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魔法科学  作者: ひのきのぼう
――第5章――
37/59

37話 夏休みが始まった

 月光祭が終わり、次の日の午前中は清掃作業から始まり。

 午後は夏休みについての注意事項を言い渡され解散となった。

 最後の挨拶の後に何やらクラスの数名の人間が理由も無しに呼び出されていたようだが。

 もしかしたら、ウェルキン校長の粛正が始まったのかもしれない。

 そして今は女子寮の中庭で個人的なパーティーの真っ最中。

 祭りの時のクレープ屋での売上を使い、ご馳走が振舞われる。

 並ぶ料理の品々。

 僕も手伝おうとしたらリザとフィアに座っていて欲しいと言われ、渋々調理場から離れた。

 料理をすること自体は僕の趣味でもあり、好きなことの一つだ。強制させられると少しめんどくさいが、自主的にやるには自由にさせて欲しかったと思う。

 まあ、その姿を見る側が無理しているんじゃないか?と思われる可能性もあるので、じっとしていようと決めた。

 もちろん出来上がった料理は見た目にも味にも文句など出るはずもない。

 しかし、何故かそんなパーティーの中にはメルヴィナ・ドラグ・セプタニアンも居た。

 そして彼女は料理を食べるなり…

「王宮で食べるものより遥かに美味いな。リザイヤ…そなたは我の専属料理人にならぬか?」

「メルヴィナ様、私は人々の難病を治すため勉学に励んでおります。料理は趣味の範囲でとどめておきたいのです」

「我はまた振られてしまったな」

「手を出しすぎだメルヴィナ。うつつを抜かしていると私の刀の錆になるぞ」

 にしてもマリーは…

「おいマリー、お前この方が何処のどなたか知ってないだろ…メルヴィナ・ドラグ・セプタニアン。セプタニアンは国の名前で、ドラグは竜人の証。現国王の直系のお姫様だぞ」

 そんな事を説明したのに、マリーは料理を頬張りながら。

「メルヴィナ本当か?」

「ああ、我の父は国王だ」

「それは大変だな、私には関係は無いが」

 関係は大有りだ。

 なにせ僕達はセプタニア人なのだから。

 元から身分を気にしないとは思っていたが、今後にも関わることなので後でしっかりと叩き込んでおこう…

「無礼は結構!我はマリーを気に入ったからな、その程度のことは気にせん。なんならセレクトも我のことはメルヴィナと呼んで良いぞ」

 実にお近づきにはなりたくない…僕の実力がマリー以上だと知れれば巻き込まれる可能性は高い。その事を踏まえマリーには説明が必要かもしれない。

 そんなパーティーは夕刻にはお開きとなり。

 片付けをしようとしたら、僕以外の皆がやるからと一人追い出されてしまった。

 少し疎外感を感じつつも寮へと帰宅した。


 そして寮の玄関をまたいだ所で、

「お、坊主!やっと戻ったか。親方がお前を呼んで来いと五月蝿くてな」

 声をかけてきた人は、商人達の会合へと案内してくれた使いっぱしりの商人。

 また何かの事件かと思ったが、話を聞く限り飲み会の誘いのようだ。

 先程マリー達とのパーティーが終わったばかりで少々疲れていたが、ヤルグの商人達の飲み会での交流は絶対にしろとの言葉を思い出す。それに葡萄酒を振舞う絶好の機会ではないかと思い、承諾した。

「少し待っていてください。取りに行くものがありますから」

「なら早くしてくれ、親方にどやされるのは俺だからよ」

 部屋の片隅、葡萄酒を入れていた箱の中は瓶が半分残っている、味を語るには十分だろう。


 飲み会の席に到着すると、大歓迎を受け僕の胴上げが始まる。

「我らの英雄セレクト様のご登場だ!!」

 その集まった商人の中にはウェルキン校長の姿は見当たらない…

「わ、やめてくださいその呼び方」

「何言ってやがる、俺達の情報網を甘く見るなよ?スペリアムでの事は大体知っている。だがまさかなぁ…こんな小僧が。英雄様を担げるなんて滅多にねぇ、めでたいじゃねぇか!くあーもう一度胴上げだ!!」 

