習が必要である。
「では早速私は練習してくるぞ!!」
思い立ったが吉日と刀を持って部屋を出ようとする。
「使った感想とか後で教えて、調整とかするから!」
「分かった!」
マリーの返事は帰ってきたが既に開けっ放しの扉の向こうに消えていた。
残されたリザが心配そうに僕をみる。
「マリーにあんなに危ないの持たせて大丈夫なの?」
「いざ必要になった時じゃ遅いから……それにマリーは十分剣士としての腕前は達人だよ」
メルヴィナとの一戦をみてそう思った。
あの剛剣降り止まぬなか幾度となく受け流した。圧倒的な力の差を技で埋めたのだ。
そんな彼女に後必要なのはあの刀だけだった。
「じゃあ私はマリーの事が心配だから行くね」
「お願いするよ。僕はまだここで後片付けしながら作業をしたいから」
リザはマリーが開けっ放しにした扉を閉め出て行った。
残った樹皮とわずかな辺材、それと葉の付いた枝を見てまだ作れそうな物を思い浮かべる。
不意に先程のマリーの笑顔を思いだし、まだ何か作れるのではないかと僕は作業を始めた。
マリー達が出て行ってから時間が過ぎ夕刻の時間になる。
僕は魔晶石を弄りながらどうやってセフィラの一部と合成させるのか考えていた。セフィラの一部というと語弊が生まれそうなので特殊木材と呼ぶことにしよう。
もしこれが完成すればパソコンの様な演算機能を取り付けた魔法道具が近い内に出来る。
そんな夢のような道具に何をさせようか思いをふくらませていると。
勢いよく扉が開いた。
「わって!びっくりした。マリーか」
そこにはボロボロな格好のマリーが刀を携え入ってきた。
どうしたのだろう、出て行った時はあんなに元気だったのに。
「メルヴィナに負けた……」
ああそうか、それは仕方がない。
初めて刀を持って戦ったのだから要領がわからなくて当然だ。
向こうも規格外の力を持っているということを忘れてはいけない。
「で、何しに来たの?」
「セレクトがさっき言っていただろ、刀の感想を言いに来た。しかし、私が思ったのはすごいという事だけだ。メルヴィナの攻撃に対してビクともしなかったし、攻勢にも出れた。ただ私が弱かった……」
弱音を言うマリーだが僕はそんな事はないと思う。
それに攻勢に出れただけ十分だ、同じ強さの敵が現れた時に逃げることぐらいは出来るだろう。
僕はとりあえず刀に慣れていないだけだと励まそうとしたが、マリーが重ねるように言う。
「まだ」
「後もう少しという所であいつは力を隠してたんだ!いきなり強くなったんだぞ!獣人が獣化という強化が出来るように竜人も竜化という強化が出来るとか言っていた!」
それは人の体には負担がかかりすぎて出来ない芸当で、獣人や竜人との決定的な差だ。
「あったなそういえば。ガイアスとやり合った時も獣人化とかしてたな、そういえば」
「……私はそんな話は知らないぞ?」
あ、内緒だった……完全に忘れていた……ごめんよガイアス。
「むむむ……セレクトばかりずるいぞ!」
「ごめん、ガイアスに口止めされてて。獣人化はまだ上手く扱えないとか言ってたし、次にリリアに帰った時にマリーをギャフンと言わせるらしいぞ?」
「…………ふっいい度胸だな、ふふふ私をギャフンとか……逆に可愛く吠えさせてやる」
単純というか切り替えが速いマリーにもう一つ吉報を僕は告げる。
「マリーに刀を作った後にこんなのも作ってみたんだけど。どう?」
畳んでいた軽装備を広げマリーに見せる。
「鎧か!」
驚く所はそれだけではない、余った枝や葉の繊維で鎧の下に着る服もある。
マリーは普段の調子に戻ってくれた。
「基本的に攻撃吸収とか身体強化だけど……調整が刀以上に必要で、これを着て教えて欲しいんだけど」
「もちろんだ!なんでもする!早く着せてくれ!」
「ちょちょ、脱ぐな!」
一旦僕は部屋から出てマリーが着替え終わるのを待った。