 その筋肉質の商人が言った言葉があまりにも聞き捨てならなかった。

 スペリアム国内でも僕の存在を知るのは少ない…はずで。

「ちょ!待ってください!!何ですかその話は!?どこから漏れたんですか!!!」

 慌てて胴上げを中止させる。

 その中にはスペリアムの商人のグルーニーさんも居るのだが、驚きのあまり青い顔をしている。

「それは、どこから知った情報なんですか!?」

「セレクトの坊主の身元を詳しく調べてたからな」

 そこに慌てて割り込んでくるグリーニーさん。

「私達はお話していません!信じていただけないでしょうか!!我らの女神にも誓います!」

 グルーニーさんはとりあえず落ち着いてもらおう、なんだか倒れてしまいそうだ。

「商人は極秘のルートを持ってるからな。ここの商会連中を集めれば世界の色々な情報が集まるぜ?」

 ヤルグも蜘蛛の巣のような情報網を持っていた。

 情報とは商人の命であり、剣士で言うところの剣なんだとか。

「その、お願いがあります。僕がスペリアムでした事は絶対秘密にしておかなければいけない事なんです」

「あ、ああ。浮かれて悪いことをしちまったな…すまねぇ。おいてめぇらいいか!今聞いた話は忘れろ!それともし話が広がるようなら全力で阻止しろ!噂程度でもだ!!分かったか!!!」

「へい!」

 話が分かる人で助かった。

 後は僕の情報が出回らない事を祈る事しかできないが、強力な味方を得たと思えば心強い。

 そんな彼らに葡萄酒を振舞う。

「お!それが噂の葡萄酒か?」

「噂?」

「ああ、ウェルキンの旦那が言ってたぜ」

 噂として情報だけは広めておいてくれたらしい、だからか何の戸惑いもなく飲んでくれた。

 感想は十分万人受けするいい味だと褒められ、貴族への流通ルートに乗せてもらえそうだ。

 あっという間に瓶はカラになり、皆が酔いつぶれてしまう。

 僕も多少飲み過ぎて、ほろ酔い状態で帰宅した。





―――翌朝

 前回の時よりも記憶はハッキリしているが少し頭痛がする。

 僕のこの体は生前の体よりもアルコールに対しての耐性が低いのかもしれない。

「15歳の体にはまだ早いのかな…次はもう少し自重しよ」

 今日は夏休み初日。

 オーウェンさんの職場を見せてもらえる見学会を予定している。

 参加するのは僕、ハーベス、ベルモットの三名。

 いつものリザとマリーはというと。

 マリーはメルヴィナに挑戦するとか意気込み、朝からいない。

 リザはその体質を考慮して、見学会には連れて行けなかった。

 よって二人は置いて行くことにした。

 オーウェンさんの職場は北の門を出てしばらく歩かなくてはならない。

 学園から北の門までも離れている事を考慮すれば、徒歩半日はかかる見通しだ。

 よって馬車を借り移動することになる。

 父さんの仕事で、馬を扱うことには慣れている僕が御者を務める。

「屋根のない馬車は初めてだ。セレクト、僕にも馬の扱いを教えてくれないか?」

「いいけど…ベルモットが、凄くこっちを見てるんだけど…」

「ベル、僕が馬を扱えれば今後色々便利だと思わないかい?二人で出かけたりさ…」

 何かを考えたベルモットは顔を赤くし頷いている。

 何だか僕にはそれが惚気け話にも聞こえて…

「なあ、一つ聞いていいか?」

「なんでも答えるよ」

「最近二人でいることが多いけど…二人は付き合ってるのか?」

「ブッ!あはは。唐突だね。そういえばベルが恥ずかしがるから言っていなかったけど………付き合っているよってイタタタ」

 顔を真っ赤にしたベルモットが決め顔のハーベスの髪を引っ張っている。

 それを見てこんな暴力を振るう女のどこが良いのだろうかと疑問に思ってしまう…言動もアレだし…

 そんな僕の心境を読み取ったのか、

「ベルはね、普段の物言いは酷いけど。二人になると甘えてくるのさ」

 僕には想像することが出来なかったが。

 だとしたら暴力的なベルモットが猫の皮で、両親に見せている顔が本物という事なのかもしれない。普通は逆だが…

 それにしてもハーベス、それ以上の惚気けはやめてほしい…

 イチャコラする二人を後ろに。

 ハーベスに馬車の引き方を教えたのは北門を抜けた跡の牧草地帯の一本道に入ってからだった。


 馬車を進めること30分。

 草原の中に小さい建物の集合地帯があり、その中心に大きな建物が一つあるのが見えた。

 これがオーウェンさんの職場、魔王対策研究機関”セントラル”だ。

 なぜこんなに離れた所に研究所を構えているのかといえば、魔法の暴走で街に被害を出さないためと広範囲の魔法を調べる事が目的だからだ。

 敷地内の検問所でオーウェンさんは待っていてくれた。

「よく来た。さあ中に入ってくれ」 

 馬車を預け、オーウェンさんのあとに続く。

 歩きながらこの施設の歴史や建物についても教えてくれた。

 セントラルが出来たのは100年前、魔王”黒炎”が討伐された後になる。

 魔王討伐で一役かったモルダンの予言の書を期に魔王出没の研究がなされ。

 各国の協力体制の強化として魔法学園都市郊外に作られた。

 しかし最近では各国の援助が少ないせいで研究が十分に出来ないと言う。

 確かに数百年の長い時間を使い現れる魔王に対しての対策なのだから、お役所仕事の国は目の上のタンコブなのだろう。

 そんな足らない費用は、魔法学園都市からの依頼を受けたり、貴族からの娯楽など様々な注文を受ける事で補ってはいる。

 しかし、今後は国からの援助は少なくなるかもしれない。

 なにせ、僕がその魔王になる前の卵を討伐したばかりだから…

 ここの施設の小さい建物は全部で68棟あり、建物一つの中に十数人の研究者がいて一つの魔法を研究している。

 所属長とはそんな68棟ある中の複数の研究を束ねる偉い人だ。

 ちなみにオーウェンさんは32棟もの研究を手がけ、発言力も強い。

 研究棟は後で自由に見学させてもらえるとの事で、とりあえずはオーウェンさんに連れられ、中央の管理棟と呼ばれる一番立派な建物へと入った。


 管理棟の玄関口。

 そこには様々な魔法道具が並べられる。

 中には魔力識別装置なんかもあり、それは図書館などでの身元確認に使われていた物だった。

「聞いてなかったけど、二人はここに来るのは初めてなの?」

「もちろんだとも、ぜひ僕もここで働きたいものだ」

「私もここまで入ってきたのは初めてですわ」

 オーウェンさんの前だからだろう…ベルモットの口調や仕草、性格ががらりと変わる。もはやそれは二重人格なのではないかと疑ってしまいそうだ。

「ここの階から上は研究された魔法を保管している。ここの本来の目的は地下にある」

 通路の奥へと行くと地下につながる階段があり。

 地下室はとても大きく縦5m、四方に50mは優にある。

 ここに集まる数十人の選ばれた研究者は魔王の出現から効果的な攻撃方法を研究している。

 そして部屋の中心にはやたらと大きい球型の容器が光る。

 僕達はその前まで来た。

「これは…砂かい?」

「魔晶石を細かく砕いた物を何かの油に入れてるんじゃないかな?」

「そのとおり!この容器の中にあるものは魔晶石の粉末と魔獣の油を使用した”星屑の鏡”という物だ」

 容器の底に沈澱した魔晶石の粉末はまるで水面、光った点から波紋が広がる。それはあたかも生き物のようにも見える。

「見た目からして…何かの反応を見ているのは間違いない。魔王の出現にさいしての特有の魔力の振動か物質を感知する装置かな?」

 魔王研究を踏まえて解析してみた。

「見ただけで分かってしまうのか…これの正体を知るのに何十年と研究を費やしてきたのにな…まあ気にしないでくれ。これは250年ほど前に名も知られない魔道士が作った物。当時はただの観賞用の何かだと思われていた。しかし100年ほど前の魔王の討伐をした時、この”星屑の鏡”から波紋が消え、名前の由来通り鏡のように平になったらしい。そして15日程前に星屑の鏡が一日ほど乱れた事があった」

 15日程前と言えばちょうど魔王の卵が出現し討伐したまでの間になる。

「何処かで出現したのは間違いないはずなのだが。一日で戻ってしまい、何かの間違いかもしれなくてね。今はこの装置が本当に魔王を探し出せる装置なのかと審議されている。もしもセレクト君…気がつくことがあれば教えて欲しい」

 何年もこの研究に没頭していたのだろう…このまま黙っていればオーウェンさんの研究は本当に水の泡になってしまう。

 そして僕には伝える義務がある。

「あの、僕はスペリアムで15日ほど前に魔王になりかけた…卵を倒しました」

 別にオーウェンさんが鎌を掛けた訳じゃない。

 驚いている顔を見れば良くわかる。

 生唾を飲み込み、僕への対応を考えて、今の話を聞かれてないかと周りを確認している。

「詳しくは向こうで二人で話そう」

「ベルモットとハーベスもこの話は知っています」

 僕達は個室へと連れて行かれ。

 そこで詳しくオーウェンさんに説明した。

 