そしてカチャカチャと金具を付ける音が止み。
「いいぞ」
扉を開けるとマリーがもじもじして言う。
「どうだ……似合うか?」
うむ、その仕草は普段着なれない服を着てやるものだが、なにせ鎧だ。
軽装備といっても露出なんて無い。
「似合ってるよ。それと軽くなるように特殊木材を使ってるんだ」
「特殊木材?セフィラのことか……」
「うん、とりあえずは動きやすいようには作ってあるけど、マリーが不満に思った所を教えて欲しい」
「ならば早速……こちらの太ももが少し緩い気がして……」
最初から際どいところの注文だったが、それから何度も調整を加えて夜遅くまで続いた。
途中で夕食を挟み、調整もある程度終わり。
「じゃあ、とりあえずはまた姫様とやりあうんだね」
「ああ、次こそは負けない!」
「頑張れとしか言いようがないけど。終わったらもうまた調整するから」
「助かる……こんなに遅くなるとは思わなかった。リザが心配するから帰るぞ」
お休みと互に言いマリーは帰っていった。
そういえばマリーと一緒に居たはずのリザがいなかったのは何故なんだろう。
疑問に思っていてもしょうがないと切り替え、僕はまだまだ寝ない。
マリーが来る前の作業にもどるだけだった。
街の方向の明かりが消え、部屋も真っ暗の中、机の手元だけを魔法で照らし作業をしていた。
そこで発せられる音は外の吹く風と手元の紙の擦れる音だけ……
その時、太ももに入れていた一枚の紙が振動する。
「ペトゥナか」
後方を照らし確認すると、昨日僕の後を付けていたペトゥナが音も無く立っていた。
それと隣には何やら布に巻かれた重そうな物もある。
「関わらないって約束したよね」
「……無礼だとは分かっている。だがこれを見て欲しい」
ペトゥナが隣に置いていた物の布を取ると、そこには黒く光る剣があった。
それは見覚えがあり紛れもなくメルヴィナの剣だったが。ただ一つだけ以前と違うのは、黒い剣には折れはしないが致命的な亀裂が入っていた。
多分マリーとやり合った時に入ってしまったのだろう。
「これを僕に直せって言いに来たの?」
「礼ならする…」
隣にある亀裂の入った剣は見た感じであれば直せなくもなさそうだったが。
「なんで僕が出来ると思ったのさ」
「あの化物の剣を作ったお前なら出来ると思ったからだ」
的確な判断であるが……ううーむ、礼儀知らずである。
あの姫様の下で働いてるせいなのかは分からないが、少し人への頼み方を教えてやらなくてはならない、そう思った。
「人に頼む時はさ、もう少し言い方ってものがあるんですよ。例えばマリーの事を化物と言わないとかさ、僕の名前ちゃんと呼ぶとかさ」
「……すまない。善処する」
「じゃあ僕の事はこれからセレクトって言ってよ、あとマリーの事も化物呼ばわりしないで」
「……心得た」
僕はとりあえずペトゥナの隣にある黒い剣を間近で観察する。
普通の鍛冶師に持っていけば帰れと言われるか、新しい商品を紹介されるだろう……そこはさすが僕である、魔法が刀身に描かれているのがネックだったが、直すに至っては問題は無い。
「なるほど、素材はよく分からないけど。くっ付けるぐらいは直ぐだよ」
手を添えて錬金魔法を使い伸ばす要領でくっ付ける。
あっという間の見事な仕上がりにペトゥナが驚く。
「もう直ったのか……」
まあ魔法を熟知していればこんな物ですよ。
「ついでに言っておくと、この剣は未完成だね。作り手が手を抜いたって訳じゃなさそうだけど…」
「……ああ、これは昔現れた魔王”黒炎”がまだドラゴンだった時の鱗を使った大剣……王家に代々伝わる”狂者の宝剣”と呼ばれている、それで剣を作った名のある鍛冶師はこれを最後に果てたと聞く……」
作り終えたではなく、最後まで仕上げられずに果てたのだろう……
にしても説明してくれたが、名のある鍛冶師とは一体誰なのだろう?