「その時は女神リアム・レアル様の力を貸してもらって討伐する事が出来ました」

 訝しげな顔をするオーウェンさん

 彼はこの研究に対して何十年もしてきたのだろう、それなのに魔王が討伐されました、めでたしめでたしな訳が無い…

「真相を自分で確かめたいのでしたらスペリアム商会のグルーニーさんを訪ねてみてください。この羽と僕の名前を出せば教えてくれるはずです」

「ああ、すまない。疑っているわけじゃないんだ。まだ星屑の鏡の波紋は消えてはいない…」

「…はい、まだ何処かに魔王の卵が眠っているかもしれません」

 その真相をを確かめられたと満足そうにオーウェンさんは頷いた。

「セレクト君、私は魔王が倒された事について思う所は何も無い。むしろ討伐されていてホッとしている。それよりもこの研究が無駄になってしまう事が問題だったのだ。この後にもまだ続いていく歴史にこの装置を残せそうで私は誇らしく思える。ありがとう、セレクト君」

 何かの迷いが無くなったオーウェンさんの顔は晴れていて。

 部屋を出るなり研究者達を集め、魔王が出現し倒されていた事だけを話す。

 研究者一同が最初は驚いたが、この装置が確実に動いている事の証明なのだと喜ぶ。

 続けてまだ魔王の卵が眠っているかもしれないと事を伝えると皆の気が引き締まる。

「では、各自研究を続けてくれ!」

 てきぱきと動く研究者の中には涙を拭いている者もいる。

 研究室全体に活力が溢れているのを感じた。

「さあ見学の再開だ。外の研究棟を紹介する前にお昼にしよう」

 そう言って以外と豪華な食堂で食事をした。

 ここの研究員のほとんどが貴族の出だと言うので、いたる所豪華に作られているらしい…

 午後は外の研究棟をいくつか見学させてもらい、日が暮れる前に帰る事にした。


「今日は楽しかったです、ありがとうございました」

「いや、楽しんでいたのは私の方だ。なにより得られたものは私達のほうが何倍も多い。本当にありがとう」

 何回も感謝されてしまう…

「その…また来てもいいですか?」

「もちろんだ!…そうだ、ウェルキンさんから話が来ていたんだ。先日のカメラという風景を写す物の事で…」

 話を要約するとウェルキンさん達がセントラルへと依頼をし共同開発をしたという事にして、カメラを国や商会、貴族に高価な値段で売り出すつもりらしい。

 そのことで今一度僕に話が戻ってきたとの事だ。

「ウェルキンさんに任せてますので。売買等の話も構いません…」

 軍事利用はされる…正確な情報伝達としてこのカメラは大いに活躍するからだ。

 ただし、それ以上に商会の商品から地方の村々の現状を詳しく知るためのツールとなる。

 近い内に写真付きの新聞なんかも発行されたりもするかもと思えば…僕は売買に関しては賛成だ。

 値段の設定なんかに関しては金貨数枚での取引となる。

 少しでもこの研究機関、学園の糧となってくれる事を祈ろう。

 




 そして僕達はセントラルから帰り、馬車を返し、寮へと戻ってきた。

「じゃあ。ハーベスまたな…あ、そういえば夏休みだしハーベスも帰省するのか?」

「僕はまだ学園にいるよ。この数日は祭りに来た貴族達で混むからね、搭乗券が高くてダメだよ。そういうセレクトはどうなんだい?」

「帰るつもりだったけど…お金がないからな。どうだろう…」

「そうなのかい…僕の実家に遊びに来るかい?お金なら僕がだそう」

「そうなると、マリーも漏れなく付いてくるぞ?そういうのはベルモットに言ってやれ」

「それは厄介だね…じゃあまた近い内に会おう」

 学園を離れる前に一度会うことを約束し、一般寮へと戻る。

 そんな道すがら…


 僕はお金の面で今年の夏は帰れるのか、悩みながら歩いている。

「………」

 そして…僕は何者かにより監視されている…そんな気がしてならない。

 ヤルグの刺客に見張られていた経緯もあり、若干だが鋭くはなっている。

 とりあえずは丁度死角になりそうな曲がり道で不可視の結界を張る。

 これはごく単純に前方の風景を後方に写すだけの結界。

 すると何の音もなく、茂みから人影が出てきて周囲を確認する。

 僕はこの人物を知らない…

 見た目は一般人と何ら変わりはないが…中性的な顔立ちで男か女か分からない。まるで印象に残らない… 

 野放しにするのも危ないと思い…

「何かをお探しですか?」

 結界を解き話しかけてみた。

 その見知らぬ人物が振り向いた瞬間、一瞬だけ光るものが見え。

 少し避けると後ろの木に刃物が刺ささる音がした。

「危ないな…お前は誰だよ」

 僕がコンタクトを試みると茂みに逃げようとする。

 しかし、僕は結界を張りめぐらせ逃がさない。

 滑稽にも結界にぶつかり慌てていた。

「無理だよ、もう逃げられない」

 僕が話しかけているのにその者は何度も結界に攻撃を仕掛けてこじ開けようとしている。

「無駄だってば」

 結界を収縮し捕まえる。

「これで身動きも出来ないだろ」

 次にピタリと動きを止め、静かになる。

 抵抗を辞めたかと思ったが、一流の暗殺者は情報がバレないようにと毒を仕込んでいるなんて話を思い出す。

 そして調べてみれば案の定…

「それも無駄だから」

 魔法で体内に回る毒を一瞬で解析し分解する。

 しかしその者は気を失っていて起きる気配は無い。

「誰かに見られたらまずいしな…とりあえず部屋に運ぶか」


 部屋の中。

 ベッドに横たわる者を見てから…

 身ぐるみをはがす。分かっていたが大量の暗殺道具が出てくる。

「猫耳か…それとここもだよな…」

 中性的な顔立ちで年齢は僕よりも下に見える。

 そして胸には膨らみがあるが…

 ゴクリと生唾を飲み込み………

 女性としての胸の膨らみは本物だった。

 いや触ったわけじゃない!ちょっと谷間を覗いただけだ!!