名のある鍛冶師だから調べれば直ぐに分かりそうだ。
「魔法の最後が足りないのはそういう事か」
姫様が魔力を込めた時に赤く光っていたのは魔法が中途半端に発動していたせいだった。
完成していれば刃の部分に高周波振動を産み出し熱を発生させ溶断するというのが狙いだったようだ。
これを作った鍛冶師はずば抜けた天才だったに違いない、この剣についてはとても無念で仕方がなかったと思う。その意を汲んで完成させてあげたいと思うのは傲慢だろうか?
だからとりあえず僕は聞いてみた。
「これを完成させてもいいかな?」
「それはメルヴィナ様の為になるのか?」
「欠点だった所を直すだけだから魔力の消費を抑えて、威力をあげる。炎も出せると思う」
むしろ無くす事でより強くなる。
「……では頼む」
案外簡単に承諾してくれた事が意外だった……
もとより僕以外に直せなかったのだから少しぐらい弄ったって良いと言う考えなのだろうか?
「戻して欲しいって言われたら戻すよ」
この時の僕はもちろんマリーが今後苦戦する事になることは分かっていたが、それ以上に楽しくなっていた。
止められない欲求を前に魔法を完全なものにしてしまう。
「ふぅ……これで大丈夫」
「…………すまない、面倒をかけた」
「こういう時は謝るんじゃなくて、お礼を言えばいいんだよ」
「……ありがとう」
物分りのいいペトゥナはマリーより扱いやすい。
「礼は何をすればいい……金か?」
「別に要らないよ、僕も勉強になったし」
しかしペトゥナは引き下がらずに言う。
「恩は残したくない……私の体がこんなではなかったら、体で返すのだが……」
体がまともであれ、僕はかたくなに拒否するだろうけど、体と言えばペトゥナの身体はどうなってるのだろうか?昨日今日とて変わりはしないが、一応見ておこう。
「お礼か……そうだな、ちょっといい?」
不意にペトゥナの肩に触れ、背中に周る、もう一度前に戻り、お腹のあたりを触る。
魔力の流れは問題なさそうだ、後半年か一年すれば影響が現れるかもしれない。
ただ体の仕組みにそれほど詳しくないのでそれ以上は分からない……
「……何をする」
「恩は残したくないんでしょ……ほら、これでその恩とやらは済んだよ」
「こんなので良いのなら……我慢しよう」
勝手に人体実験してるなんて今更ながら……やはり言えない。
とりあえず僕も眠くなってきたので、困惑するペトゥナに重い大剣を持たせて廊下へと出す。
「こんな夜更けだし、僕は寝るから帰ってください」
何やら言いたげな顔をしていたが、問答無用に扉を閉める。
「そうだ、次は扉を叩いて入ってきてね」
返事は一度だけ扉を軽く叩かれ、気配が消えた。
腕時計を見れば既に2時を指している。
仕方なく机の上を整理して寝ることにした。
―――次の日の昼頃
勢いよく部屋の扉が開く。
僕は昨日の続きの魔晶石について資料を作成していたが、扉の音にびっくりして鉛筆の芯が折れる。
「ってまたマリー。僕は集中してるからあまり驚かせないでよ」
「…………」
僕が作ってあげた防具をボロボロにしてマリーが立っていた。
「また負けた……」
「怪我はしてないようだね。鎧ならすぐに直せるよ……ってちょ」
目の前で急に鎧と下に着ている服を脱ぎ捨て、僕のベットに入ってしまう。
少しは節操をもった行動をして欲しい。
この日も少し鎧の調整をしマリーを元気づけるのだった。
何だか説明臭くなってしまった。
戦闘シーンを入れるべきだったかな?
マリーサイドの話も書けばいいのかな?
今回も誤字脱字が酷いと思われます。ごめんなさい