 そして下腹部、股間の位置にも何か隠しているようだ。

 触るのはとても抵抗はあったが、また毒で気絶されたら困るので思い切って確かめてみる。

 最初は毒袋でも隠し持っているのかと思ったが…

「マジか…両性具有ってやつだよな。染色体異常とホルモンバランスが原因だったかな……僕を殺そうとしたし。弄ってみるか。今後の研究にも役立ちそうだし…」

 道徳的には反しているが殺そうとした相手に情けをかけるのもどうかと思う。

「女性としての特徴が大きいから、男性ホルモンの働きを抑えたら女性になるかもな…」

 男性と女性では魔力の流れが多少違う所がある、そこを少し弄ればホルモンのバランスに影響が出せるかもしれない。

「よし、これでいいかな?…にしても」

 僕はいつか命を狙われる事はあると思ったが、なにせ早すぎる気がする。

 獣人としての特徴からセプタニアの人間の可能性が高い。

 両性具有であるなら何かしらの迫害もあり暗殺者として生きていく道を選んだのだろう。

 しかし、彼女の技術は誰かに教えられたもので、身分もそれなりにあるかもしれない…

 ヤルグがしくじった事も考えたが、もう一つの可能性として何者かに仕えていて、その人物も身分が高い…メルヴィナ・ドラグ・セプタニアン。

 最近であった中で従者を連れずに歩いている姫様が思い浮かぶ。

 違ったとしてもいい、鎌を掛けるには十分だ。

 僕は目の前の暗殺者が起きるのをじっと待った。


「………」

「起きたんだろ?バレてるぞ」

 体内の魔力の流れで覚醒したとこは分かる。

「………」

 目を見開いて僕を見るが、無口のままだ。

 それにこいつが動けないのは僕がまだ結界を解いていないから。

「なんで生きてるのか気になる?僕が解毒したんだ。魔法って本当に便利だよ」

 それでも反応がない…

「まあいいや、メルヴィナの姫様が僕にこんな暗殺者を送ったらどうなるのか、見せしめぐらいにはなるかな」

 反応は無いが…体内の魔力の流れが乱れた事で証明される。

「本当に姫様が差し向けたのか…マリーになんて説明すりゃいいんだよ」

「…やめろ…やめてくれ…これは私個人がやったことだ…メルヴィナ様は関係ない!」

 白状し激昂するが、命令しなかったという証拠は何も無い。

「それを信用しろって?殺そうとして?ふざけるなよ…こっちは神経尖らせて毎日生きてるんだ」

「…本当にすまなかった…あのマリーと言う化物の情報を探していたら、お前に辿りついたんだが、途中で情報があやふやになり…仕方なく足取りを追わせてもらった」

 情報があやふやになったのは商人達がデマの情報を流してくれたからだろう。

 にしてもマリーを化物という言動がとても腹立たしい…

「で、仕方なく僕を殺そうとしたと…」

「あれは私の癖だ…背後を取られつい投げてしまった…」

「はあ…で、逃げられないから死ぬと?」

「メルヴィナ様への忠義を裏切った行動がばれてしまえば死ぬしか他に無い。それが闇に生きる者の定めだ」

 とても忠誠心があるようだが、やはり証拠は何も無い。

 信じるには値しない。

 しかし、切実な目力がすごい。今にも泣き出してしまいそうで…

「あのさ、僕は君をこの後どうこうしようなんて考えていないから、あえて言えば警備隊の人に突き出すぐらいなんだけど」

「そ、それだけはやめてくれ!メルヴィナ様に申し訳が立たない!ならいっその事殺してくれ!」

 人を殺すなど出来るはずがない…しかもこんな無防備な相手を…

「それはわがままって言うんだよ。それに君を殺したら姫様は悲しむんじゃない?」

「そんなこと…」

「ないわけ無いだろ。どう見たって情に厚い人じゃないか。君を囲っているのもきっと君のためだろ?」

「…見たのか。私の体を…」

「少しね」

 ついでに弄ったなんて言えない…黙っておこう。

「だろうな、誰も好き好んでこの体など触らない。しかしメルヴィナ様は違う、こんな私でさえも分け隔てなく接してくれた!」

「でしょうね」

 マリーとのやり取りを見ていれば分かる。

 ただそんな僕の知ったような口ぶりが癇に触ったのか。

「お前に何が分かる!メルヴィナ様の孤独を理解出来るものか!」

「ほう、そんな孤独な姫様をお前は悲しませようとしてるんだけど。いいのかな?理解していて悲しませるんだ?それって凄く非道なことじゃない?ああ、恩を仇で返すのか…暗殺者らしいね」

「………」

 言い返せなくなったのだろう、目に涙が溜まっていく。

「はあ…どんだけ姫様が好きなんだよ。暗殺者にしてはペラペラ心情を喋り過ぎだし。信用してもいいかなって思ってきちゃったし…はあ」

 ハニートラップの様な罠だとすれば効果は抜群だが…

 目の前の自称闇に生きる者の結界を解く。

「下手なまねしたら手加減しないからね…」

 何時でも反撃出来るように、見えないところで魔法を構える。

 これで、攻撃してこようものなら気兼ねなくお縄に出来る。

「何故だ…殺さないのか?」

「しないよ、めんどくさい。後片付けもそうだし、僕にはそんな度胸はありません。好きなように出て行ってください。それともう関わらないでください」

「また、お前を付け狙うかもしれないんだぞ?」

「そうだね、じゃあ保険をかけておこうか」

 するりと腕に布を巻く。そしてその上に魔法を描く。

 僕に近づけば知らせてくれる魔法だ。

「なんだコレは…」

「内緒…体を抑制したり危害を加えるものじゃないよ。ほら、好きな所へお帰り」

 まるで鳥を空に帰すかのように言う。

「そうだった。名前を聞いてなかったけど教えてくれる?」

 部屋の扉の前、出ていこうとする後ろ姿に聞いた。

「…ペトゥナ。それだけだ」

 答えると直ぐにその場から音も無く居なくなった。

 厄介な奴に目を付けられたと思ったがこの程度ならまだ問題は無い。

 最初から人質を取っていたら話は違ったのかもしれないが……

 今回はこれでいいと思うことにした。 


今回もまだまだ誤字脱字がーですが

そんな修正している時一つの誤字を見つけて酷いものがありました。

序盤の商人達の飲み会に行くと承諾し、ワインを取りに行ったところで。

”部屋の片隅、葡萄酒を入れていた箱の中は瓶が半分残っている、味を語るには十分だろう。”

という文章で”瓶”を間違えて”便”と書いてありました。

これでは、大量のうOこが入っているという描写になっていて…

BiとBeを間違えたんだと思います…

あわや大惨事物でした…

そんな事もあるので、誤字脱字に気づいた方はご一報ください。

お願いします。

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